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「お前、今日は手入れはしなかったのか?」

「ん?何の話だ」

「りるの話だ」

「あぁ。なんか、お取り込み中だったみたいだからな」

「それほどではないが」

「まあいいじゃないか。りるだって、私よりも紅葉と一緒にいる方がいいだろ」

「それはどうだろうな」


自分のことが話題になっているのにも気付かず、昼ごはんのうどんを啜っているりるを見る。

どんぶりは、凛の二倍くらいの大きさだ。


「しかし、よく食べるな、りるは」

「成長期なんだろ」

「そうだけど。…性徴期はまだ先だろうな」

「この時期に来たら、少し考えものだ。早すぎる」

「ああ。まあ、しっかり見ておいてやらないと」

「そうだな」

「紅葉はいつ頃だった?」

「さあな。覚えてない。それに、昼ごはんを食べてるときにする話でもないだろ」

「夜のお泊まり会の布団の中か?」

「そうだな。ちなみに、その話も今することではない」

「いいじゃないか。他に聞いてる者もいないんだし」

「壁に耳あり、障子に目あり」

「なんだ。妖怪の名前か?」

「諺の方だ」

「そうか」

「下らないことを知ってるんだな、妖怪の名前だなんて」

「紅葉だって同じだろ?」

「まあ、そうだけど」

「小ネタや雑学というのは耳に入りやすいからな。旅の途中でも、いろんな話を聞いたよ」

「そうか」

「紅葉は本か?」

「まあな。あんまり外を出歩くことはなかったから」

「ここの蔵書もすごいな。前に蔵書庫に行ったが、下町の貸本屋に負けず劣らずといったところじゃないか」

「学術本が多いけどな、ここは」

「まあ、そうだな。行ってきたんだろ、あの貸本屋」

「いや。中は見てない。風華に聞いただけだ」

「なんだ、勿体ない。面白いぞ、あそこは」

「そうだろうな」

「なんでもある。子供の読む童話集から、専門書まで。何か借りてただろ、りるのを」

「ああ。龍の図鑑だな」

「私は、ああいう本を探すのが好きなんだ。借りる借りないは別にして」

「ふぅん」

「あれみたいに、特に目を引くものもあれば、平凡な本の間に、ひっそりと挟まっていたりもする。まあ、一種の宝探しだな」

「そうか」

「あれを返すときにでも、また探してみるといい」

「そうだな」


宝探しか。

まあ、そうかもしれないな。

本なんていうのは、もともと宝のようなものだし。


「それにしても、今日もいい天気だな」

「そうだな」

「こういうときは、外で日向ぼっこでもしたいものだけど」

「当番なんだろ?」

「まあ、そうだな」

「…そういえば、最近お前が当番のときが多い気がするが」

「うん。ちょっと増やしてもらってるんだ。ここに腰を据えると決めた以上、料理の勉強をしっかりしておきたくてな」

「ふぅん」

「って、前にも言った気がするな。紅葉にだったかは覚えてないけど」

「オレも覚えてない」

「そうだな」

「まあ、精力的に取り組んでくれるのはいいが、あんまりあいつらを甘やかしたりもするなよ。本当に、だらけきったやつらが多いからな」

「そうだな」

「困ったやつらだ」

「まあまあ。いいじゃないか」

「よくないよ…。あ、ところで、だらけきったやつらで思い出したが、灯はどうなったんだ。料理大会の方は」

「灯が予選突破したのは聞いたな?」

「ああ」

「三位までが本選出場権が与えられたんだけど、あとは、食堂のとこのオヤジと、秋華の家の板前が本選出場したんだ」

「そこまでは、秋華にも聞いた」

「そうか。まあ、その三人だけが家庭料理で勝負をして、あとは創作料理とかだったみたいだ。紅葉の読みは当たってたということだな」

「あれは別に読みじゃない。そうじゃないかと思っただけだ」

「似たようなものだ」

「全然違う」

「まあ、それは置いといてだ。灯は肉じゃが、オヤジはだし巻き、板前は鯖の味噌煮だったんだ。それで、板前が一位、オヤジが二位、灯が三位だった」

「なんでだ?」

「さあな。審査員の評価は聞いてなかった。小難しい言葉ばかりを並べ立てて、自分は頭がいいんだというようなことを誇示するようなバカな連中の話なんて聞いていられない」

「お前、意外に毒舌だな」

「思ったことを言ってるだけだ」

「…まあいい。それで?」

「それだけだ」

「次の課題とかあるだろう。秋華は、空腹から満腹までと言っていたが」

「ああ。まさにそれだ。灯も、また頭を悩ませてるよ」

「ふぅん…」

「気になるか?」

「まあな」

「またそのうちに助けを求めてくるだろう。力になってやってくれ」

「ああ。来たらな」

「来るよ」


空腹から満腹までというのは、どういう裏があるんだろうな。

課題を決めているやつは、相当ひねくれているらしい。

一回目があれだから、二回目もそうなんじゃないかと疑う。

そしたら、今回はごく普通の課題だった…とか。

課題の真意を見出だすところから始まるとなると、選手にはかなりの負担になる。

灯も、また思い詰めないようにしてもらいたいものだけど。


「そういえば、秋華の板前は、今はお菓子を作るのに一所懸命らしいな」

「ん?あぁ…。秋華が昨日、饅頭を持ってきてたな」

「何かの手掛かりになるかな」

「敵情調査以上のものはないと思うが。オレは」

「そうか…」

「周りに流されないようにしないと。灯は、灯のやり方で闘うだろうさ」

「…まあ、そうだな」

「この前も、知りたがってたは知りたがってたけどな」

「相手の手を知ることも大切なことだからな。前は直前過ぎたし、灯にも迷いがあったけど」

「ああ。だから、止めた」

「そうだな。あれがよかったのかもしれない」

「いや、灯の力だよ。あれも結局、足掛かりでしかない」

「まあ、紅葉が言うなら、そうなんだろうな」


それから、美希は、りると凛の方に目を移して。

二人はもうほとんど食べ終わっていて、最後の一口かどうかというところだった。

…空腹から満腹まで、か。

今のこの昼ごはんだって、空腹から満腹までだ。

何をどう考えるか。

それが問題の争点だろうな。

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