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「レオナ、やっぱり可愛いね~」
「桐華姉ちゃん、あんまり引っ付かんといてくれへん?洗いにくいし」
「ナデナデしてあげるね」
「それは別にええけど、桐華姉ちゃんも洗濯もん手伝うてよ」
「手伝う手伝う」
「お前は、昔からレオナには激甘だな」
「だって、可愛いんだもん」
「そうゆうてくれるんはええけど、あんまりベタベタ触らんといてよ。乳にも触らんとって」
「えー。いいじゃん。レオナのちっちゃいし、揉んだら大きくなるよ」
「余計なお世話や!」
「いてっ!」
拳骨で桐華の頭を容赦なく殴る。
…レオナは相変わらず、桐華には厳しいな。
「でも、いろはねぇ。なんでボクまで洗濯物を洗わないといけないの?」
「お前の着た服や下着もあるだろ。普段は出てこないくせに、なんでってどういうことだよ」
「ボクはいろいろ忙しいんだよ…」
「何に忙しいんだ」
「みんなの服を縫ったり…」
「へぇ。桜て裁縫出来るんや」
「まあ…」
「ええなぁ。うち、裁縫だけは出来んねん。テュルクはようやりよんねんけど」
「テュルク…?誰?」
「うちの弟。めっちゃ可愛いねんで」
「ふぅん…」
「なんでもお姉ちゃんお姉ちゃんゆうて、うちんとこ来てくれんねん。ほしたら、ギューって抱き締めたって。それでニコニコ笑ってくれんのもまた可愛いてなぁ」
「ボクには弟とかいないからよく分かんないけどさ…。その話だと、レオナって、すっごくテュルクに依存してるんだね」
「そうだな。テュルク依存症だ」
「そんなことない」
「ぼくはレオナ依存症~」
「鬱陶しいわ!」
「あいたっ!」
また殴られてる…。
まあ、桐華はそれでも全然懲りないんだけど…。
「なぁ、桜」
「何?」
「うちにも裁縫教えてよ」
「いいけど」
「ホンマ?約束やで?」
「うん」
「寺子屋ない日は暇やし、また遊びに来るわ。そんときでええ?」
「いいよ、ボクは別に」
「えぇ~。レオナが遊びに来るんだったら、ぼく、ここに住んじゃうよ」
「桐華姉ちゃん、旅団はどないすんねん」
「ふふん。ぼくがいなくても大丈夫だもん」
「胸張ってゆうことちゃうやろ…」
「いいのいいの」
「とうかねぇが城に住むんだったら、ボクは毎日お茶を淹れてほしいな」
「あ、桜も飲むんだ」
「うん。お茶は結構好きだよ」
「いいよね、お茶って。奥が深いし」
「お茶菓子も美味しいしね」
「そうそう。いいお茶に、いいお茶菓子。それだけで大満足」
「そうやって、お茶菓子ばっかり食うてるから、太ってくんねやろ」
「ぼくは太ってるわけじゃないの。女の子はね、これくらいがちょうどいいんだよ。レオナも、もうちょっとぼくみたいになったら、お乳も大きくなるよ」
「うっさい!その話はすんなゆうたやろ!」
「いてて…。乱暴だなぁ…。紅葉に似ちゃダメだって、あれだけ言ったのに…」
「とうかねぇが、レオナの毛を逆撫でてるようにしか見えないけど…」
「だってぇ、レオナ、可愛いんだもん。ぼくの可愛い妹。ナデナデ」
「鬱陶しいわ、ホンマ!」
「とうかねぇ、構いすぎなんじゃ…」
「まあ、そうだな」
「昔からこうなの?」
「昔っからや」
「昔からだな」
「ちっちゃいときなんてね、子供らしい高い声で、桐華姉ちゃんのアホ!とか言ってて、すごく可愛かったんだ。ギューって抱き締めたら、もっと怒ってさぁ。今は手が先に出てるけど」
「レオナのテュルクに対するみたいなかんじだね」
「うち、こんなんちゃうし!」
「まあ、桐華に対するレオナの反応と、レオナに対するテュルクの反応は違うが、桐華のやってることと、レオナのやってることは、同じようなものだな」
「ちゃう!全然ちゃう!うちは、お姉ちゃんとして、しっかりテュルクの面倒見てるんや!桐華姉ちゃんは、ただうちに構いたいだけやろ!」
「怒った顔も可愛い…」
「うっさいわ!」
「いたっ…」
本当に、似た者姉妹だと思うよ。
相手が大好きで、それに対して積極的に行動するあたりが。
相手の反応は正反対だけど。
「はぁ…。それにしても、洗濯物、さっきから全然減らないね…」
「喋ってて、手が止まってるからだろ」
「いつになったら終わるのかな…」
「洗濯物がなくなったら終わるんじゃないか?」
「そうだけど…」
「桐華姉ちゃんも手伝えてゆうてんのに、いつんなったら手伝うねん」
「レオナが、抱き締めさせてくれたら」
「はぁ…。ほんなら、さっさと済ませて、はよ手伝いーな…」
「えっ、いいの?」
「あと三秒以内にやらんねやったらなしや。三、二…」
「わっ、わっ!」
慌ててレオナを抱き締める桐華。
雰囲気も何もあったものじゃないが、桐華はそれで満足のようだった。
対して、レオナはため息をついて呆れ顔。
でも、また半分狼化している。
桜も桐華も気付かないうちに、また戻ったけど。
…まったく、何やってるんだか。
「はい、終わり。はよ手伝い」
「あ、うん…」
「レオナ、なんか嬉しそうだったね」
「何が嬉しいねん!」
「ほら、ムキになっちゃってるしさ」
「なってへんし、なんも嬉しない!」
「でも、とうかねぇに抱き締められたとき、尻尾振ってたじゃん」
「ふ、振ってへんわ!アホか!」
「えぇ~」
「もう…。紅葉姉ちゃぁん…。なんとかしてぇ…」
「レオナ、ぼくに甘えてもいいんだよ?」
「元凶がアホ言いな」
「えぇ…」
「まったく…。早く終わらせないと、残ってるのは、あとはオレたちだけだぞ」
「えっ、ホントに?」
「ホンマや…。誰もおらんし…」
「誰のせいで遅くなったのよ」
「主に桐華姉ちゃんのせいやろ…」
「違うね。レオナが可愛すぎるのがダメなんだよ」
「アホか」
「もうどうでもいいから、早く終わらせようよ!」
「うっ…。せやな…」
「すみません…」
「はぁ…」
それから、四人で寂しく残りの洗濯物を洗っていく。
その間も、桐華はレオナにちょっかいを出して、威嚇されてたけど。
…二人合わさると、手間の掛かる姉妹だよ、まったく。
桐華は一人でも手間が掛かるが…。