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一日分の洗濯物だけだ。

前と比べるとずっと短い時間で終わるはずなのに、実際は前と変わらない。

まあ、イタズラ好きのあいつらのせいなんだけど、咎めることはないだろう。


「楽しく遊んでるやつらを怒ることは出来ない」

「でも、桜たちも手伝ってくれたら、ずっと早く終わるはずだよ?」

「それはそうだけど」

「ユカラも協力して、ちゃんと終わってから遊んでよ。なんで途中から、桜と一緒に遊んでるのよ」

「ご、ごめんなさい…」


ユカラは別に悪いことをしたわけでもないのに、風華の剣幕に圧されて謝ってしまう。


「姉ちゃんから言ってよ。私の言うことなんて、全然聞かないんだから!」

「それは、オレの場合も同じだと思うけど」

「………。もう…何か良い方法はないのかな…」


と言って、薬棚を見渡す。


「従順になる薬なんてあるのかな…。大人しくなる薬とか…。鎮静剤はまた違うし…」


…薬でなんとかする気なんだろうか?

無理だと思うけど…。


「姉ちゃん」

「ん?」

「これ、どう?」


と、ユカラは長刀を構えてみせる。


「長すぎじゃないか?なんだ、ほら。この前の大剣なんかはどうだ?」

「これ?」


長刀を消して、空中から幅の広い大剣を取り出す。

…風華から、これは"術式"の一種だと聞かされても、不思議なものは不思議だ。

あらゆる武器を意のままに取り出す様子は、まさに武神といったかんじ。


「ねぇ、どうなの?」

「あ、あぁ。もう少し小振りの方が良いだろうな」

「うーん…」

「ユカラは、大きな武器が好きなの?」


何やら怪しげな、薬の材料と思われるものを抱えて、風華が質問する。

…確かに、さっきから取り出すのは幅広の大剣、長刀、青龍刀、槍と、やたら大きなものばかりだ。


「うん!好きだよ!だって、大きい武器って格好いいじゃない!」

「そ、そう…?」

「うん!」

「でもな、ユカラ。自分に合った武器でないと、力を充分に発揮出来ないぞ」

「むぅ…」


まあ、使ってみないと分からないけどな。


「ちょっと素振りしてみろ。良いかんじなら、それでいこう」

「えぇ!?ここではやめてよ!」

「あー、分かった分かった。じゃあ、外に行こうか」

「うん」


風華に追い出される形で、医療室を後にする。


「でも、なんで戦闘班に入ろうと思ったんだ?」

「姉ちゃん、戦闘班でしょ?だから、何かの役に立ちたいなって思って」

「そんな…どこに入っても役に立ってもらえるし、それに、無理してどこかに所属しようと思わなくてもいいんだぞ」

「無理なんかしてないよ。あたしはあたしのやりたいようにしてるだけ」

「…そうか」


前にも、似たようなことを風華から聞いたな。

役に立ちたいという気持ちは嬉しいけど、何か複雑なかんじ。

特に戦闘班なんかは、戦ともなれば最前線で戦うことになる。

厳しい訓練とたくさんの経験を積んでいるとはいえ、危険なのには変わらない。

そこに、こんなに小さな子を放り込む。

やっぱり、そんなこと…。


「この力を上手く使いたい。あたしは元より、戦うために生まれてきた。だから、戦闘班が一番の居場所なの」


私の考えを遮るように、でも、独り言のように呟く。

だからこそ、その裏側が見えた気がした。


「…それでいいのか?」

「うん」

「…本当に?」

「うん。あたしが、自分自身で決めたことだから」

「じゃあ、なんでそんなに哀しそうな顔をする?」

「え…?」


慌てて、大剣の光る刃に顔を映して確認する。


「ふ、普通じゃない!」

「そうか?オレには、哀しそうに見えるけど」

「哀しくなんて…ない」

「戦闘班じゃなくても…医務班でもいいんだぞ?」

「な、なんで医務班なんか…!」

「戦うために生まれてきた。そう言ったな?」

「う、うん…」

「じゃあ、ユカラ自身、戦いたいと思ってるのか?」

「あ、当たり前…じゃない…」


今朝のこともある。

それが本心ではないのは明らかだ。


「ユカラの人生だ。他人の私がどうこう言えるものではない。でも、ひとつだけ言わせてくれ。…自分に正直に生きなさい。そうしないと、あとで後悔することになるから。自分だけには、嘘をついちゃダメ」

「………」

「じゃあ、改めて聞く。…本当に、戦闘班でいいんだな?」

「うっ…うぅ…。嫌だよぉ…。もう…もう…傷付けたくない…。あたしは…あたしは…兵器なんかじゃない…!」

「ああ。お前はユカラ。泣き虫だけど、オレの可愛い妹だ」

「姉ちゃん…姉ちゃぁん…。うぅっ…うえぇ…」


大剣は跡形もなく消え、ユカラの温かい涙だけが残った。



再び医療室。


「あれ?早かったんだね」

「いや、そうじゃなくてな」

「風華。あたし、医務班に入りたい!」

「え?どういうこと?」

「あたし、自分に正直になるの!」

「……?」

「みんなを助けたいの!怪我をした人、病気の人…。あたしでも…兵器として生まれたあたしでも、救えるものがあるんだって!」

「…そう。それなら大丈夫ね。その心、忘れちゃダメだよ」

「うん!」

「じゃあ、まずは薬草薬石の暗記からだね」


そして、薬棚の端のものから順に名前を言っていく。

…私には無理だな。

でも、ユカラは本当に楽しそうで。

救えるもの、か。

私の場合は、守れるもの、だろうな。

この手で守れるものは、必ず守りきる。

そう、誓ったから。


ユカラは医務班に就きました。

さて、どんな働きを見せてくれるのでしょうか?

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