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歌の練習は続く。

今日は広間に集まっているのだろうか、この部屋に来る子はいなかった。

それはそれで少し寂しい気もするが。


「うん。いいね。この歌は完璧かな」

「まだ光の声は聞こえませんが…」

「それはまた練習を積んでいこうよ。すぐに出来るものでもないし」

「はい…。そうですね…」

「次は、何に、するの?」

「そうだね…。何がいい?」

「あ、あのっ」

「ん?」

「わ、私、楽器の演奏もしてみたいですっ」

「あぁ、こっち?いいんじゃない?じゃあ、やってみよっか」

「えっ。い、いいのですか?」

「やりたいって言ったのは、秋華でしょ?」

「そ、そうですが…。こんなにあっさり認められるとは…」

「何事も挑戦だよ。はい、これが爪」

「は、はいっ!」

「お姉ちゃん、わたしも、何か、やりたいな」

「ん、そうだね。でも、どうしよ…。これ、一台しかないからなぁ…。琴とかあるの?」

「普通の琴ならあるはずだけど。他の楽器も一通りあるが、琴でいいのか?」

「うん。秋華も、琴だし」

「そうだな。じゃあ、持ってこようか」

「うん」


どの倉庫にあったかな。

まあ、担当に聞けば分かるか。

とりあえず、部屋を出て。

光も一緒についてきた。


「お母さんは、琴とか、弾けるの?」

「ある程度な」

「あとで、聞かせて、ほしいな」

「んー…。やってない期間が長いからな…。上手くは弾けないかもしれない」

「いいよ、そんなの。お母さんが、弾いてるのを、聞きたいの」

「そうか。それなら、弾こうか」

「うん」


しかし、前にやったのはいつだったかな…。

覚えていない。

…まともに弾けるんだろうか。


「これから、どこに、行くの?」

「倉庫かな。…いや、まずは、管理担当者に話を聞くか」

「管理担当者?」

「ああ。備品の管理を担当してるやつだよ」

「ふぅん。どこに、いるの?」

「どこにいるだろうな」


とりあえず、一番可能性の高いところから当たってみることにする。

まずは、広間。

階段を降りて、広間への廊下を歩いていく。

相変わらず、雨の音しかしない。

いや、雨の音が、他の音を消しているのか。


「静かだね」

「そうだな」

「………」

「………」

「ん~ん~」


光は、何か歌い始めた。

何の歌だろうか。

私の知ってる歌ではない。

陽城春子の歌だろうか。

あるいは、光が今作った歌かもしれない。

その歌を聴いてるうちに、広間に着く。


「んー…」

「誰を、探してるの?」

「香具夜をな」

「香具夜お姉ちゃん?」

「ああ」


いた。

広間の端っこで壁に寄り掛かって、座りながら寝ていた。

いろんなところで昼寝をしているチビたちを起こさないように、慎重に香具夜に近付いて。


「おい、香具夜」

「ん…?」

「琴はどこにやった?」

「琴…?紅葉、久しぶりに演奏会でも開くの…?」

「開かない。光がやるんだ」

「ふぅん…。光がねぇ」

「ちょっと出してくれないか」

「ん。分かった」


香具夜は立ち上がると、入口で待ってる光のところへ。

私も、来た道を引き返していく。


「んむ…」

「ん?」

「おかーさん…」

「りる。どうした」

「だっこ…」

「はいはい…」


寝惚けているりるを抱え上げて。

でも、すぐにまた眠ってしまった。

…まあ、置いていくのも可哀想か。

そのまま連れていくことにする。


「連れてきちゃったんだ」

「別にいいだろ」

「いいけどね。じゃあ、行こっか」

「うん」

「ああ」


ちゃんと手入れはしてあるんだろうか。

まあ、心配せずとも、抜かりないとは思うけど…。

香具夜の先導で、倉庫へと向かう。



もう少し、音を調整する。

…うん。

まあ、こんなところか。


「それにしても、早かったね」

「備品の管理は徹底してるからね。任せなさいよ」

「うん。任せるよ」

「調弦は済んだけど」

「じゃあ、光、弾いてみる?」

「私は、久しぶりに紅葉の奏でる調べを聞きたいなぁ」

「あ、やっぱり、弾けるんだ。秋華と話してたんだけど」

「ふぅん…」

「わたしも、お母さんの、聞きたい」

「どうする、姉ちゃん?」

「まあ、光とも約束したしな…」


爪を指に付け直して、弦に少し触ってみる。

…うん。

ほとんど忘れてしまっているな。


「灯がいたらねー」

「灯?なんで?」

「昔は、二人でよく協奏したりしてたんだよ。灯は琴しか弾けないんだけど、紅葉はいろいろやってたから。まあ、灯が太鼓、紅葉が笛で祭囃しをやるのが一番得意だったんだけどね」

「へぇ~。お囃子姉妹だね」

「余計なことを言うな」

「いいじゃん、楽しかったじゃん。私も、早鐘を打ったりしてさ」

「ふぅん」

「まあ、今は琴だね。風華と協奏してみたら?」

「んー…。協奏出来るほどの腕が残ってるかどうかだな…」

「大丈夫大丈夫。いいからやってみなって」


香具夜が拍手をすると、秋華と光も拍手をする。

まあ、やってみるか…。


「風華。何か適当に弾け。オレはそれに合わせるから」

「うん。じゃあ、さっきの曲でいい?」

「ああ。オレが伴奏をするから」

「分かった」

「いよっ!待ってました!」

「演奏中は、お静かに、だよ」

「うっ…。すみません…」


光に怒られる香具夜を横目に。

風華が拍子を取って、さっきの曲を弾き始める。

歌い手がいないので、主旋律も合わせて。

それを邪魔しないように、音を重ねていく。

間奏を私の独奏にしてくれ、そこは自由に音を繋げて。

また風華が入り、終章へ。


「いいねぇ。全然落ちてないじゃない」

「いや、思っていた音より省いた部分も多い。やっぱり指が動かないな」

「今ので指が動いてないなら、私なんて止まっています…」

「そうだね。私も、姉ちゃんについていくだけで精一杯だったよ」

「大袈裟だな…」

「歌の優しさに、厚みが、増したの。ふたつ合わせるだけで、こんなに、違うんだね」

「おっ。光、なんか本物の批評家っぽいねぇ」

「そ、そんなこと、ないよ…」


頬を赤くして俯く。

でも、嬉しいものは嬉しいのか、翼はパタパタと揺れていた。

…まあ、私も、褒められて悪い気はしない。

これを機に、また始めてもいいかもしれないな。

秋華に教えるためにも。

灯は乗ってくるだろうか。

誘ってみるくらいは、いいかもしれない。

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