表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
376/578

376

また額を突つかれる。

地味な割に、かなり痛い。

昨日と同じように捕まえて、握り締めてやる。


「く、苦しいではないか…」

「お前はなんで、いつもそういう起こし方なんだ」

「他に、私が効果的に起こす方法が思い付かないのだが…」

「耳元で何か言うとかだな…」

「ふむ…。では、次からはそれを試してみよう…」

「まったく…」

「それで、そろそろ離してもらいたいのだが…」

「そうだな」


手を離すと、布団の上にポトリと落ちて。

いくらかフラフラしていたが、それもそのうち治った。


「案外乱暴なのだな、お前は」

「乱暴な起こし方をするお前に言われたくないな」

「ふむ。まあ、場所を変えよう」

「はいはい…」


立ち上がって、屋根縁まで出る。

それから、隅の方に腰を下ろして空を見ると、まだ星が見えた。

ついでに、あたりはまだ真っ暗。


「見ろ。星だ」

「ふむ。そうだな。それが何か?」

「オレは、まだ眠たい」

「そうか。それは気が付かなかったな。どうも、自分を基準に考えてしまってな」

「普通気が付くだろ。みんな寝てるし、夜も明けてないじゃないか」

「ふむ。しかし、ツカサはもう起きていたぞ」

「あいつは特別早起きなだけだよ。普通の人間はまだ寝てる時間だ」

「そうか。では、次からは日が昇ってから訪ねるとしようか」

「ついでに、もし寝ていたとしても、額を突つくなよ」

「分かっている。それは悪かった」

「はいはい…。それで、何の用なんだ」

「ん?凛の様子を見に来ただけだが」

「………」

「どうした?」

「オレを起こす必要はあったのか?」

「ふむ?そういえば、ないな」

「………」


銀太郎の小さな頭を、人差し指で叩く。

すると、鳩が豆鉄砲を喰らったような顔をして。


「人を起こすときは、明確な理由を持って、今が何時なのかを考えて、それから起こすんだ」

「そうだな…。すまなかった…。つい…」

「まったく…。付き合ってられないぞ…」

「まあ、そうカリカリするな」


上から声が降ってくる。

ついでに、火の粉も。

見上げてみると、ちょうどカイトが屋根縁に降りてくるところで。

この火の鳥は、自身から火の粉を散らしながらも闇に紛れるという離れ業を、ごく普通のことのようにやってのけてみせる。

いやまあ、それが普通なのかもしれないけど…。


「ふむ…。月のものか?」

「なんでそうなるんだよ」

「違うのか」

「それは関係ない」

「そうか」

「久しぶりだな、カイト」

「ああ。長らく会っていなかったが、まだ生きていたか」

「それはお互いさまだというものだ」

「ふむ」

「年寄り同士の話は、また別にしてくれ。付き合ってられない」

「そうか。それもそうだな」

「すまなかったな、起こしてしまって」

「もういいよ…。二度とするなよ」

「相分かった」

「はぁ…」

「…それでだ、紅葉」

「なんだ」

「望も、もうそろそろその年頃だから、気を付けてやれよ」

「…分かってるよ」

「そうか。それならいい」

「何のことだ?」

「お前は理解しなくてもよい話題だ」

「ふむ…。そうか。なら、それよりも、また速さ競べなどしてみないか」

「お前が私に勝てたことなどないだろう。最早、速さ競べではない」

「オレはもう寝るぞ」

「ああ。分かった」

「やることに意味があるんだ。勝ち負けは、あとから付いてくるものだ」

「分かった分かった…。お前は変わらないな…」

「お前も変わらないな」

「………」


なぜか黙るカイトを横目で見ながら、部屋に戻る。

布団に入る前にもう一度見てみると、ちょうどカイトが飛び立とうとするところで。

…まあ、あれだけ優雅に飛ぶカイトに、いくら普通の雀とは違うとはいえ、あんなに小さな銀太郎が飛ぶ速さで勝てる理由が見当たらない。

亀が豹に駆け競べを挑むようなものかもしれないな。

本人が満足しているのであれば、それはそれでいいのかもしれないけど…。


「………」


まあ、今は、二度寝を楽しむとしよう。

お休み…。



布団の中にいる温かいものを抱き締める。

この成長途中といったかんじの細こい身体は望だろう。

なぜここに来たのかは分からないが、朝のカイトの言葉を思い出して、少し気になった。


「………」


血の匂いはしない。

なら、今は大丈夫ということだろう。

ひとまず安心だ。

無防備な寝顔を見せる望の頭を撫でてやると、少し笑ったような気がした。


「………」


まだ少し暗いが、空はもう白み始めてるようで。

夜明けまでもう少しといったところか。

そして、本来なら秋華が来るだろう時間だが、その気配はない。

まあ、今日も医療室で千秋と一緒に寝ているはずだから、そこで心配することもないけど。

…そういえば、今日は、例の学者の家に、予約を取り付けにいく約束だったな。

あまり変なやつに関わりすぎるのもあれだが、今回は大丈夫…な気がする。

たぶん。

しかし、たとえ変なやつだったとしても、あれだけの熱情を持った者と対峙するというのは、悪いことではないはずだ。

接触する時間は減らす必要はあるだろうが。

とにかく、今日は、それも見極めにいくとしよう。


「………」


また少し眠たくなってきた。

三度寝もいいものだろうけど、秋華が走ってくる足音を聞けないのも、少し寂しい気がする。

もう少し、待ってみようか。

…まだまだ幼さが残る望の顔を見てみる。

口が少し開いてるのが、なんとなく間抜けっぽくて可愛い。


「………」


チビたちが多い中、やはり相対的にお姉ちゃんになる望も、まだこんなに幼いんだ。

私がちゃんとして、叱ったり、甘えさせたり、守ってやったりしないといけないんだろう。

それは、私の庇護欲でしかないのかもしれないけど。


「えへへ…」

「………」


何か楽しい夢でも見ているんだろうか。

無邪気なその寝顔を見てると、私まで子供に戻れるような気がして。

まあ、私もまだまだ子供かもしれないな。


「………」


望の、いい匂いのする髪を撫でると、そのうちに瞼も重くなってきて。

秋華が来るのを待てなかったけど。

まあ、三度寝を楽しむことにする。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ