表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
37/578

37

「夕飯中は油断するなよ。すぐに食べるものがなくなるからな」

「う、うん」

「大丈夫だろ。風華がある程度取ってくれてるだろうし。まあ、皿からいつの間にかなくなるのには注意しないといけないけど」

「なくなるの?」

「誰かに盗られたりしてな。明日香が盗っていったりもするんだけど…」

「実際、体験した方が早いだろ」


広間の戸を開ける。


「隊長!お疲れ様です!」

「いや…今日は何もしてないけど…」

「それでも、お疲れ様です!」

「うん、ありがとう」

「ささ、利家さんもユカラさんもどうぞ。皆さんの最低の取り分だけは、私たちが死守しましたので」

「ありがとう」「あ、ありがとうございます…」


ユカラは、この戦場の様子に面食らったようだ。

席に案内される間も、常におどおどとしていた。


「いろはねぇ」

「ん?どうした。宣戦布告でもしに来たのか?」

「ううん。今日は、ゆっくり食べようって思って」

「休戦か?またなんで」

「いろはねぇ…病み上がりだし…。あ、ちゃんと望にも言ってきたよ」


…疑うわけではないけど。

桜の目をジッと見つめる。

すると、桜は負けじと見つめかえしてくる。


「…そうか。ありがとう。今日は甘えさせてもらうよ。でも、オレはもう元気だから。明日からは遠慮なくかかってこい」

「うん!」


頭をガシガシと撫でてやると、嬉しそうにニッコリと微笑み、そして自分の席へと帰っていった。

その先で


「あぁ~っ!ボクの唐揚げ食べたの、誰!?」

「明日香が持っていってたよ」

「見てたんなら止めてよ、響!」

「えぇ…」

「私の、あげるからさ。響に八つ当たりしないの」

「か、かぐやねぇ…。八つ当たりなんか…してないもん…」


それにしても、桜と望が大人しくしてくれているだけで、こんなにゆっくり食べられるんだな。

ホッとしたような、でも、寂しいような。


「ユカラ、それだけで足りる?」

「うん。充分だよ」

「遠慮してない?」

「してないよ」

「それならいいけど…」

「お母さん、これ、食べていい?」

「いいけど、それで終わりにしなさい。またお腹壊すよ」

「分かった~」

「風華って、葛葉のお母さんなの?」

「そうだけど、そうじゃない。血は繋がってないし、歳を考えたら姉妹くらいなんだけどね。葛葉がお母さんって呼んでくれて」

「ふぅん」


風華たちの会話。

こうやって耳を澄ませてみると、いろんな会話が聞こえてくる。


「明日、夜勤組なんだよ~。大変だよな~」

「俺たちが頑張るから、みんな安心して眠れるんだろ。それに俺たちも、みんなのお陰でここにいられる。持ちつ持たれつだよ」

「…そうだな。まあ、無理しない程度に頑張りますか~」


誰のお陰でもない。

みんなのお陰でここにいる。

一人で生きてはいけないから。

みんなに頼らざるをえないから。


「お母さん」

「望か。どうした?」

「えへへ」


だから、頼るときは頼ればいい。

頼られたなら、精一杯応えてあげる。


「ん~」

「甘えただな。望は」

「うん!」


望の力強い返事はとても気持ちのいいもので。

自然と笑みがこぼれた。



外はまだ雨だった。

しかし、いくら雲が月の光を遮ろうと、その時はやってくる。


「姉ちゃん、どうしたの?外なんか見て」

「毎晩やってることだ。あまり気にするな」

「ふぅん」

「ユカラ。もう遅いから、早く寝ろよ」

「うん」


そして、私の手を取る。


「ん…?」

「姉ちゃんも。夜更かしは身体に毒だよ」

「…そうだな」


手を引かれるまま、広間をあとにする。


「今日は楽しかった~」

「そうか。良かったな」

「うん。…明日も楽しい日になるかな?」

「ユカラが、そう願えばな」

「…そうだね。明日は、あたしにとって、みんなにとって、楽しい日になりますように。お月様、お願いしますね」

「今日は見えないだろ」

「見えないだけだよ。雲の上にはいる。毎日必ず、みんなのことを見守ってくれてる」

「ふふ、そうだったな」


見えなくても、そこに必ずいる。

私が一番、分かってることなのにな。


「そういえば、ユカラはどこで寝るんだ?」

「桜の部屋だよ」

「じゃあ、こっちとは逆方向じゃないか」

「うん。でも、姉ちゃんを放っておけないから」

「…そうか」

「うん」


目が見えないことを知ってる風でもなかった。

でも、楽しそうに、嬉しそうに。

今日あったことを話しながら、部屋まで私の手を引いていってくれた。


ユカラは他の人とは少し違うところもあるようですが、それも個性ではないでしょうか。

なんしか、ユカラは純粋で優しい子です。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ