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屋根縁から広場を眺める。

子供たちが、おいかけっこだろうか、縦横無尽に走り回っている。

広場のほとんど半分を占める花畑予定地では、望とナナヤが何やら土いじりをしていて。

その横で退屈そうに寝そべるセトが、すぐにやってくる子供たちを花畑予定地から遠ざけているけど、それでも入ってくる子供は、ナナヤが追い払っていた。

でも、望自身は別に構わないといった様子で、ジッと土を見つめている。


「何見てんの?」

「子供」

「みんな遊んでるね」

「ああ」

「望、結局、半分くらい掘り返したね」

「そうだな」

「まあ、半分掘り返しても、まだまだ広いけど…」

「そうだな」

「りるは?いる?」

「あそこだ」


りるは、よく目立つ金髪なので、すぐに見つかる。

葛葉とサンもそうだけど、りるはその中でも一番元気に走り回ってるやつだ。

葛葉は自分の調子でゆったり走ったり歩いたりしてることが多いし、サンは走り回るというより、むしろ、飛び回っている。

こんなに遠くからでも、みんな一人一人、はっきりとした個性があるから、見分けるのなんて造作もないことだ。

…と、廊下からヒタヒタと足音が聞こえてくる。


「風華おねーちゃぁん…」

「なんだ?」

「怪我したんでしょ。はいはい、こっち入ってきて」

「うぅ…」


聞き覚えのある声だと思ったら、入ってきたのはアセナだった。

全身泥だらけで、いろんなところを擦り剥いている。


「あっ。紅葉おねーちゃん!」

「アセナ。遊びにきたのか?」

「うん!そうだよ!」

「あれ?知り合い?」

「まあな。風華こそ、こいつのこと、知ってたのか」

「ちょくちょく遊びにきてるよ。気付かなかった?」

「まあ、そうだな…」

「アセナは、よく怪我して来るよね」

「えへへ」


話が途切れたと見ると、こちらに走ってきて、飛び付いてくる。

それから、泥だらけの笑顔を見せてくれて。


「あーあ、姉ちゃんの服が…」

「洗えば済む話だろ。しかし、派手に転んだんだな」

「それだけじゃないよ、普段は。藪の中を走ってきたりしてね、虫に噛まれたりして。百足取りしてたら百足に噛まれたって、そりゃそうでしょ」

「まあ、アセナのやりそうなことではある」

「そしたら、いつでも泣きながら私のところに来てさ」

「風華なら治してくれるって分かってるんじゃないか?」

「まあ、手当てはするけど…。とりあえず、アセナ。泥だけでも流そっか」

「うん!」


さっきまで泣いてたのはどこへやらだな。

風華を見ると安心するんだろうか。

部屋の隅の水洗い場で、泥を落としている。

…いつの間に水道を引いてきたんだ。


「いつ出来たんだ、それ」

「あれ?気付かなかった?割と前から作ってもらってたよ。子供たちがさ、怪我して泥だらけのまま来るから」

「ふぅん…」

「観察力が足りないね」

「………」


薬棚の方なんて、滅多に見ないしな…。

しかも、隅っこにあれだけひっそりと設置されては、私が気付く隙もない。


「水鉄砲~」

「あっ、こらっ!どこから持ってきたの!」

「ピュ~」

「わっ、こらっ!やめなさい!」

「あはは!風華おねーちゃんもびしょびしょ~」

「もう…」

「紅葉おねーちゃんも!」

「ふん。甘いな」


突撃してきたアセナの手を取って水鉄砲を奪い、中の水を全部アセナの顔に掛けてやる。

満タンにしてきたみたいで、相当量入っていた。


「んー…。鼻に入った…」

「オレに歯向かうやつが悪いな」

「はっくしゅ!」

「もう…。姉ちゃんまで…。アセナが風邪引くでしょ?」

「風邪を引いたくらいで、ちょうどいい大人しさになるかもな」

「バカなこと言ってないの。ほら、アセナ。これで拭きなさい」

「んー」


風華から手拭いを受け取って、顔をゴシゴシと拭く。

それから、頭を振って髪の毛の水を飛ばすと、またニッコリ笑って。


「はいっ!」

「うん。じゃあ、絆創膏でも貼っとこうか」

「おっきいのがいいな!」

「えぇ…?まさか、それが目当てで転んできたんじゃないでしょうね?」

「えへへ」

「はぁ…。分かったよ…」


風華は救急箱から一際大きな絆創膏を取り出すと、傷口をきちんと消毒してから、アセナの膝に貼り付ける。

他の傷にも、適当な大きさの絆創膏を貼り付けていって。


「はい、出来たよ」

「えへへ、ありがとー」

「ほら、行ってきなさい」

「うん!また来るね!」

「なるべくなら、来なくて済むようにしてほしいんだけどね…」

「善処します」

「どこで覚えてくるのよ、そんな言葉…」

「えへへ。じゃあね!」

「はいはい」


ブンブンと手を振って、それから、狼に変化してから走っていく。

風華は呆れたような、でも、少し嬉しいような、そんな顔をしていた。


「…あっ、そうだ、姉ちゃん」

「なんだ」

「今もだけど…アセナが狼になれるって知ってた?」

「知ってるけど」

「そうなんだ。でも、あれって反転の術式だよね。どこで知ったんだろ」

「さあな。生得のものじゃないか?」

「ふぅん…」

「あそこの兄弟は、みんな使えるみたいだ」

「みんなって?何人兄弟なの?」

「四人」

「へぇ…」

「一番上がリュカで、オレと同い年。二番目がレオナで、十七。三番目があいつ。十一だ、あれで。それで、ひとつ下で、テュルクが末っ子だ」

「テュルクは知ってるよ。いつもアセナに連れてこられてるから」

「そうか」

「リュカさんとレオナは何してるの?」

「リュカは、ツカサと同じようなかんじらしい。レオナは、寺子屋で何かを教えてるらしい」

「ふぅん…」

「まあ、気になるなら会ってこいよ」

「それはそうだけど…」

「レオナから入った方がいいと思うけどな。リュカは無愛想で絡みにくいやつだし」

「姉ちゃんに似てるんだね」

「似てない」

「えぇ~」

「全然似てない」

「そうかなぁ。でも、同い年ってことは、幼馴染みだったりするの?」

「まあな。一刀ってやつが昔に衛士をやってたんだけど、みんなそいつの子供だ」

「ふぅん」

「とりあえず、レオナから入ることだな。また機会があったら紹介してやろう」

「そうだね。よろしく」


まったく、リュカはどこから手を付けたものか分からないだろうからな。

暗いし、無口だし、声も低いし。

その点、レオナは明るいし、お喋りだし、接しやすいのは確かだろう。

少し短気なのが玉に瑕だけど。

まあ、アセナが懐いているなら、レオナとも上手くやっていけるだろう。

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