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昼の当番も美希だった。

本来の当番は、まだ起きてこないらしい。

昨日はいつまで騒いでたんだろうか。

呆れて物も言えない。


「まあ、それだけ嬉しかったということだろ?」

「そうだとしても、やるべきことは、きちんとやるべきだ。騒ぎ疲れて朝起きられませんでしたなんて、言い訳にもならないぞ」

「そうカリカリするなよ。私がちゃんと代理をしてるだろ?」

「それじゃダメだと言ってるんだ。美希も、あいつらを甘やかすな」

「厳しい衛士長さんだこって」

「これでも優しい方だろ」

「そうかもな。まあ、どちらにせよ、昼ごはんにしようか」


美希は、五つのお椀に味噌汁を入れていく。

私がそれを持っていってる間に、ご飯とおかずもよそって。

それも持ってきて、私と美希も食卓に着く。


「いただきます」

「いただきまーす」


手を合わせて、食べ始める。

今日は、鯖の味噌煮だった。


「どこかに行くのか、これから?」

「ん?なんで分かったの?」

「分かったわけじゃないけど。昼ごはんにはまだ少し早いしな、今は。それに、四人揃って来たじゃないか」

「ん?なんで、その二つでその結論に辿り着くの?」

「昼ごはんを急ぐということは、午後からの時間を多く取りたいということだ。外に出掛けるか、あるいは、何かゆっくりと腰を据えてやることがあるのか。腰を据えてってのは、たとえば、望の園芸とかな」

「あ」

「えっ?」

「どうしたの、姉ちゃん?」

「望、花屋に行かないか?」

「花屋?」

「なんだ、唐突だな」

「いや、思い出したんだ。望が土いじりを始めたから、そういう専門家の話を聞いた方が、もっと効果的に出来るんじゃないかって思ってたんだけど。すっかり忘れていた」

「忘れたらいけない項目のような気もするが…」

「それで、どうだ?」

「もう聞いてきたよ」

「ん?そうなのか…。すまなかったな」

「ううん。お母さんも、お花のことを考えてくれてたって分かって、嬉しいよ」

「いい子だなぁ、望は。紅葉みたいな母親を持つと苦労するだろ?」

「えっ?ううん、別に…」

「何を聞いてるんだ、お前は…」

「それで?話の続きは?」

「話の続き?どこまで話したかな?」

「外に出掛けるか、望の園芸を手伝うかってところ」

「あぁ、そうだったな。まあ、まずは、そのふたつに絞られる」

「うん」

「次に、四人揃って来たことだが、四人揃って来たこと自体は、さほど大切なことではない。問題は、その組み合わせだ」

「組み合わせ?」

「まず一人目。千秋だ。千秋は、料理の本を借りたいと思っているだろ」

「ああ」

「料理?なんで?」

「釜屋の厨房に立とうと思ってな」

「へぇ、釜屋の。千秋の手料理が食べられるなら、通っちゃおうかな。姉ちゃん連れてさ」

「冗談はやめろよ…」

「冗談じゃないよ。ねぇ、姉ちゃん?」

「ん?オレか?」

「聞いてた、話?」

「あんまり」

「えぇ…」

「美希の話を聞いてたんだろ?」

「そうだけどさ…」

「じゃあ、美希に続きを話してもらおうじゃないか。オレのことは置いといて」

「面倒くさいだけでしょ…」

「そうだな」

「…まあいいよ。じゃあ、美希、続けて」

「ん?ああ」


冗談どうのこうのと言ってるあたりで、千秋が卒倒しそうなくらい赤くなっていたのには気付いてなかったんだろうか。

まあ、気付いてないんだろうな。

朝の一件を思い出していたんだろうが、もしあそこで私が肯定していたら、本当に倒れていたかもしれない。

面倒だったんじゃなくて、卒倒を未然に防いだんだ…と、密かに言い訳しておこう。


「釜屋どうこうは知らなかったが、千秋が料理をしたいと思ってるのは知ってた。実際、調理班員に料理を教えてくれと頼んでいたという話も聞いてる」

「えっ。誰から聞いたんだ?」

「千秋は、うちの調理班の口の軽さを、まだまだ甘くみているようだな」

「えっ…。そ、そんなにすごいのか…」

「ああ。すごいぞ」

「迂闊だったな、それは…」

「次からは気を付けることだ」

「今回から気を付けておくべきだったよ…」

「まあ、被害がそれほどなかったことを喜ぶべきだな、今は」

「そうだな…」

「おねしょを言い触らされたやつもいるそうだし」

「えっ、誰なの?」

「本人の尊厳に関わることだから、やめておこう。なに、そいつが小さい頃の話だ」

「えぇ…。誰なんだろ…」


灯だけどな。

あのときのあいつは、まだまだ幼かった私の目から見ても惨めだったから、たぶん本人は相当惨めだったろう。

出会うみんな、灯のことを慰めていくんだからな。

さすがの灯も、しばらく立ち直れなかった。

まあ、原因は母さんなんだけど…。

それから、おねしょをしても、私のせいにするようになったんだったな。

それでも、あっという間に広がったんだけど。


「話の続きだ。千秋は料理をしたいと言っていたから、たぶん次にすることは、料理の本を借りてくることだろう。教えてもらうだけじゃなくて、自分からも勉強しようと思ってな」

「その通りだよ」

「まあ、だから、千秋は貸本屋に行くんじゃないかと考えた」

「へぇ。すごいね」

「別にすごくないさ。それで、次は風華だ。風華は、千秋が貸本屋に行きたがってると聞けば、ついていきたいと言うだろう。風華は本とか好きだからな」

「うん。そうだね」

「四人で何かをするんだと仮定すると、千秋と風華の二人を考えた時点で、貸本屋に行くだろうということが分かる」

「へぇ」

「紅葉はまあ、千秋の付き添いだとして、望が一番難しかったな」

「姉ちゃんは一瞬で終了したね…」

「暇人だからな、紅葉は。誰かがどこかに行くとなれば、無条件についていくだろう」

「まあ、そうだろうな」

「あっさり肯定しないでよ、姉ちゃん…」

「いいじゃないか、別に」

「えぇ…」

「それで、望だけど。望から、今日は良い香りがする。この香りは、前に千秋が紅葉に贈った香油と同じ香りだ。ということは、たぶん、望は紅葉の香油を使って髪の手入れをしたか、してもらったというところだ。でも、髪の手入れには、もうひとつ大切なものがある。それは、櫛だ。望が櫛を持ってるという話は聞かないが、望もお年頃の女の子だ。自分で手入れをするためにも、櫛の一本や二本、欲しくなる頃だろう。そして、千秋が貸本屋に行くという話、紅葉が千秋の付き添いでついていくという話を合わせて、貸本屋に行く途中で櫛屋にも寄るんじゃないかと、そう考えたわけだ」

「へぇ~。すごいね。正解だよ。本物の探偵みたいだね」

「まあな」


美希は胸を張って。

なんか、見せつけられてるようで嫌だけど…。

…でも、本当にすごいな。

昼ごはんを作ってる合間にでも考えていたんだろうか。

私たちも、手掛かりとなるようなことは話してなかったはずだし。

もしかしたら美希は、厨房に立ってるよりも、警察や探偵になって難事件の解決に当たった方がいいのかもしれないな。

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