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サンの頬を撫でる。

美希との蔵書庫探検は、大成功したらしい。

りるが読みたいと言った大量の本を、美希は自分の部屋に運び込んでいるようだが。

サンと葛葉は、その作業を見飽きて、こちらに来て昼寝に加わった…というわけだ。

…安らかな寝顔は、本当に、平和そのものだった。


「強いな、子供たちは」

「えっ?何?」

「いやな。こいつらは強いなと思って」

「強いかな」

「ああ」

「姉ちゃんは、なんでそう思うの?」

「…見てみろ。この寝顔。何の悲哀も見て取れない」

「悲哀?なんでまた」

「お前も聞いてるだろ?こいつの身の上話は」

「あぁ…。そういうこと…」

「ここにいる何人が、サンのような過去を持っているのかも分からない。でも、ここにいる誰も、そんな過去を見せない。今を生きている」

「んー。まあ、まだまだ考える力が発達してないって考えることも出来るけどね。考えることが出来ないから、周囲の環境に疑念を抱かず、ただ流されていく」

「考える力、か」

「そんなこと言っちゃ、失礼だけどね」

「オレは、お前の言い分も一理あると思うけどな。確かに、こいつらは、環境に反抗していくには幼すぎる」

「うん、まあ」

「しかし、受け入れるということも、また難しいことだ。ただ流されていくだけじゃない。こいつらは、事実を事実として受け止め、それでいて、強く生きている。…少なくとも、オレには到底真似出来ないことだ」

「まあ、姉ちゃんなら、気に入らない環境はブッ潰していきそうだもんね」

「どういう意味だ」

「あはは。まあまあ。でもさ、姉ちゃんにもそういう時期はあったはずでしょ?」

「…どうだろうな」

「姉ちゃんだって、子供の頃はあったんだから。強い、子供の時期が」

「ふむ…」


私の子供の頃か。

私は強かったのだろうか。

この子たちのように。


「生みの親は分かんなくてさ、狼の親に育てられてさ、それから、ここに来て人間として育てられてさ。充分、激動の環境の中を強く生きてきた子供だったんじゃないのかな」

「ふむ…」

「まあ、この時代、並大抵のことなしに生きてきた子の方が珍しいと思うよ。ここにいる子たちだけでもさ、何人が孤児の養子縁組かって話だよ」

「孤児なのか?」

「ありゃ?知らなかった?」

「ああ」

「意外だなぁ。姉ちゃん、情報通っぽいのに」

「そうか?」

「うん。まあ、あたしが知ってるだけでも…サンと葛葉とりるを除いても、ここにいる十五人のうち七人は孤児だよ。誰が誰とは言わないけどさ。みんな、各街代表で来た人の子供ってことになってるけど。いやまあ、実際はそうなんだけど。葛葉みたいに、村全体で世話はしてたんだけど、追い掛けてきちゃったって子もいるみたいだよ。まあ、街の代表になるくらいなんだから、人望も厚いだろうしね」

「ふぅん…」

「だけどさ、気付かなかった?たくさん子供を連れてきてる女の代表の人でさ、子供と種族が違ってたりしてたの」

「いや…。混ざってしまえば、誰が誰の子供かなんて分からないしな…」

「そうだけどさぁ。でも、姉ちゃん、そういうところには目敏いかんじだったのに」

「それはお前の印象だろ。それにオレは、どの代表の子供が誰だとまでは知らないしな」

「ふぅん。教えてあげよっか?」

「いや、いい。覚えたところで仕方ない」

「まあ、そうだけど」


…そうか。

このうち七人も孤児なのか。

うちのチビ三人と、私とユカラを合わせると、十二人も孤児なわけだ。

実に半数以上。

この時代というのは嫌なものだな。

戦乱の時代というのは…。

この国こそ平和だが、周りの国では一触即発の状況だったり、実際に戦をしている国もある。

そして、いつも割を食うのは弱い者たちだ。

本当に、争い事なんて全てなくなればいいのに。

私たちがこうやって出会ったことも、様々な不幸の結果だ。

もしかしたら、この出会いはなかった方がよかったんじゃないか?


「だけどさ、そんなこと、考えてちゃダメだよ」

「ん?」

「姉ちゃん、今、私たちが出会わないのが一番の幸せだったとか思ってたんじゃない?」

「ん…まあな」

「そりゃ、家族みんなで平和に暮らすのが一番だよ。戦がなければ、この子たちだって孤児にならなかったかもしれない。でも、実際には起こらなかった、別の可能性を考えることほど無駄なことはないよ。過去に戻って修正出来るわけじゃないんだしさ。修正出来たとしても、あたしは修正しないよ。こうやって、みんなに、姉ちゃんに、会えたことは、あたしの大切な思い出なんだもん。嫌な過去を書き換えて、この大切な思い出がなくなっちゃうなら、あたしはそんな選択はしない。今があるから、あたしは過去を受け入れて生きていけるんだよ」

「………」


ユカラは過去を受け入れて生きている。

この子たちだって、そう。

辛く暗い過去に囚われることなく、今を強く生きている。


「…人間は、いつから弱くなるんだろうな」

「弱くはならないよ。強く生きていることを忘れてるだけ。安穏とした、何もない平坦な過去しかない人間なんていないんだよ。必ず、どこかで、何かを乗り越えて、生きている。姉ちゃんだってそうでしょ?子供が強くて、大人が弱いんじゃない。大人は、生きるということを忘れて生きてるんじゃないかな」

「…お前も、強いな」

「んー。まあ、ちょっと今思ったことを言っただけなんだけどね。…って、今、あたしはまだまだ子供だなってバカにしてたでしょ!」

「バカにはしてないさ。ただ、お前は子供たちと同じだなと思っただけだ」

「やっぱり、子供だって思ってんじゃん!」

「ははは。まあ、そう怒るな」

「怒るよ!」


そういう意図もあったりなかったり。

でもまあ、そんな考え方もいいな。

…私は、生きることを忘れているのか。

どうやったら、思い出せるんだろうな。

こいつらと過ごしていれば、答えは見つかるんだろうか。

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