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それからしばらく、何かいろいろと話をしているらしい。

親子水入らずということで、私は途中で抜け出してきて中庭でブラブラしてるけど。


「ありがとうございます、紅葉さま」

「ふん。オレは、オレのやりたいことをやっただけだ。礼を言われる筋合いはない」

「左様でございますか。では、お礼は申し上げないこととします」

「…しかし、お前はどう思うんだ、今回のことは」

「私ですか?」

「ああ。他に誰がいる」

「そうですね…。旦那さまから固く口止めされていました故、千秋さまには黙っておりましたが、心苦しい日々でした。しかし、今日、全てを打ち明けることが出来、また、千秋さまと旦那さまの関係を修復出来たことは、心からお慶び申し上げたく思います」

「そうであるのに、じゃあどうして、自ら解決しようとはしなかったんだ?」

「それも召使いの辛いところでございます。お仕えする方々の命は絶対です。何があろうとも、逆らうことは許されません。逆らえば、お仕えする方々への謀叛とも同義ですので」

「ふん。面倒くさいんだな、召使いというのも」

「そう仰られると、辛いところがございます」

「まったく…」


だけど、少しでも早くと、千秋を私のところに寄越してきた。

ウォルクも、そういった厳しい制約の中で、千秋や家族のためを思っていろいろと考えているということだろうな。


「師匠!」

「ん?秋華。どうした。話は終わったのか?」

「はいっ!姉さまは、また帰ってきてくれることを約束してくれましたっ!」

「そうか。よかったな」

「はいっ!」

「それで、その千秋はどこに行ったんだ?」

「姉さまは、自分の部屋を見にいきました。ずっと、昔のままにしてあるので。思い出に浸りたいということで、私は少し出てきたのですが」

「そうか」

「姉さまの部屋は、私と正光で掃除していたのですよっ。そうやって、ずっと、姉さまの帰りを待っていたのですっ」

「そうか。偉かったんだな」

「はいっ!今日、やっと、姉さまが帰ってきてくれましたっ!」


秋華の頬を伝う涙を拭いてやる。

だけど、秋華は笑っていて。

…もう寂しい思いをすることもない。

思い悩むこともない。

これからは、家族みんなで。

そういうことだろう。


「師匠!稽古は明日からでいいですか?あのっ、姉さまとたくさんお話ししたいのでっ!」

「ああ、いいよ。今日はゆっくり話せばいい」

「ありがとうございますっ!あ、それと」

「ん?」

「姉さまが、師匠にお話ししたいことがあるので、部屋に来てほしいと言ってました」

「そうか。部屋はどこだ?」

「あ、はい。案内しましょうか?」

「いや。一人で行くよ」

「そうですか。分かりました。では、ここの廊下をあちらに真っ直ぐ行って、突き当たりを左に曲がってください。そこの一番奥の部屋が姉さまの部屋です」

「分かった。じゃあ、ちょっと行ってくるよ」

「はいっ!行ってらっしゃいませ!」

「行ってらっしゃいませ」

「ああ」


秋華とウォルクに見送られ、さっき聞いた道を行く。

広い屋敷らしく、両手には襖や障子がずらりと並んでいる。

城には構造上、長い廊下というのがあまりないから、こういう景色もなかなか見られない。

突き当たったところを左に曲がると、こちらは普通の引き戸なんかが多くなってくる。

たぶん、家人や使用人の部屋が多くあるんだろう。

何の部屋なのか想像をしながら、一番奥へ。

半開きの戸があったから、ここが千秋の部屋だと分かった。


「入るぞ」

「ん?あぁ、もう来てくれたのか」

「秋華に言われてな。…なんだ、話っていうのは」

「…うん。俺ってさ、まだまだ未熟だから間違うことも多いかもしれない。現に、今回のことだって、紅葉がいなければ間違うところだった」

「………」

「紅葉には感謝してる。俺を、正しい道に導いてくれたんだ。これからは、本当にここの家族として、生きていくことが出来る」

「そうだな」

「秋華や正光とも…」

「………」

「それでさ、俺、決めたんだよ。いや、決めてたんだ。全部が終わったら…全部に決着をつけることが出来たら、紅葉に告白するって」

「ああ。知ってる」

「この部屋に帰ってきて思ったんだ。あぁ、今までの俺はもう終わったんだなって。これから、新しい人生が始まるんだなって。…だから、告白する。俺は、紅葉のことが好きだ。あのとき、釜屋で会った瞬間から、生涯の伴侶にするなら紅葉しかいないって思った」

「………」

「俺と、結婚してくれないか?」

「…オレは、もう結婚している。利家という夫がいるんだ」

「ああ。知ってるよ。ウォルクや勲さんから聞いてる。その上で、申し込んでいるんだ。嫌なら断ってくれても構わない。そのときは、潔く諦めるだけだから」

「………」

「…ごめん。難しいことばっかり言って。今すぐに答えを出してくれなくていいから。明日でも、明後日でも、俺は待つから」

「いや…その必要はない」

「えっ?」

「…いいだろう。申し入れを受けよう。籍を入れることは出来ないけど」

「……!本当か?」

「つまらない嘘はつかない主義だ」

「ありがとう!なんか、もう、何も言えないけど…!」

「何も言わなくていいよ」


千秋も泣いていた。

秋華と同じように。

泣いているのに、笑っていた。

…新しい門出を祝おう。

私の、もう一人の夫として。


「嬉しいよ、俺!」

「そうか」

「うん!今日は最高の一日だ!」


でも、城に帰ったらまず、利家にこの状況を話さないとな。

ややこしい話をすることになるだろうか。

利家だから、そんなことはないと思うけど。

まあ、何はともあれ、話してみないとな。

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