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気を利かせたのかどうかは分からないけど、医療室に行くと千秋や風華はおらず、ポツンと秋華一人だけが、布団に座っていた。

先に着いてたりるは、秋華の横で丸くなっていて。

風邪を移さないようにと、りるをせめて隣の布団で寝かせようとして、秋華は一所懸命に押し出そうとしている。

私は、そのりるを持ち上げて。


「大丈夫か、秋華」

「あ、師匠…!すみません、すっかりお世話になってしまって…」

「何言ってるんだ。当たり前のことだろ。それに、オレはずっと傍にいたわけじゃないしな」

「いえ…。姉さまから聞きました…。りるが、師匠を私に独占されるのがイヤだったと…」

「でも、今まで傍にいなかったのは事実だ。私に礼を言うくらいなら、ずっと看病していた千秋や風華に言ってやってくれ」

「大丈夫です…。姉さまにも、風華さんにも、ちゃんと言っておきましたから…」

「そうか」

「だから、次は師匠の番です…」

「………」

「心配してくださって、ありがとうございます…」

「…ああ」


まだ少し赤い、秋華の頬を撫でる。

秋華は、小さく笑って。


「ところで、師匠…」

「ん?」

「何か、お悩みですか?」

「…分かるか?」

「分かります。今まで見たことないような顔をしてますから」

「…そうか」

「私でよろしければ、お力添えしたいのですが…。頼りないですよね…」

「確かに、病み上がりの者には、なかなか相談出来ないかもしれないな」

「うぅ…。風邪など引いた私自身が恨めしいです…」

「…じゃあ、簡単な質問をしよう」

「えっ?あ、はい…。答えられることでしたら、なんでも答えます」

「………」

「……?」

「秋華は…」

「はい?」

「秋華は、私のことが好きか?」

「はい、大好きですよ」

「………」

「あ…。お気に触られました…?」

「いや…。どうして、りるも秋華も、そうやって即答出来るのかと思ってな…。まあ、りるはまだ幼いから、好き嫌いもはっきりと言うだろうけど、秋華くらいになれば、なかなか難しいんじゃないのか?」

「そんなの、師匠が大好きだからに決まってるからじゃないですか。そりゃ、照れくさいのもありますが、それは、答えを渋る理由にはなりません」

「じゃあ、秋華は、私のことがどれくらい好きなんだ?」

「感情は、量や大きさで表すことが出来るのでしょうか。私は、師匠のことが大好きですし、姉さまも風華さんもりるも、みんなみんな大好きです。でも、師匠はこれだけ、姉さまはこれだけ、と表すことは出来ませんし、順番を付けることも出来ません。師匠に対する好きと、姉さまに対する好きは、全く別のものですし」

「そうか。…では、私から愛情を受けていると思うか?」

「はい。…感情は量では表せないと言った先からおかしなことを言いますが、師匠からは、たくさんの愛情を戴いていると、私は思います」

「そうか…」

「師匠は、私に、たくさんの愛情を注いでくれているのでしょうか…?」

「…私には、分からなかった。自分がどれだけ他人を愛しているのか。どれだけ愛されているのか。これくらいが普通だと思っていたんだ。むしろ、まだ足りないくらいに」

「それで、いいんじゃないですか?」

「えっ?」

「私には、難しいことは分かりませんが…。師匠はきっと、そういう人なんだと思います。たくさんの人に好きになってもらえて、たくさんの人を好きになれる。そういう人なんだと。他の人より愛情が深くて、でも、それを普通だと思っていて。程度に差があるのは当然です。人より多く相手を想い、相手に想われていて。それがその人の普通になるのは、ごく自然なことだと思うんです」

「…なるほどな」

「えへへ…。でも、確かに、師匠は並外れているとは思いますよ。他の並の人が、情が薄いとは言いませんが…。それを普通だと思えることが、私は羨ましいです。たくさん好きになって、たくさん好きになってもらえることが」

「それを普通だと思っていたから、私は美希に注意を受けたわけだけど」

「美希さんにですか。そうでしたか。師匠が、そんなことで思い悩むわけがないのにと、おかしいとは思っていましたが…」

「…悪かったな、こんなことで思い悩んでいて」

「えっ?あ、いえっ!そ、そういう意味で言ったのではないですっ!師匠は、師匠の言う通り、そういうことはあまり考えないんだと思っていたので…。みんな、普通だと思っていることは考えませんから…」

「そうだな。確かに、考えてなかったよ」


秋華の頭を撫でると、少し安心したように笑った。

それから、頬を引っ張ると、ちょっと不満そうな顔をする。


「まあ、ありがとう。考えるための新しい視点を見つけられた」

「いえいえ。とんでもないです。私は、私の考えてることを言っただけですし」

「充分だよ、それでも。私だけでは、何が普通で何が普通でないか分からなかったからな」

「うーん…。そ、そうですか?少しでも師匠のお役に立てたのなら、私は嬉しいです…」

「役に立ったよ、すごくな」

「はい…」


顔を赤くして俯く秋華。

その頭を、また撫でてやる。

…美希も言っていたが、私は、愛情というものに関してはかなり鈍感で、それでいて、かなり多くを授受しているらしい。

秋華の言う通り、それが普通なら、普通でいいのかもしれない。

でも、それは同時に、たぶん美希が言おうとしていた、相手の想いを軽く見てしまっているかもしれないということに繋がってくるんだろう。

そうならないためにも、一度、どれだけのものかを確認しておいた方がいい…ということなのかもしれない。

美希の意図するところや明確な答えは、たぶん分からない。

でも、指摘された以上、考えないわけにはいかないからな。

これからは、みんなをもっと好きになれるように。

そのために、考える。

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