表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
326/578

326

「そういうわけだ」

「ふぅん。なるほどね。女の子のお婿さんか」

「ああ。実際の性別ではな。だけど、心はちゃんと男だ」

「うん。難しいからね、性同一性障害って。それで?結局、こっちに住むって?」

「ああ」

「所属は?」

「考え中だそうだ」

「部屋は…天守閣の屋根裏だったっけ?」

「ああ、そうだ」

「…本当に、ここのみんなって、自由なところに居を構えるよな。桜なんて地下の独房だし」

「どこに住み着こうがいいじゃないか」

「いいんだけどね…」

「不満があるなら言えばいい」

「いや、ないです…。すみません…」

「ふん。部下の尻に敷かれる国王か」

「部下でもあるけど、妻でもあるからな…」

「一家の大黒柱が、そんなナヨナヨでどうするんだよ」

「ナヨナヨでも、僕を支えてくれる柱があれば、しっかりと立つことが出来る。それとも、大黒柱は一人で立ってないといけないのか?」

「…そんなことはないけど」

「そうだろ?だから、僕は立っていられるんだ」

「…そうか」


利家は無邪気に笑ってみせる。

…勝てないな、本当に。


「うん。じゃあ、分かったよ」

「よろしく頼む」

「あ、それと」

「ん?」

「弟子を取ったって?」

「…誰に聞いたんだよ」

「さあ、誰だろうね」

「はぁ…。まったく…」

「いいじゃないか、別に。それで?何の弟子なんだ?」

「それは聞いてないのか?」

「聞いてたら聞かない」

「それはそうだけど…」

「で?」

「…街の方で無心一刀流がやってる北の拳法だ。一度手合わせをしてな」

「ふぅん。北の拳法ねぇ」

「知ってるか?」

「噂には聞いたことがあるよ。動物拳の一種で、最強の拳法だって。でも、知ってる人は意外に少ない。使える人は、さらに少ない」

「なんだ。よく知ってるんじゃないか」

「よくは知らないよ。あくまで噂だから。まあ、今、紅葉によって裏付けされたわけだけど」

「はぁ…。そうだな…」

「なんでため息なんだよ」

「なんとなく」

「えぇ…」

「ふん」

「…でもさ、紅葉って、なんかいろいろ知ってるよな。北の拳法もそうだし、他にも、なんでこんなこと知ってるんだってことでも知ってるし」

「悪かったな」

「悪くはないよ。ただ単純に、すごいなって思うだけで」

「………」

「あ、照れてんだ」

「照れてない」

「そうかな」

「照れてない!」

「あはは。やっぱり怒った」

「怒ってもない!」


だけど、利家は笑うことをやめないで。

まったく、何がそんなに面白いんだよ…。


「まあ、千秋の件は了解したよ。紅葉の弟子のことも分かった」

「…ああ」

「で、どうする?」

「何が」

「もう部屋に帰る?遅いし」

「他に選択肢があるのか?」

「んー。この部屋に泊まるとかさ」

「……!」

「あはは、冗談だよ。顔、一瞬で真っ赤になったぞ?」

「か、からかうな!」

「でもまあ、たとえば、久しぶりに夜の散歩に出るとかさ」

「お断りだ!」

「そう怒るなよ」

「怒ってない!」

「あぁ、待てって」


利家の部屋から出る。

なんだよ、からかったりなんかして。

オレがバカみたいじゃないか。

…いや、バカなのか。

あんな冗談を真に受けるようではな。


「待てって」

「………」

「あ、姉ちゃんと兄ちゃんだ。何してんの?」

「何もしてない。部屋に帰るぞ、風華」

「あ、兄ちゃん、姉ちゃんを怒らせたんだ」

「ははは…」

「じゃあ、しょうがないねー」

「あっ、風華も僕を見捨てるのか?」

「姉ちゃんが怒るってことは、兄ちゃんが全面的に悪いんだもん。それなら私は、姉ちゃんを全面的に応援するよ~」

「はぁ…。じゃあ、今日は諦めるか…」

「その方が懸命だね。姉ちゃんに喉笛を噛み千切られても嫌でしょ?」

「紅葉に最期を看取ってもらえるなら本望だ」

「喧嘩別れする気なの?」

「いや、そういうわけじゃないけど…」

「まあさ、反省するといいよ。しばらくの間」

「…そうします」

「じゃあ、ほら。帰った帰った」

「………」


風華に追い払われ、利家はすごすごと部屋に戻っていく。

…ふん、いい気味だな。

今日のところは。


「…それでさ、なんで怒ってるの?」

「なんでもない」

「どうせ、部屋に泊まっていくかとか聞かれたんでしょ。それで、照れちゃってさ。それをさらにからかわれたとか」

「…お前、見てたのか?」

「見てないよ。普段の様子から考えれば、だいたい分かるし」

「………」

「まあ、図星とは思わなかったけどね」

「…ふん」

「いいじゃん。無理矢理泊まってやればよかったんだよ。そしたら、兄ちゃん、かなり焦るだろうしさ。女の子を泊まりに誘うのがいかに大変なことか、教えてやればよかったんだよ」

「…そんな勇気はない」

「まあ、そうだろうね~。姉ちゃんってば、ウブなんだから」

「ふ、風華!」

「ほらぁ。そうやってすぐに照れちゃうから、兄ちゃんみたいなのに漬け込まれるんだよ」

「…言い返す言葉もないよ」

「あはは、そんな弱気なこと言わないの。もっと、いつもみたいに、強気の勝気でさ」

「………」

「ふふふ。でも、これじゃあ、天下の衛士長も形無しだね」

「はぁ…」


本当に、この兄妹ばっかりは…。

口では一生勝てない気がするな…。

はぁ…。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ