表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
39/578

39

「…何してるの?」

「ん?訓練」

「訓練?」


まあ、鳴らない笛をくわえて洗濯をする様子は、どう見ても変だろう。


「この笛の音を聞けるように訓練してるんだ」

「それ、鳴ってるの?」

「今はまだ吹いてない」

「なぁんだ」


と、ここで吹いてみる。

周りを見回してみると、特殊伝令班員全員と伝令班の半数、他の班員の一部、そして明日香が反応した。


「その笛ってどこで使ってるの?」

「特殊な伝令を出すときとか、あとは動物を使ったりするときに使う」

「ふぅん」


…それにしても、やっぱり望にはまだ早かったかな。


「お母さん、今、笛鳴らした?」

「ん?おぉ、望か」

「鳴ってたの?」

「どこにいたんだ?」

「広場だよ」

「望!遊んでないで、ちゃんと手伝いなさいよ!」

「えぇ~…」

「まあそれは置いといて、広場から聞こえたのなら、だいぶすごいぞ。あと何回か鳴らすから、この調子で頑張れ」

「うん!」

「あぁっ!こら!待ちなさい!」


そして、風華共々どこかへ駆けていった。

でも、風華はどんどん離されていってる。


「良いね。望」

「ああ。走るのも速いし、良い班員になるぞ」

「ホント、紅葉ってそんなのばっかりだよね」

「香具夜も似たようなものだろ」

「えぇ~、そんなことないよ」

「どうだか」

「あ、そうそう。光だけど、遠伝令はどうかな?すごく速いよね」

「光に聞いてみろよ。伝令班に入りたいって言うんだったら、訓練してみればいいじゃないか」

「紅葉じゃないからね。若い芽を摘み取るようなことはしないよ」

「摘み取ってないだろ!才能を発掘してるんだ!」

「ふぅん」

「人聞きの悪いことを言うなよ…まったく…」

「ふふ、いいじゃない。たまには」


…本当にたまになら良いんだけど、香具夜の場合はそうはいかないからな。

もうちょっと抑えてくれないかな…。


「はぁ…。逃げ足だけは速いんだから…」

「では、隊長。持ち場に戻りますね」

「ああ。出来れば、もう来てくれるな」

「ふふふ。それは無理ですね」

「そうだろうな」


そして、香具夜は元の場所に戻っていった。

一方、風華は疲れた様子で座り込み、ため息をつきながら洗濯の続きをする。


「また笛吹いてくれない?今度こそ捕まえておくからさ」

「自分で吹いてみたらどうだ」

「でも、鳴ってるかどうか分かんないもん」

「じゃあ、風華も訓練してみるか?」

「うーん…どうしようかな…」

「やってみたらどうですか?出来ることはいくらあっても困りませんから」

「お前…今帰ったばっかりだろ…」

「でも、これは何の役に立つの?」

「そうですね。個人連絡や緊張連絡に使えます。あとは、あらかじめ信号を決めておけば、秘密の連絡にも使えますよ」

「へぇ~。それならいいかも」

「余り、あったかな?」

「見てきましょうか?」

「そうだな。頼む」

「了解しました」


香具夜はすぐさま駆け出す。

このついでに、二回目を吹く。


「私でも聞こえるようになるかな?」

「ああ。耳の良い狼や兎が有利とも言われるけど、人で聞こえるのもいる。実際、特殊伝令班員にもいるしな」

「へぇ」

「まあ、平均して五日も訓練すれば、静かな場所なら聞き取れるようになる」

「鳴らした?」

「ああ。どこにいた?」

「桜お姉ちゃんの部屋だよ」

「よく聞こえたな…」

「もう!なんでそんなところにいるのよ!」


桜の部屋…つまり、元々の地下牢といえば、中の音はよく響くが、外の音はなかなか届かないという構造になっている。

その状況で聞こえるとなれば、いよいよ本物かもしれない。


「よし。試験終了だ。…正式にこの笛を使う許可を出す。上手く使えよ」

「うん!」

「望。それも良いけど、ちゃんと洗濯も手伝いなさいよ」

「うん。分かった」

「じゃあ、今から…」

「でも、明日からね!」

「こらっ!望!待ちなさーい!」


また賑やかに望との追いかけっこになる。


「あれ?また行っちゃったの?」

「ああ。それで、残ってたか?」

「壊れて音がおかしいのが一個しか残ってなかったよ。またいくつか発注しておく?」

「そうだな…。風華の分はまた新しく買うとして…。別にいいんじゃないか?増員もないだろうし」

「そうだね。じゃあ、風ちゃんのはどうする?」

「また洗濯物が終わったら買いにいくよ」

「ふふふっ」

「どうした?」

「いや、ホント、短い間に変わったなって」

「…誰が」

「やだなぁ。紅葉だよ」

「変わってない」

「変わったよ。…すっかり丸くなって。良い顔をするようになったよ。昔みたいにね」

「………」

「もう忘れちゃダメだよ」

「…うん」


香具夜の言う通り、変わったのかもしれない。

あの蜂起以来、心に余裕が出来たのは確かだ。


「ふふ、それだけじゃないでしょ」

「な、何が!」

「くっふふふ」


そのあとは、笑うばっかりで。

他に、どんな理由があるんだよ!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ