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柵に腰掛ける。

冷たい夜風が、頬を撫でて。

…他の人と違うということが、人を遠ざける。

術式を使えるだけで、あんな姿になることが出来るだけで。

レオナやアセナ、テュルクは居場所を見つけられたと言っていた。


「あれ?姉さん、夕飯は?」

「もう食べてきた」

「ふぅん?どこで?」

「厨房で」

「なんだ。みんなと一緒に食べてきたらいいのに」

「………」

「…元気ないね。どうかした?」

「久しぶりに、幼馴染みに会ったんだ」

「ふぅん…。幼馴染み?」

「ああ。リュカってやつだ」

「へぇ、リュカさん」

「知ってるのか?」

「まあ。たまに、仕事も一緒になるし」

「何やってるんだ、あいつは」

「幼馴染みの割に、何も知らないんだな」

「まあな…。今日も、久しぶりに会ったくらいだし…」

「うーん…。そういえば、幼馴染みだからって、いつも傍にいるわけじゃないか…」

「………」

「リュカさんは、俺と同じだよ。必要なときに、必要なところに」

「ふぅん…」

「オカマ長屋に住んでるらしいよ。実家は近くにあるらしいけど」

「あの長屋か…。お前は、リュカと話したことはあるか?」

「よく話すよ。やっぱり、同じ仕事だし」

「お前たちみたいなやつは、他にはいるのか?」

「いないよ。あちこち行くくらいなら、みんな、ひとつのところで働きたがるしね。まあ、他といえば、旅の人の短期雇用くらいかな。市場全体で雇ってさ」

「ふぅん…」

「リュカさんには、結構よくしてもらってるんだ。…口は悪いけど。優しい人だよ」

「分かってる」

「うん」

「…それで、何か話を聞いたりしてないか?」

「話?たとえば?」

「あいつ自身のこととか」

「ん?そりゃ、いろいろ聞いてはいるけど。兄弟の話とか、家の話とか。…姉さんが聞きたいのは、具体的に何の話なんだよ」

「………」

「言えないほど深刻な話、か。じゃあ、これと同じ力のことかな」


そう言いながら、首飾りをいじって。

それから、黒い犬に変化してみせる。


「ウゥ…。なんてね」

「ふん」

「なんか、ずっと昔みたいなかんじがする。姉さんに、この姿を初めて見せたときが」

「…そうだな」


またもとの姿に戻って。

それから、私の正面に座る。


「リュカさんに初めて会ったとき、同じ匂いがするって言われたんだ」

「同じ匂い?」

「うん。独特の匂いがあるんだって、こういう力を使える人には」

「ふぅん?気付かなかったな…」

「同族にしか分からないんだってさ。俺も分からないんだけど…」

「そうか」

「まあ、初めて見せてもらったときは、正直ビックリしたけどな。これと同じ力を使える人が、他にもいるなんて」

「そうだな」

「でも、なんだか、リュカさん、安心したようなかんじだった。なんでかは知らないけど」

「なんでだろうな」


人とは違う力が他人を遠ざけるなら、同じ力は人を結びつけるのかもしれない。

そういう意味では、ツカサの存在は、リュカにとっては一種の救いだったんだろうか。

ツカサの話をしなかったのは、ツカサが衛士だということを知らなかったか、知ってたとしても、私がツカサの首飾りのことを知らない可能性だってあるから…ということだろう。

リュカ自身、周りにずっと隠していることだから。

私がツカサの力のことを知って、それが私とツカサの間を裂くようなことにはなってほしくなかったということだろうな。


「俺たちには、この力は、自分たちを守るための力だった。でも、リュカさんにとっては、何のための力だったのかな?」

「さあな…」

「リュカさんは、この力のせいで悩んでる。持ちたくもなかった、この力のせいで」

「お前もそう思うのか?持ちたくなかったと」

「なるべくならね。あんな生活をしてなければ、手にすることもなかった力なんだから」

「………」

「何なんだろうね、これって」


そう言いながら、さっきのリュカのように、半獣の姿になって。

夜空に、その手を透かせてみる。


「お姉ちゃんにツカサ。何やってんの?」

「ん?なんだ、ナナヤか…」

「なんだはないと思うけど?」

「何もしてないよ、別に」

「ふぅん…。まあ、いいけどさ。ところで、ツカサ。その姿」

「ん?あぁ。なんか、久しぶりだよな」

「そうだね…」

「あ、ごめん…。嫌なこと、思い出すよな…」

「ううん。私、ツカサのその姿、結構好きだよ」

「お、おい…」


ナナヤは、フサフサの毛が生えているツカサの胸に抱きつく。

それから、大きく息を吸って。


「獣っぽい匂いって、私、好きだな」

「ちょっと離れろよ…」

「照れてる?」

「照れてない!」

「ふふふ。ツカサってば、純情だもんね」

「か、からかうな!」

「お前ら。オレの前であんまりイチャイチャするな」

「お姉ちゃん、妬いてるの?」

「あいにく、オレはツカサみたいに純情じゃないんでな」

「えぇ~」

「ナ、ナナヤ…」

「いーじゃん、ツカサ。…なんか久しぶりだしさ。安心するんだ、こうしてると。だから、ごめんね、お姉ちゃん」


そう言いながら、またツカサの胸に顔を埋めて、深く息を吸う。

ツカサは、もう諦めたように、ナナヤの頭を撫でていて。


「懐かしい。今となっては。嫌な思い出ばっかり消えていって、良い思い出は残ってる」

「…うん」

「落ち込んだり、泣きたいときなんかは、ツカサに慰めてもらってたね。半獣だったかどうかは置いといて」

「…そうだな」

「なんで泣いてたのかも忘れちゃったけど。それだけは、覚えてる」


ナナヤはツカサの首飾りに触れて。

それから、もう一度だけ息を吸い込むと、ツカサから離れた。


「まあ、今は、進太もいることだし」

「えっ?あ、うん…」

「でもさ」

「ん?」

「私、ツカサのことが好きだったのかもしれない」

「…え?」

「…ふふふ。冗談だよ!本気にしないでよ~」

「いや、してないけど…」

「それはそれで傷付く」

「えぇ…」

「まあ、もうすぐみんな帰ってくるはずだしさ。もとの姿に戻っといた方がいいよ」

「えっ?あ、うん」

「じゃあ、私は布団敷いとくね」

「あっ!忘れてた!」

「ほらほら。みんな帰ってくるよ」

「急がないと…」


ツカサは一瞬でもとの姿に戻ると、部屋の中へ入っていった。

それを見届けてから、ナナヤが隣に座ってきて。


「でも、案外冗談じゃないかもね」

「ツカサに言ってやれよ」

「今は、進太がいるしね。私にも、彼氏を選ぶ権利があるのです」

「ふん。仕方なしにツカサを選んでたというような口振りだな」

「まあ、違うけどね」


ツカサに聞こえないように小さく笑うと、ナナヤは立ち上がって。

それから、部屋の中に戻っていった。

…まあ、恋に発展しなかったのは、二人の置かれた状況のせいもあったのかもしれないが。

今は、よき兄妹、といったかんじだな。


「こらっ!枕を投げるな!」

「あはは、いいじゃん」

「おっ!なんかたのしそうなことをやってるな!凛もやる!」

「りるも~」

「ほら、真似するだろ!」

「ツカサもやればいいんだよ」

「こ、こら!三人ともやめろ!」


気苦労の絶えない兄貴の役目らしいな、ツカサは。

三人に集中攻撃されている。

…まあ、面白いからしばらく見てるか。

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