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私の昼ごはんは、美希が持ってきてくれたおにぎりだった。

風華が手配してくれたらしいが。

りるはちゃんと厨房まで昼ごはんを食べに行ったようだけど、香具夜の話によると、帰りに広間の押し入れに閉じ籠もってしまったようだ。

なぜか、というのは分からないが、出てくる様子もないらしい。


「だからさ、紅葉が見に行ってやんなよ」

「なんでだよ」

「りる、出てこないよ、あれは」

「いいじゃないか。一人になって考えたい、ということだろ。そこにわざわざ干渉しに行くなんて、バカバカしいとは思わないか?」

「ああやって気を引いて、構ってほしいのかもしれないじゃない」

「りるはそういうやつじゃないよ。構ってほしいなら、自分から近付いてくる」

「はぁ…。まあ、紅葉がそう言うんだったら、私は何も言えないけどさ」

「そうか」

「…あ、そうだ。ロセだけどさ」

「ん?そういえば見ないな。帰ったのか?」

「ううん。なんかね、伊織と蓮の家に住んじゃってるみたい」

「どういう意味だよ」

「あの家さ、二人用には広く作りすぎたじゃない?」

「まあ、本当に、ちょっとした家になってるからな」

「それでさ、土間に竃を入れたり、部屋の真ん中に囲炉裏とか作って、本格的な家にしちゃったみたいなのよ」

「いつの間に…」

「私たちも知らなかったんだけどさ。ほら、ロセって無茶苦茶なところがあるじゃない。みんなで、あそこに引っ越すんじゃないかって噂してるんだよ」

「まあ、それはないと思うけど…」

「そうだけどさぁ。伊織も蓮も、使えないじゃない。竃とか囲炉裏とか」

「誰か使うだろ。調理班のやつらとか。家出したくなったやつとか」

「もう…。適当なことばっかり言って…。伊織と蓮の家なんでしょ?」

「もともとあいつらは、狭い洞窟に住んでたんだ。あの家なら、他の誰かと一緒にいて、ちょうどくらいなんじゃないか?あいつらも、何か文句を言いにくるわけでもなし、そんなに毛を逆立てるほどのことでもないだろ」

「文句を言いにくるって、龍が何言ってるかなんて分からないじゃない」

「オレは分かるだろ。それで、あいつらは何も文句は言ってない」

「我慢してるんじゃないの?」

「それなら、それはあいつら自身の責任だ。オレたちがどうこう言うようなことではない」

「ホント、紅葉って冷たいよね」

「必要な厳しさだろ」

「物は言い様だね」

「お前が構いすぎなんだよ。子供なんてのは、適度に厳しくして、どうしても甘えたいときにだけ甘やかしてやるのが一番なんだよ。今回のりるもそうだ」

「へいへい。厳格な母親だこって」

「どうも」

「はぁ…。じゃあ、私は仕事に戻るから」

「ご苦労さま」

「これから苦労するのは、紅葉の方でしょ」

「どうだろうな。あいつらのことで、苦になるようなことは何もないよ」

「おぉ、眩し」

「ふん」

「まあ、しっかりやってあげなさいよ」

「言われなくても」

「はいはい。じゃあ、またあとで」

「ああ」


軽く手を振ると、香具夜は部屋を出ていって。

出た直後、何か驚いたような顔をして、ニヤリと笑ってこっちを見る。

それから、自分の仕事へと戻っていって。

…まあ、だいたい予想はつくけど、知らないフリをして待ってみる。


「………」


おにぎりを齧りながら、広場を見てみると。

昼ごはんはもう食べたのだろうか、子供たちが戻ってきていて、狼になってるアセナとテュルクと駆け競べをしているみたいだった。

やはり、野性というものにはなかなか勝てないようで、アセナの勝鬨が時折聞こえてくる。

それでも、どうしても勝てない相手、というのはいるらしい。

アセナが何回駆け競べをしても勝てない相手。

それは、光だった。

駆け競べというか、光は滑空をしているんだけど、助走もせずに、初速でほぼ全開で、そして、アセナが半分も走らないうちに向こうに着いてる、という圧倒的な速さを見せていて。

アセナが何度も挑戦状を叩きつけるものだから、周りの応援にも熱が入ってきて。


「お母さん…」

「ん?どうした」


アセナの何回目かの挑戦が失敗に終わったのを見届けたとき。

やっと決心がついたのか、サンが部屋に入ってきた。

りるのときと同じように膝を叩くと、トコトコと歩いてきて、少し遠慮がちに座る。

…さっき、香具夜がニヤリとしたのは、サンが入口のところにいたからだろう。

わざわざ報せることもないのに、あいつは…。


「………」

「………」


サンは、少し考え込むように俯いて。

それから、ゆっくりと、こちらを見上げてくる。


「あのね」

「うん」

「りると喧嘩したんだ」

「知ってる」

「うん…」

「………」

「………」


そこで黙り込んでしまう。

また何かを考えているようだった。


「あのね…」

「うん」

「りると喧嘩したんだ…」

「知ってるよ」

「うん…」

「………」

「それでね…」

「ん?」

「………」

「………」

「それでね…」

「うん」

「サンが悪いんだ…」

「どうしてそう思う?」

「りるがね、ちゃんと謝ってるのに、ずっと赦してあげなかったから…」

「…そうか」

「風華お姉ちゃんに怒られてね、謝ろうかなって思ったんだ…。でも、りるの顔をちゃんと見れなくて…。きっと、りるは赦してくれないって思うんだ…」

「なんで、そう思う?」

「だって、いっぱい怪我させたし、いっぱい怒ったし…」

「そうだな」

「どうしたらいいの…?りると、もう遊べないのかな…」

「大丈夫だ、サン。私と一緒に、どうやったら赦してもらえるか、考えよう」

「うぅ…うえぇ…」


ボロボロと、涙が頬を伝っていく。

…不安で仕方ないんだろう。

りるも、我慢はしていたけど、きっとサンと同じ。


「うぅ…」

「………」


さて、どうしたものかな。

二人とも、自分が悪いと言ってる。

それから、赦してもらえないと。

こうなると、なかなか難しくなるな…。

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