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一旦、城に帰る。

涼の食堂でもいいんだけど。

実際、風華とりるはそうしている。

でも、今日は厨房で食べることにする。


「あれ、お姉ちゃん。今日は涼さんの食堂じゃないんだ」

「ああ」

「まあ、なんでもいいや。じゃあ、私にもひとつよろしく」

「はい、分かりました」


灯は私の隣に座って。

それから、少し眠そうに欠伸をする。


「なんだ、寝不足か?」

「んー。お姉ちゃんが、なんでこっちで食べてくれないのかなって気になって」

「そんなことを気にする性格でもないだろうに…」

「灯さん、今度開催されるルクレィ料理王決定戦のユールオ予選に、衛士代表として出ることになったんですよ」

「ふぅん。そうなのか」

「ええ。ですので、徹夜で料理を考えてるって、美希さんから聞きました」

「そうか」

「もう…。余計なこと言わなくていいのに…」

「まあ、代表に選ばれたのは、オレとしても誇らしいことだ。頑張れよ…と言いたいところだが、徹夜というのは感心しないな。いつなんだよ、それは」

「明後日です」

「急だな、えらく」

「だいたいそんなものですよ。短い準備期間のうちに優れた料理を考えるというのも、僕たち料理人の腕の見せ所ですし」

「ふぅん。そんなものなのか」

「はい」

「そうなんだよね…。でも、なかなかそういうのって難しいからさ…。王者になるためには、他の誰よりも優れてる料理を作らないといけないし…」

「そうなのか?」

「料理対決なんだよ?ちゃんと聞いてたの?」

「料理対決では、優れた料理が勝つのか」

「当たり前じゃない…」

「優れた料理という基準は何なんだ」

「味はもちろん、盛り付けとか手際の良さとか…」

「手際の良さは、制限時間によって審査されることが多いですね。時間内に仕上がらなければ、その未完成の料理を出すことになります」

「ふぅん。一日煮込むとか、手の込んだことは出来ないんだな」

「いえ。準備期間や食材調達期間も含め、制限時間を丸一週間与えられたりする大会もあるそうです。そういう大会なら、手の込んだ煮込み料理も可能でしょうね」

「それで?」

「この大会は、残念ながら、当日の三時間のみという制限時間です。課題は、ご飯に添える一品。まあ、おかずですね」

「ふむ。三時間では、あまり手の込んだものを作ることは出来ないな」

「はい。出来たところで肉じゃが程度でしょうか」

「肉じゃがなんて作っても、勝ち上がれないよ…」

「ん?どうしてだ?」

「地味じゃん、果てしなく。色合いも茶色ばっかでよくないし」

「ご飯に添える一品だろ。肉じゃがは適任だと思うが」

「はぁ…。全然分かってないなぁ…」

「ああ、分かってないさ。素人意見でしかないかもしれない。だけどな、ご飯に添える一品という課題から、よく考えてみろよ。ほら、この、真っ白な何の変哲もないご飯を見ろ。何の飾りっ気もない、ただの白いご飯だ」

「同じこと、二回言ってるよ」

「それくらい普通のご飯だと言ってるんだ。それで、このご飯の横に、たとえば、何かわけの分からない奇をてらった創作料理を並べたとしよう。そしたらどうだ。この何もないただの白飯と、奇抜なおかずは確かに隣同士並んでいるかもしれないが、しかし、それは"ご飯に添える一品"という課題を満たせているのか?添えるというのは、ただ並べるだけではないということは、お前も分かっているだろう」

「………」

「何の変哲もないただの白ご飯の横に並ぶに相応しい一品というのは、おかしな装飾で人の目を引いたり、やけに気張った"作品"じゃなく、そこにあるのが当たり前というような、何の変哲もない普通の料理なんじゃないのか?それこそ、オレたちが普段食べているような、な」

「………」

「まあ、オレはその料理大会というものがどういったものかは知らない。今のも、課題の文面から考えただけのことに過ぎない。お前たちからすれば、オレはズブの素人だ。お前は、お前の想いを持って、大会に出るんだ」

「………」


灯はずっと俯いたままで。

斗真も心配そうに見ている。


「…斗真」

「はい、なんでしょうか」

「ごめん。お昼は、出来たら私の部屋まで持ってきて。考えたいことがあるから…」

「はい。分かりました」

「…お願いね」


そう言って、灯は厨房を飛び出していった。

…何か見つけてくれたんだろうか。

そうだといいんだけど。


「隊長。出来ましたよ」

「ありがとう。あと、灯の部屋にはオレが持っていくよ」

「そうですか?じゃあ、お願いします」

「ああ」

「…それにしても、相変わらずの隊長節ですよね。ズブの素人だと言いながら、その説得力はないですよ。自信なくしちゃいます」

「何を言ってるんだ。意匠をこらした料理が優秀とされるなら、そっちを選んだ方がいいだろう。オレは、ご飯のお供と言うのであれば、多少見てくれが悪くても家庭的な料理がいいだろうと考えただけで」

「私たちは、なんとかして自分たちの持ってる技術も見せつけたいと考えますからね」

「綺麗な見た目や盛り付けだけが技術ではないだろ。普段のものを、いかに崩さずに工夫をしていくかというのも腕の見せ所だ。もしかすると、そういうものの方が、変な創作料理なんかよりも、ずっと審査員たちの目を引くことが出来るかもしれない。何の変哲もない料理のように見えて、実は細やかな工夫が散りばめられている。素晴らしいじゃないか」

「あはは。隊長は、創作料理とかは嫌いでしたっけ」

「ああ。いくら見てくれが綺麗だったり、珍しい食材を使っていたとしても、家庭の味には勝てないものだよ。オレにとって創作料理は、時間の無駄でしかない。考える時間も、作る時間も、食べる時間も。全て無駄だ」

「あはは…。隊長はやっぱりはっきり言いますね…。正直、自信がへし折られる思いです…」

「そうか。悪かったな」

「いえ…」


しかし、与えた傷は結構深いようだった。

まあ、思っていることを口にしただけなんだけど。

料理は基本が一番。

優しい家庭の味というのが一番だと、私は考えている。

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