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「なんだ、おねーちゃん。どこにいくんだ」

「ん?ちょっとな。というか、お前も行きたいって言ってただろ、あのとき」

「なにかあったか?」

「行くんだよ、まだ少し早いかもしれないがな。学者のところに」

「がくしゃ?おねーちゃんのともだちか?」

「あの図鑑を書いた者だ。私の友達というわけではない」

「なんだ。ともだちじゃないのか」

「友達ではないな」

「師匠!お待たせしました!って、凛?」

「なぁ、おねーちゃん」

「なんだ」

「おもいだしたぞ。凛もいくっていってた。あきかといっしょに」

「そうだな」

「それで、どこにいくんだ?」

「そうだったな…。お前はそこからだったな…」

「なぁ、どこにいくんだ?」

「さっきも言ったが、学者の家だ。ここに住所を控えてある」

「なんてかいてあるんだ?」

「学者の住所が書いてあるだけだよ。なんて書いてあるかは分からなくてもいいよ」

「ふぅん…」

「凛も行きますか?」

「ここにいくのか?」

「そうですよ」

「凛にもいけるのか?」

「歩いてもすぐですよ」

「あるいても?」

「はい」

「凛にもいけるのか?」

「はい。大丈夫ですよ」

「さっきも同じこと聞いてたけどな」

「そうか」

「凛も行きますか?」

「うん。よくわからないが、いってみよう」

「えへへ。そうですか」

「じゃあ、まずは着替えないとな。寝巻きでは行けないぞ」

「うむ。それより、ぎんたろーをしらないか?」

「さあな。どこかに飛んでいったんじゃないか?」

「そうか。ぎんたろーも、たびにでたいとおもうときもあるだろうしな。おひるまでにはかえってくるかな」

「帰ってくるんじゃないか?」

「ふむ。ならいい」

「…お前は、旅に出たいと思うときはあるのか?」

「なんのはなしだ?」

「いや…」

「凛。着替えに行きましょうか」

「うん」


凛は素直に頷くと、秋華と一緒に城の中へ戻っていった。

…一人、取り残されてしまったわけだが。


「ねーねー」

「ん?あぁ、葛葉か。どうした?」

「すずめ、捕まえたよ」

「雀?」

「うっ…。このような幼子に捕まるとは、私も老いたということか…」

「どこにいたんだ、そいつ」

「セトとしゃべってた」

「い、紅葉…。離してくれるように言ってくれないか…。私の言うことは聞いてくれないようでな…。頼む…」

「仕方ないな…。おい、葛葉」

「なに?」

「その雀、離してやれ」

「うん」


葛葉が手を広げると、手の平の上でぐったりとしていて。

羽根もボサボサだ。


「ねーねーにあげる~」

「ん?そうか?ありがとう」

「えへへ」

「…あのな、葛葉」

「なに?」

「今度、雀を見掛けても、絶対に捕まえるなよ」

「なんで?」

「こいつは、見た目以上に危険だ。突つかれる」

「いたいの?」

「ああ。やられていることはかなり地味だが、結構痛い」

「うぅ…。いたいのイヤ…」

「そうだろ?だから、捕まえちゃダメだ」

「うん…。分かった…」

「そうか。偉いな、葛葉は」

「えへへ」

「じゃあ、ほら。こいつは、オレがちゃんと逃がしておいてやるから、お前は遊んでこい」

「うん!」


勢いよく頷くと、そのまま広場の方にまた走っていって。

…可愛いな、素直で。


「ふぅ…。握り潰されるかと思ったぞ…」

「葛葉だって、加減くらい分かっているだろ」

「それはそうかもしれないが…。あの者は、私の声が聞こえているのかいないのか、全然反応しなくてだな…」

「早く誰かに見せたかったんだろうよ。見せて、褒めてもらいたかったんだ」

「ふむ…」

「それより、カイトはどうしたんだ」

「あのあと、飛び競べが終わると、散歩をしてくると言ってどこかへ飛んでいってしまった」

「そうか」

「昔から、そういうやつだよ、あいつは。誰にも縛られず、のびのびと生きている。それに比べれば、私などは性分の忙しない雀だからな。あいつとは全く逆方向だよ」

「そうかもな」

「しかし、一生誰にも縛られずに生きていくと思ったのだが。あのカイトが、誰かに束縛されるときが来るとはな」

「束縛される?誰にだよ」

「私は詳しく知らないが、誰かと契約を結んでいるようだ」

「契約?」

「まあ、私と凛のような関係になることだよ」

「ふぅん…?」


全く意味が分からない。

でも、普通とは違う鳥が、誰かと対になるのが契約と言うなら、カイトの相手は、もしかすると、望かもしれない。

ふと、そう思った。


「どこかの旅団の団長が強い火の属性を持っているから、その者についていくとは言っていたが、流れ流れて、ここに腰を落ち着けていたとはな」

「タルニアか?」

「ん?おぉ。団長の名前が、たしかそんなだったな。ちゃんとは聞いていなかったが」

「ふぅん…」

「まあ、何か思うところがあったのだろうな」

「お母さん」

「ん?」


振り返ると、そこには望がいて。

噂をすれば…というやつか。

望は、泥だらけになった手に、桶と柄杓を持っている。

今まで、花畑予定地に水を遣っていたということだろう。


「誰と話してるの?」

「こいつだよ」

「雀?」

「ああ。雀の銀太郎だ」

「銀太郎?」

「ああ、そうだ。お前は、なんという名だ?」

「えっ?えっと…望です…」

「望か。いい名だな」

「お母さん…」

「望が怯えてるだろ、銀太郎」

「ん?あぁ、すまない。…私のせいなのか?」

「お前以外に誰がいる」

「ふむ…。しかし、この子は、お前の子なのか?」

「娘だ。血は繋がっていないが」

「なるほどな。いい顔つきをしている。将来はきっと、紅葉よりも美人になることだろうな」

「そうだな」

「………」


顔を真っ赤にして、モジモジしている。

恥ずかしいらしい。


「む?もしかして、望」

「えっ?」

「お前は、カイトと契約を結んでいたりはするのか?」

「ケイヤク?」

「ふむ…。分からないのならよいのだが…」

「よく分かんないけど、カイトとずっと一緒にいるって約束はしたよ」

「おぉ、やはりそうであったか」

「……?」

「いや、すまない。こちらの話だ。しかし、あいつも、良い子を見つけ出したものだな」

「…ねぇ、お母さん。何を言ってるの、この子?」

「さあな。独り言だろう。放っておいてやれ」

「うん…」


望が銀太郎の顔を覗き込むけど、銀太郎は全く気付いていないようで。

しばらく見ていたが、そのうち退屈そうに欠伸をして。

独り言ばかりで何の反応もしない銀太郎に飽きたんだろう。


「お母さん」

「ん?」

「どこか行くの?」

「ああ。ちょっとな」

「望も行きたい」

「そうか?まあ、それはいいだろうけどな」

「……?」

「まずは手を洗って、服をちゃんとしたのに着替えてからにしようか」

「…うん」


泥だらけの自分を見て、望はにししと笑う。

それから、桶と柄杓を持ったまま、城の方に駆けていって。

私も、銀太郎を適当なところに下ろして、あとを追い掛ける。

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