表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
38/578

38

甲高い音が響き渡る。


「なんだ!?」

「あ、おはよ」

「今の、望か!?」

「今って?」

「甲高い音だよ!」

「音?これかな?」


笛をくわえて吹く。

すると、さっきの音が鳴り響く。


「でも、何回吹いても音なんか出なかったよ?」

「出てるんだよ…」

「隊長。どうかしましたか?」

「いや…今のは望だ」

「望が?」

「ねぇ、これ、全然鳴らないよ?」

「あぁ…そういうことですか…」

「そういうことだ。戻ってくれ」

「はっ」


さて…。


「望。それは特殊伝令用の笛なんだ」

「……?」

「普通の人には聞こえない音が出てる」

「お母さんは聞こえてるの?」

「ああ。訓練を積めば、望でも聞こえるようになるぞ」

「ホント?」

「ああ」


それを聞いて、望は期待に目を輝かせて。


「訓練する!」

「そうだな。でも、まずは朝ごはんだ」

「うん!」


まだちょっと早いと思うけどな…。

部屋を出て、厨房へと向かう。


「桜お姉ちゃんも、この笛持ってたんだ~」

「まあ、いちおう桜も伝令班だからな」

「伝令班?」

「大切な手紙を届けたり、いろんなところに行ったりする班だ」

「へぇ~」


どうやら興味を持ってくれたらしい。

笛をジッと見て、ニコリと笑う。


「望にも出来るかな?」

「ああ」

「えへへ」

「でもまあ、まずは笛の音を聞けるようにならないとな」

「うん!」


望なら、きっと良い伝令班員になれるだろう。

今から楽しみだな。


「あれ?誰もいない?」

「やっぱり、ちょっと早かったか」


厨房にはやっぱり誰もいなくて。

とりあえず、雨戸を開けておく。


「どうするの?」

「待ってみるか」

「うん…」


席について、今日の当番を待つ。

望はというと、暇そうに笛をいじっている。

と、思ってたより早く来たようだ。

足音が近付いてくる。


「ふあぁ…眠…」

「おはよう」

「あ、隊長…。おはようございます…。今すぐ作りますんで…」

「望のを先に作ってやれ。腹空かせてるから」

「むぅ~…」

「どうせみんなの分、作りますから」

「まあ、そうだな」


そして、包丁とまな板を取り出して、早速調理を始める。

さすがに慣れた手付きで、あっと言う間に完成した。


「はい、どうぞ」

「早いな」

「出来合いですよ」

「いただきま~す!」

「いただきます」


出来合いとは言うけど、なかなかに美味しかった。


「美味しい~」

「ああ。美味いな」

「どうも。でも、それは灯に言ってあげてください。灯の残りですし」

「まあそうだけど、冷めた料理をまた美味しくするのは至難の技だ。そこは誇って良いと思うぞ」

「えへへ、ありがとうございます」


それから、他愛のない雑談を交わしつつ、朝ごはんを済ませた。


「さあ、物干し場に行こうか」

「洗濯の時間にはまだ早いですよ?」

「訓練だ」

「へぇ。何のです?」

「笛の音が聞こえるように訓練するの!」

「望は伝令班に入ったの?」

「ううん。まだだよ。でも、絶対入るんだ!」

「そう。ふふ、頑張ってね」

「うん!」


そして、厨房をあとにして、物干し場へ向かう。

今は誰もおらず、静かなものだった。


「よし。じゃあ、まず最初に、音を知るところから入ろうか」

「どういうこと?」

「知らない音を聞けと言われても聞けないだろ?」

「うん」

「だから、誰にでも聞こえる音から徐々に上げていって、最終的に笛の音が聞こえるようにするんだ」

「うん」

「笛の先を回してみろ」

「…あ、伸びた」

「吹いて」


望が息を吹き入れると、さっきより低い音がする。

それでも、他の音と比べても充分高いんだけど。


「何か聞こえる」

「意識して聞いてみろ。はっきり聞こえるようになったら、少しずつ戻していくんだ」

「うん」


聴覚に意識を集中させるため、自然と目を閉じる。

短く吹いたり、長く伸ばしてみたり。

いろんな吹き方を試しているようだ。


「だいぶ聞こえるようになったよ」

「じゃあ、試してみよう。オレが吹いてみるから、聞こえてる間、手を挙げて。聞こえなくなったら下ろすんだ」

「うん」


望から笛を受け取り、少し変則的に吹いてみる。

すると、完璧についてきていて。

少し意地悪をして、元の長さに近付けたりしても、ちゃんと聞き取っていた。

それじゃあと元の長さに戻してみても、全く遅れることもなく。


「試験終了だ」

「どうだった?」

「次の段階に行けるだろうな」

「ホント!?」

「ああ。ほら、最後は元の音で吹いてたんだ」

「えぇ!?」


望に笛を返すと、早速吹いてみる。

音に合わせて望の耳がピコピコ跳ねあがるのが面白くて。


「わぁ~」

「上達が早いな」

「そ、そうかな…」

「ああ。普通なら三日から五日は掛かる。それを、ほんのちょっとで終わらせたんだ。望には、才能があるんだな」

「えへへ…」


頭を撫でてやると、恥ずかしそうに頬を掻く。


「じゃあ、次は…」

「姉ちゃ~ん!出すの手伝って~!」

「ちょうどいい。普段、騒がしい中、あるいは、距離が離れてても聞き取れるようにする訓練だ。今の洗濯の時間に吹いてみるから、聞こえたらオレのところに来て、報告してくれ」

「うん」

「望も手伝って!」

「分かった~」


そして、風華の方へ走っていく。

…さて、次はどれくらいで聞き取れるようになるかな。

ふふ、本当に楽しみだ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ