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「師匠、師匠!起きてください!」

「ぅん…?秋華か…」

「師匠!朝練です!朝の稽古をつけてください!」

「あぁ…。朝の稽古…」


でも、まだ太陽は山の向こうのようだけど…。

元気だな、若い者は…。


「あー…。お前、道場の稽古はどうした」

「道場はこのあとにいきます。師匠!お願いします!」

「んー…。オレの稽古は道場が終わってからにしてくれ…」

「…分かりました。では、何をしておくべきか、教えてください!道場の時間まで、一人で稽古をしておきたいのでっ!」

「そうだな…」


まったく…。

今日はぐっすり寝ていたらしいのに…。

結局、いつもの時間じゃないか…。


「分かった。ちょっとこっちに来い」

「はい。何をすればいいのでしょうか」

「もうちょっと…」

「はい」


私の話を聞こうと近寄ってきた秋華を捕まえて。

そして、布団の中に入れる。


「し、師匠!な、何を!」

「寝る子は育つ。お前、こんな早くに起きてきて、稽古稽古言って。身体に悪いぞ。特に、まだまだお前はちみっこいしな。朝練より、しっかり睡眠を取れ」

「は、はぁ…」

「ふふふ。お前、武道に打ち込んでる割に、プニプニしてるんだな」

「プ、プニプニ…」

「ああ。可愛い」

「………」

「顔、赤いぞ」

「うぅ…。し、師匠はイジワルです…」

「そうだな。オレは意地悪だ」


火照っている秋華の顔を撫でて。

ふふ、本当に可愛いやつだ。

…まあ、今はゆっくり寝るといい。

あとでまた、しっかり稽古をつけてやるから…。



夜が明けたらしい。

瞼の裏に、光を感じる。

少し、目を開けて。

…秋華はまだ眠っていた。

やっぱり、少し無理をしてたんじゃないだろうか。

その綺麗な髪を、そっと撫でる。


「んぅ…」

「すまない。起こしたか?」

「いえ…。今、何時くらいでしょうか…」

「夜が明けたばっかりだ」

「ふむぅ…。では、もうそろそろ朝練に出ます…」

「そうか。…オレも道場に行ってもいいか?」

「………。あ、はい、どうぞ…」

「どうも」

「ふぁ…」

「まだ眠いんじゃないか?」

「んー…。もう、いつも起きてる時間なんですが…」

「さっき、朝、無理をしてたんだろ」

「はい…。実は…」

「まったく…」

「すみません、師匠…。ご心配をお掛けして…」

「いや、それはいいよ。それより、お前の道場はどこだ?」

「今日の朝練は…えっと、うーん…。徒手空拳の無心一刀流です…」

「分かった。じゃあ、おぶってやるから」

「えっ…」

「道場までの間、しばらく眠っていろ。そんな寝惚け顔じゃ、稽古も何もないだろ」

「あ…でも…」

「遠慮するな。オレは、お前の師匠だろ?」

「えっ…。あ、はい…。そうですが…」

「ほら、だから、遠慮するな」

「んー…。よく分からないです…」

「深く考えるな」

「………。分かりました…。では、お願いします…」

「ああ」


眠たそうに瞬きをしている秋華を背負って。

位置を調整しているうちに、秋華は眠ってしまった。

…徒手空拳なのに無心一刀流なんておかしな名前の道場は、あそこしかない。

北の拳法を教えてるところも。

よし、じゃあ、ぼちぼち行きますか。



門をくぐって、稽古場へ。

秋華より大きな子が、もう型の練習をしている。

私が横を通ると、丁寧に挨拶をしてくれて。


「おはようございます!」

「おはよう」

「おはようございます!朝から道場破りですか?」

「破るかもな」

「師範との試合の際は、是非とも見学させてください!」

「ああ。分かった」

「おはようございます!ご苦労さまです!」

「どうも」

「あっ。秋華ですか?」

「ああ。まだ眠たいらしいから、送ってきたんだ」

「秋華がですか?いつも、朝早くから自主稽古に勤しんでいますのに…」

「今日はちょっとお寝坊さんのようだな」

「わざわざすみません!預かりましょうか?」

「いや、いいよ。オレが連れていく」

「はい、分かりました。よろしくお願いします」

「ああ」


ここの門下生は、やっぱり礼儀正しいな。

あいつの性格もあるんだろうが。

しっかり教育されている。


「おはようございます!」

「おはよう」


門下生の横を通って、さらに奥へ行く。

そして一番奥、師範控室と書かれた部屋へと入って。


「おはよう」

「おはようございます。…あっ!隊長!」

「いいって。座ってろ」

「そういうわけにはいきません!今、お茶を入れますね!」

「いいってのに…」

「まさか、隊長がいらっしゃるとは思いませんで、みっともない格好を晒してしまい、申し訳ありません…」

「いや、だから、それはいいよ」

「すみません、お茶請けも用意出来ませんで…」

「お前の礼非礼は今はどうでもいい。オレは、今日はお前と話をしに来たんだ」

「は、はぁ…。しかし、このお茶だけでも…」

「分かった。じゃあ、早くしてくれ」

「すみません…」


椅子を並べて、適当に秋華を下ろして。

私も近くの椅子に座る。

…しかし、こいつと話をしようとすると時間が掛かるのが難点だな。

礼儀正しいのはいいが、少しくらい融通を利かせてくれてもいいようなものだけど。

私が言えた義理じゃないか。


「粗茶ですが…」

「はいはい。結構なお手前で」

「隊長…。それはちょっと違う気が…」

「なんでもいいだろ。まあ、座れ」

「は、はい…」

「じゃあ、改めて。久しぶりだな」

「はい。お久しぶりです」

「こいつに聞いて、すぐに分かったよ。徒手空拳の無心一刀流なんてな」

「は、はぁ。すみません…。自分の名前など入れてしまって…」

「いや、それはいいよ、別に」

「そ、そうですか?」

「それより、こいつはどうだ?」

「えっ?秋華ちゃんですか?そうですね。この小さい身体で、大人にも引けを取らないどころか、私でも実戦で負かされることがあるくらいですよ」

「そうなのか」

「まあ、さすがに隊長には勝てないでしょうけどね」

「どうかな。こいつ、かなり筋がいいから。そのうち、オレも負かされるんじゃないか?」

「そうですね。一を聞いて百を知れる子ですから。少し血の気が多いのが難点ですが…」

「そのようだな」

「あ、もしかして、隊長に試合を申し込んだりしましたか?」

「まあな。千秋って知ってるか?」

「はい。秋華ちゃんからよく聞いています」

「ああ。その千秋を守るんだってな。虎の一の段で攻めの一辺倒だよ」

「あはは、そうなんですか。やっぱり、大好きなお姉ちゃんということなんですね」

「そうだな」

「はい」


…そうだからこそ。

千秋と早く話しておかないと。

お互いが、本当の気持ちを知るために。

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