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子供たちは、おやつを食べ終わると、また思い思いのところへ。

外に遊びにいく者もいれば、広間や私の部屋へ昼寝をしにいく者もいた。

とにかく、灯と美希の部屋には子供たちはいなくなってしまって。

その二人も、調理班の作戦会議ということで厨房に行ったから、私一人で留守番。

…と、廊下からバタバタと足音が近付いてくる。

そして、私が振り返る頃には部屋の前を通り過ぎていってて。

しかし、また戻ってきた。


「お母さん!」

「ん?りるか。お帰り」

「ただいま~」


やっぱり、りるだった。

りるは私を見つけると、パタパタと駆け寄ってきて。


「どうだ。ちゃんばらは楽しかったか?」

「うん!しはんが一緒に遊んでくれた!」

「そうか。それで、風華と秋華はどうした?」

「んー?」

「一緒に帰ってきたんじゃないのか?」

「俺だ。一緒に帰ってきたのは」

「千秋」


入口に立ってにいたのは千秋だった。

どこで貰ってきたのか、真っ白な衛士の服を着ている。


「もう家はいいのか?」

「ああ。どうせ、また帰るしな」

「…そうか」

「千秋がアメ買ってくれた~」

「飴?」

「こ、こら。秘密だって言っただろ…」

「んー?」

「なんで秘密なんだよ」

「えっ?そりゃ、夕飯前なのに買い食いをしてると発覚すれば、怒られるから」

「そういうことを言うと、余計に怒られるんじゃないのか?」

「紅葉なら、たぶん怒らない。まあ、止めることはなかったな、そういう意味では。でも、風華なら分からないだろ」

「なんだ、そのオレなら怒らないって変な自信は…」

「いいじゃないか。あ、そうそう。風華と光は、今晩は、うちで夕飯を食べるらしい。うちってのは、俺の実家のことだけど」

「そうなのか?」

「うん。風華は知らないけど、光は前にもたまにうちで食べてたらしい」

「ふぅん…」


全然気付かなかったな。

まあ、私もここで食べないときもあるけど。


「お母さんにもあげるー」

「ん。ありがとう」

「蜂蜜飴だ。俺の好物なんだけど」

「黄金果か。一際高級なやつだな、この色や透明度からすると」

「なんだ、知ってたのか」

「まあな。母さんが、こういうのが好きだったから。でも、母さんが一番お気に入りだったのは、桃朱果だったな」

「へぇ、なかなか通なんだな」

「ああ。自負してたよ」

「よし。今度、桃朱果も買ってこよう」

「すまないな」

「いいよ、それくらい」

「ん~」

「それでだ、りる。それで最後だからな。残りは夕飯のあとに食べろ」

「んー!」

「駄々をこねるんだったら、その残りの飴もなしだ。今すぐ取り上げるぞ」

「やぁの!」

「我儘を言ってると、雷が落ちるぞ」

「んー!」

「りる」

「………」


眉根に皺を寄せてみせると、さすがにもうそろそろ怒られると思ったのか、おずおずと蜂蜜飴の入った袋を差し出す。

そして、尻尾を巻き、耳を寝かせて。


「よしよし。いい子だ。またあとでゆっくり食べような」

「うん…」

「いい子だったご褒美だ。ほら、一個だけ。オマケだ」

「…うん!」

「それで終わりだからな、今は」

「んー」


りるはまた笑顔に戻って、飴を舐め始める。

まあ、いい子だったんだ。

一個くらい、追加してやってもいいだろ。


「さすがだな、紅葉は。やっぱりすごいよ」

「何もすごくないさ。りるが、いい子だったんだろ?」

「…まあ、そうかもしれないけど。やっぱり、ちゃんとお母さんなんだなって」

「お前もなってみるか?」

「俺は父親だ」

「ふふ、そうか」

「分かって言ってるだろ」

「どうだろうな」

「まったく…」


千秋はりるの隣に座って、頭を撫でる。

飴を舐めて上機嫌のりるは、もっと気分がよくなったのか、尻尾をパタパタと振り始めて。

それを見て、千秋も笑っていた。



灯と美希が厨房から戻ってきて、調理班の作戦会議の様子を記した覚書を並べていって。

そして、大会の話になる。


「ふぅん。そんな大会があるんだな」

「今年初めて開催されるんだけどね。ルクレィの平和祈願と、各街の交流のためだって。開催自体は結構前に決まってたんだけど、主旨とか内容は、昨日発表されたんだ」

「それで、明後日本番なのか?急だな、えらく」

「うん。その三日は、代表の正式な選出と作戦を練るための時間だよ。公平を期すために、話し合いも極秘裏に行われて、発表も急なんだよ」

「でも、そんなことをする意味はあるのか?」

「まず、参加出来る人数が分からなければ、個人戦なのか団体戦なのか分からないでしょ?まあ、予選とかの代表を選出する地区分けは先に発表されてて、おおよその部分は決めておくことが出来るんだけど。でも、それは誰にも等しく与えられる機会ってことで、ここで差は出ない。むしろ、先にだいたい決めておかないと、急に発表することなんて出来ないでしょ?」

「まあ、広い地区だったり、料理人が多い地区だと、手間取るかもしれないしな」

「うん。それで、課題や使える素材が分からなかったら、何を作ったらいいのかも分からないでしょ?ある程度想定して、何人か代表候補を決めておくのも大切だね。地区の団結力の見せ所ってこと。懐石料理の大会なのに、大衆食堂の人が出るわけにもいかないでしょ?譲り合いの精神だよ。肘張ったり、いがみ合ったりしないでさ。まあ、懐石料理の大会って決まってるんだったら、大衆食堂の人が選ばれることはないだろうけど、今回みたいな場合はね。私たちも、懐石料理なら誰、精進料理なら誰って決めてたんだよ」

「ふぅん。じゃあ、家庭料理なら灯、と決まってたのか?」

「ん?んー…。私はどちらかと言うと、変わり種かな。何かよく分からないのが出たら、とりあえずって位置付け」

「なんだよ、それ…」

「あはは。まあ、いろんな意味で、みんなの結束力も試されるんだね。代表が決まらなければ、もちろんその地区は不戦敗になるわけだし」

「いろいろ考えてあるんだな」

「んー、どうなのかな。たまたま付いてきたオマケみたいなかんじじゃないかな。地区代表の選定なんて、大会の知るところじゃないもん」

「そうなのか」

「うん」

「へぇ…」


千秋は、感心したように頷いて。

…まあ、小地区の代表まで選定していては、大会の運営も大変なんだろう。

各街の代表の選定と、ルクレィ王者を決めるだけなら、競技回数や人数もそれほど多くないし、管理もしやすい。

意図しないところで、地区の団結力が試されているのも、本当に偶然なんだろうな。


「何にせよ、頑張ってくれよ、調理班の代表として!」

「うん、任せてよ!」


…試すだけじゃなく、団結力を強める効果もあるらしい。

まあ、頑張ってくれよ、灯。

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