表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
348/578

348

今日の門番が門を開け、橋を降ろした。

すると、すぐにその橋を渡ってくる者が二人。

一人はいつもの郵便で、もう一人はもちろん秋華だった。

…何がもちろんなのかは知らないけど。

二人はそのまま真っ直ぐ、城の中へ入っていった。

そして、郵便が帰っていくのと同じくらいに、廊下から足音が聞こえてきて。


「師匠!」

「………」

「は、はい?」


無言で手招きをして、秋華を屋根縁に呼び込んだ。

秋華は少し戸惑いながら、寝ているみんなの間を通ってやってくる。

そして、私の前まで来ると、神妙な面持ちで正座をして。


「ど、どうしましたか」

「いつも言ってることなんだけどな。朝から元気なのはいいことだが、みんな、まだ寝てるんだから。大きな声を出すな」

「す、すみません…」

「まったく…。それで、今日は何だ。竹刀なんか持って」

「あ、はいっ。道場に行く前に、師匠に挨拶をしておこうかと思いまして」

「そうか。まあ、休みの前が剣道だったから、今日は拳法だと思うけどな」

「えっ!あっ!ま、間違えましたっ!」

「はぁ…。まあ、頑張ってこいよ」

「は、はいっ!では、失礼しますっ!」


急いで立ち上がってお辞儀をすると、そのまま走っていってしまった。

しばらく広場を見ていると、さっき来たときの半分くらいの時間で秋華が出てきて。

猛烈な速さで駆け抜けていった。

…意外と足が速いんだな。

いやまあ、足腰は特に重点的に強化してるみたいだし、意外というのは間違っているか。


「さて…」


どうするかな。

手持ち無沙汰だ。

二度寝をしてもいいんだけど…。

まあ、とりあえず、部屋を出る。

昨日があれだったから、調理当番が起きている可能性はかなり低いだろう。

厨房に行くのは、たぶん無駄だ。

ということで…どこに行くかな…。

思い付くままに廊下を歩いてみる。

とは言っても、結局は階段に出てくるんだけど。

…千秋は起きてるだろうか。

階段を上がって、屋根裏を覗いてみる。


「………」


ぐっすりと眠っているようだった。

起こさないように屋根裏に上がって、千秋の横に座ってみる。

…何も考えてなさそうな、平穏な寝顔だな。

口が少し開いてるのが間抜けだろうか。

その口に、指を入れてみる。


「ん…」


少し呻き声を上げたが、起きてはいないようだ。

面白いので、口の中を触ってみる。

…歯並びはかなりいいな。

理想の歯並びと言っても差し支えはないだろう。

舌に触ってみる。

ふにふにと柔らかく、触り心地もいい。

美人というのは、身体中のどこも美人なんだろうか。


「んぅ…?」

「起きたか」

「んっ!な、なにひへぬんら!」

「何って、お前の口の中に指を入れている」

「や、やねの!」


バッと聞こえんばかりの勢いで起き上がると、そのまま後ろに飛び退いた。

…姉妹揃って、運動神経はかなりいいみたいだな。


「顔、真っ赤だぞ。火がつきそうだ」

「ついてるよ!な、なんでこんなこと!」

「ん?面白いから、かな」

「俺は恥ずかしい!」

「そうなのか?」

「当たり前だろ!いくら新婚だからって…!」

「まあ、新婚と言う割には、部屋は別だけどな」

「そ、それは…」

「オレの指は美味かったか?」

「あっ!そうだ!汚いから!ほら、これで拭け!」


そう言って、脇に置いてあった手拭いを投げて寄越す。

受け取ることは受け取るが、これではつまらないな。


「拭かなくても、舐めればいいんじゃないか?」

「……!」


真っ赤だった顔が、さらに赤くなった。

逆上せてるんじゃないかと思うくらい。

まあ、似たようなものか。

舐めたら、本当に卒倒するんじゃないだろうか。


「やめっ、やめろっ!き、汚いからっ!」

「まあ、寝起きの口の中は雑菌だらけと聞くがな」

「そ、そうだっ!だから、やめろっ!」

「まったく…」


朝から騒がしい姉妹だ。

まあ、千秋を騒がしてるのは私なんだけど。

…しかし、このまま終わらせるのは勿体ないな。

千秋がこちらを凝視してるのを確認してから、舌の先で少しだけ指を舐めてみせる。


「い、紅葉!」

「冗談だ」

「冗談って、今、完璧に舐めただろ!」

「ああ。千秋の味がした」

「なっ!」

「冗談だ」

「冗談じゃないっ!」

「ふふふ」


うん。

いい反応が見られた。

満足だ。

手拭いで、手を拭いておく。

千秋はまだ何か文句を言ってるけど。


「ところで、お前、今日は何か予定はあるのか?」

「えっ?あ、いや、別に…。何もないけど」

「そうか」

「何なんだ?」

「いや、別に。何かあるなら、ついていこうかと思ってな。オレ自身、何もすることないし」

「休みか?」

「まあ、休みと言えば、毎日休みのようなものだけどな…」

「そうなのか?いつでも、外に出たり、広場で何か鍛練とかやってたみたいだから、忙しいのかと思ってたけど」

「衛士としての仕事は何ひとつしていない。言うなれば、給料泥棒だな」

「ふぅん…」

「まあ、何もないなら、また別の何かを探すよ」

「あ、いや、今日の予定じゃなかったんだけど、ちょっと貸本屋に行きたいと思ってて。今日、何もないし、ちょうど思い出せたから、行こうかと思うんだけど」

「貸本屋?何を借りるんだ?春本か?」

「バ、バカか!そんなもん借りんわ!」

「そうか」

「そもそも、そんな本は置いてないし!」

「ふぅん」

「ふ、普通の料理の本を借りにいくんだよ!」

「料理?お前、料理するのか」

「釜屋で、少しな…。厨房に入れるようになったら、給金を上げてもらえるから」

「給金?今の分じゃ、足りないのか?」

「えっ?あ、いや…。そんなことはないけど…」

「……?」


なんだ?

欲しいものでもあるんだろうか。

手をモジモジさせて、変なやつだ。

…まあ、何か目標を持って働けるというのはいいことだ。

何が目標なのか、聞きたいところだけど。

とりあえず、それは、置いておこう。


「じゃあ、貸本屋だな」

「…えっ?」

「貸本屋だな?」

「あ、うん。昼ごはんを食べてから行こうと思う」

「分かった」


これで、昼からの予定は埋まったな。

次は、これからの予定を探さないとな…。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ