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「師匠は絵がお上手なんですね」

「そんなことないさ、これくらい」

「私なんて全然です…」

「秋華もすぐに上手くなるよ。練習すればな。だから、そう落ち込むな」

「はい…」


とは言っても、秋華の自信は回復せず。

いや、最初からこんなことを言ってたから、回復とは違うか。


「光は絵が上手いですよね…」

「そんなこと、ないよ」

「二人とも、謙遜しすぎです…」

「謙遜じゃ、ないよ。秋華は、まだ、絵の描き方を、知らないだけ」

「分からないです…。みなさんとどう違うんですか…?」

「墨木は、墨汁と違って、消せるから、しっかり、下書きが、出来るんだよ。いきなり、細かく描き始めるんじゃなくて、まずは、だいたいの、大まかな輪郭だけを描いておくの。そしたら、途中で大きく変わったりしないから」

「は、はぁ…。よく分からないです…」

「習うより慣れろ、だよ。まずは、明日香の輪郭だけ、描いてみようよ」

「はい…」


明日香は、自分の名前が呼ばれたので、耳だけを二人の方に向ける。

でも、何もないと分かると、またモゾモゾと体勢だけを変えて眠ってしまう。


「出来ましたっ」

「…丸まってるからって、丸だけじゃ、何を描いたらいいのか、分からないでしょ?」

「うっ…。確かにそうです…」

「頭、身体、あと、足とか尻尾も、おおよそでいいから、描いておけば、何を描けばいいか、分かりやすいでしょ?」

「は、はい。そうですね」

「大きさも、間違えないようにね。ちょうど、丸を描いたんだから、その中に、明日香を、よく観察しながら、輪郭を描いていこっか」

「はい」


それからまた、カリカリと線を描き込んでいって。

光も、新しく紙を取り出して、スラスラと描いていく。


「出来ましたっ」

「あ、うん。いいかんじだね」

「そ、そうですか?」

「うん。じゃあ、次は、ちょっとずつ、細かいところを、描き加えていこっか。でも、まだ、力を入れて、綺麗に描こうとしなくていいからね。だいたいで、いいから」

「はいっ。分かりましたっ」


紙と明日香に視線を往復させて、だいたいの位置に目や鼻を描いていく。

そろそろ、墨消を使うことも多くなってきた。

そして、秋華がそうやって一所懸命描いてる横で、光は涼しい顔をして、慣れた手付きで線を引いていってる。


「難しいですね…」

「そんなに、力を入れなくてもいいよ。細かいところは、あとで、ゆっくり、描いていけばいいんだし。今は、ちゃんとした場所を、しっかり、把握するだけでいいから」

「は、はいっ」


そうは言っても、光のようにはいかないみたいで。

何度も線を消して、何度も描いていく。


「む、難しいです…」

「正確に描く必要なんて、全然、ないんだよ。今は、下書きなんだから」

「は、はい…」

「力を抜いて。難しいことじゃないから」

「はい…」


それでも、なかなか仕上がらず。

結局、終わったのは、光が一枚描き上げたのと同時だった。


「光はやっぱりすごいです…。私は、やっと下書きが終わったところなのに…」

「わたしは、すごくないよ。ただ、絵の描き方を、知ってるってだけ。秋華だって、描き方が、ちゃんと分かれば、これくらい、簡単に描けるよ」

「全然描ける気がしないです…」

「描けるようになるって、思うんだよ。上手くなる気がなかったら、そりゃ、上手くならないよ。上手くなるわけがないよ」

「うぅ…。分かりました…。善処します…」

「………」


まあ、善処程度ではダメだと思うけどな…。

でもそこは、光も何も言わず、少し眉根を寄せただけだった。

気にはなったが、とやかく言うことでもない…と思ったんだろうか。


「じゃあ、次は、いよいよ、清書だね」

「は、はいっ」

「今の、この下書きは、上手に描けてるから、細かいところを、少しずつ修正しながら、ゆっくりなぞってみよっか」

「は、はい。分かりました」


そして、秋華はまた手元の紙に集中する。

光は、その様子をジッと見ていて。


「ふぅむ…」

「………」


ときどき、何か唸ったりしながら、秋華は少しずつ絵を描いていく。

明日香はぐっすり眠っているらしく、ジッとして動かない。

まあ、その方が、秋華も描きやすいだろう。

ちょうどいい対象だ。


「あれ?ここはちょっと違うかな…」

「………」


墨消で少し消して、また描き始める。

ちょっとずつ、絵になってきているみたいだ。

光も頷いている。


「えっと…。だいたいこんなものですか?」

「うん。いいね、上手だよ」

「そ、そうですか?あ、師匠も見てくださいっ!」

「ん?どれどれ…」


秋華の絵を見る。

…少し気になるところはいくつかある。

左右の耳の大きさが違ってたり、尻尾の線が少し揺れていたり。

でも、全然だ苦手だと言いながら、なかなかいい絵が描けてるじゃないか。

あの、武術に対する自信を、少しでもこちらに回して、たくさん何回も練習すれば、もっと上達するだろうな。

可能性を感じさせる一枚だな、これは。


「あ、あの…。どうでしょうか…」

「オレもいいと思うよ。もっと練習すれば、お前は必ず上手くなる」

「そ、そうでしょうか…」

「ああ。だから、もっと自信を持て」

「自信…」

「そうだよ。秋華は、絶対に、上手くなるんだから。しっかり、自信を持って、描こうよ」

「そ、そうですか…?上手くなる…。わ、私が…」

「うん。だから、ほら。もう一枚、描いてみようよ」

「は、はいっ。そうですね。頑張りますっ」


再び、墨木を取って。

それから、光と話し合って、次は部屋の中全体を捉えて描いてみようという話になった。

要領を掴んだのか、光ほどではないが、秋華の手もさっきよりは速く進むようになっている。

飲み込みも速いようだ。

これなら、相当な期待が持てるだろう。

自信も、少し持ってくれたみたいだしな。

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