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洗濯が終わると、ちょうど時間になったと言って、秋華は今日は剣道場へ行く。

それを聞いて、ナナヤはホッとしていたようだけど。

私も、風華とりるを連れ立って、秋華の修練の様子を見に行くことにする。


「師匠!見てくれていますか?」

「ああ。見てるよ」

「えへへ。頑張りますっ!」


ここの道場は竹刀を使うのではなく、布の細長い袋に綿を詰めた柔らかい特製の剣を使う、要するにちゃんばらだった。

叩かれればかなり痛いが、危険性はもちろん竹刀や木刀より少ない。

だから、重い防具も要らず、最低限の防御が出来る簡単な防具で済む。

そのせいか、子供の姿が多く見受けられた。


「あ、お母さん、お姉ちゃん」

「え?」

「ん?光か。どうした。ここに通ってるのか?」

「えっ、そうなの?」

「うん」

「へぇ、そうなんだ」

「お母さんと、お姉ちゃんは、どうしたの?」

「秋華の練習を見にきたんだ。お前のもちゃんと見てるからな」

「えへへ。なんか、ちょっと、緊張するかな」

「いつも通りやってくれたらいいんだよ。応援してるから」

「うん!じゃあ、行ってくるね」

「頑張ってね」


力強く頷くと、光はパタパタと走っていって。

途中で秋華に声を掛けたところを見ると、どうやら少なくとも顔見知り程度ではあるらしい。


「姉ちゃんは知ってた?」

「いや」

「いつの間にだよね」

「まあ、好きなことをやってるんだから、いいじゃないか」

「うん。それはそうだけどね。響は一緒じゃないのかな」

「あいつは、修練とか鍛練とかは嫌いな性格だろ。遊びでこういうことをやっても、わざわざ道場には来ないよ。たぶん」

「んー、そうかもね。…ところで、りるは?」

「あそこにいる。ほら、剣を二本持ってるやつだ」

「あ…。ホントだ…。何やってんだろ…」

「ちゃんばら遊びだな」

「遊び…」

「まあ、あれが、ここでのあいつの楽しみ方なんだろ。師範も何も言ってないようだし、好きにさせておけばいい」

「ていうか、師範が相手してるよね…」

「そういう細かいことは気にするな」

「細かくないと思うなぁ…」


りるは相変わらず、自由奔放な闘い方をしている。

飛び跳ねたり、走り回ったり、とにかくジッとしていることがない。

でも、隙を突かれて一発を貰うと、なぜか楽しそうに笑っている。


「あはは。変なの」

「まあ、あいつらしいと言えば、あいつらしい」

「そうだね。なんでも遊びに変えちゃう。姉ちゃんみたい」

「オレは別に、なんでも遊びに変える特技なんて持ってないぞ」

「持ってるよ。だって、姉ちゃんと一緒にいたら、退屈することがないもん。きっと、みんなに何かすごい魔法を掛けてるんだよ、姉ちゃんは。みんなが楽しくなるような、すごい魔法」

「そうだといいんだがな」

「ふふふ」


風華はときどき突拍子もないことを言う。

嬉しいことだったり、少し傍迷惑なことだったり。

今回は、前者かな。


「あ、ほら。秋華と光が」

「ああ」

「師匠!風華さん!見ててくださいねっ!」

「お母さん、お姉ちゃん。わたし、頑張るよ」

「二人とも頑張って~」


どうやら、簡単な試合をするらしい。

他の門下生が横に避けていき、秋華と光が前に出る。

りるも、端っこの方に座って、二人を交互に見ていて。


「………」

「………」


秋華は長めの剣を、正面に構えている。

基本だな。

対して光は、秋華のものより少し短い剣を両手に二本持っている。

二刀流だ。


「前へ」

「よろしくお願いしますっ!」

「よろしく、お願いします」

「見合って」

「………」

「………」

「始め!」


まず動いたのは秋華。

一歩を踏み込んで、いきなり逆袈裟に。

しかし、光には当たらなかった。

光は音もなく秋華の後ろに回り込み、回転を加えて秋華の足下を薙ぐ。


「やっ!」


秋華はそれを宙返りをしてかわし、そのまま上体を捻って兜割り。

しかし、また光に当たることはなく。

光は、次は秋華の側面に回り込み、無防備な脇腹を狙う。


「撥!」


秋華は振り下ろしていた剣を跳ね上げ、光の一撃を弾き飛ばして。

それから、横に転がって体勢を立て直す。

だけど、光はもう後ろに回っていて。

次の一撃を見切った秋華は防御に回る。


「面」


しかし、そこに攻撃が来ることはなく、光のゆるゆるの一撃は、秋華の頭に当たっていた。

そのまま、秋華はガックリと膝をついて。


「また負けてしまいました…」

「両者、見合って」

「あ、はいっ」

「礼」

「ありがとうございましたっ!」

「ありがとうございました」


深々と礼をすると、二人はこちらに走ってきて。

秋華は、少し難しい顔をしている。


「速いね、光はやっぱり」

「ああ。久しぶりに見させてもらった」

「師匠!また光に負けてしまいましたっ!」

「そうだな」

「何がいけないのでしょうか…」

「何がいけないということはないな、二人とも。ただ、光とお前とでは、まだまだ力量に差がありすぎるようだ」

「やっぱりそうですか…。そんな気はしてたのですが…」

「わたし、あんまり、強くないよ。秋華の方が、ずっと強いよ」

「うぅ…。その慰めが心に沁みてしまいます…」

「まあ、秋華はもしかしたら、徒手空拳のときの動きをちゃんばらにも応用出来たら強くなれるかもしれないな。別々に考えるんじゃなくて」

「は、はぁ…。難しいですね…」

「光はもともと、誰にも負けない速度を持っている。それをちゃんばらにも活かせているんだ。お前も、活かしてみることを考えてみろ」

「は、はいっ!頑張ってみますっ!」

「ああ」

「そ、それでですね、師匠…」

「分かってるよ。オレはお前の師匠だからな。しっかり付き合うよ」

「あ、ありがとうございますっ!」


秋華はまた深くお辞儀をして。

光は、それを見てニッコリと笑っていた。

…いい好敵手だな、光と秋華は。

朝言ってた、切磋琢磨出来る仲間になれるだろう、この二人なら。

ナナヤは、少し根性に難があるけど。

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