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「これは?」
「白」
「こっちは?」
「それも白」
「じゃあ、これ」
「それは藍色」
「ふむ…」
利家が見せた服は、最初が赤、次が白、最後が藍色だった。
「隙あり!」
「赤…。血の色が分からないようにして…」
「あ、あれ?」
「でも、そんな…。人間を作るなんて、やっぱり信じられない…」
「としにぃ?」
「なんだ」
キッと睨まれる桜。
「なんでもないです…」
そして、すごすごと戻っていった。
…桜も桜だけど、利家は水を掛けられたことに気付いてないのか?
だとしたら、相当鈍感…。
「ねぇ、服の色がどうかしたの?」
「ん?あぁ、いや、なんでもないよ…。そうだ、その服、どうだ?衛士の制服なんだけど」
「うん、すっごく良いよ!着心地もいいし、動きやすいし。でも、姉ちゃんのとはちょっと違うんだね」
「そりゃそうだよ。なにしろ、姉ちゃんは衛士長だもん!」
「えじちょう?」
「ああ。まあ…村長みたいなものだ」
「つまり、すっごく偉い人だよ」
「そ、そこまでは…」
「えぇ~!すご~い!姉ちゃん、偉い人なんだね!」
「そうそう。ユカラも隊長のこと、よく拝んどいた方がいいよ」
「か、香具夜!」
「あぁ、これは失礼。楽しいお喋りの邪魔をしてしまいましたね。私は引き続き、こんなボトボトにしてくれた犯人を追跡します」
そう言って、髪から水を滴らせながら走っていってしまった。
「むぅ~…」
「ユカラ…オレを拝んでも何の御利益もないぞ…」
「ふふ、良いじゃない。こういうのは気持ちの問題だよ」
「気持ちってなぁ…。拝まれる方の身になってくれ…」
「私は姉ちゃんほど偉くはないからね~。私も拝んどこ」
「ふ、風華!」
と、二人の後ろに忍び寄る影が。
「バッシャーッ!」
「きゃっ!冷た!」
「………」
桶いっぱいの水を掛けられれば、そりゃ冷たいだろうよ。
…しかしユカラは、振り向きもせず、水の掛からない的確な距離を測り、実際、ちゃんと避けていた。
それは、並大抵の訓練や経験で出来る動きではない。
「対象を確認。狙撃機能へ移行します」
「ユ、ユカラ…?」
ユカラが空中から取り出したのは…水鉄砲。
手近にあったタライで素早く弾薬を補充して"対象"へ噴射する。
…ていうか、武器以外も出せるんだな。
いや、ある意味武器か…。
「あぅ…。ず、ずるいよ!水鉄砲なんて!」
「不意討ちも充分ずるいと思うよ?ふふ、覚悟しなさいよね…」
「うぅ…。さ、桜お姉ちゃ~ん!」
半泣きになりながら、望はどこかに走っていった。
「逃がさないよ!」
それを追って、ユカラも走っていった。
「あぅ…ボトボトだよ~…。日に日に酷くなっていくね…」
「オレは全然濡れてないけど」
「私は姉ちゃんほど感覚も鋭くないし、勘も良くないの!」
「それくらいは訓練でどうにでもなる。訓練、受けてみるか?」
「…遠慮しとくよ」
「そうか。残念だ」
でもまあ、その方が良いだろうがな。
私のときは…母さん、特別厳しかったからな…。
目隠しして真剣で戦うなんて…。
今でも、ぞっとする内容だった。
「ユカラ。この色だけど…」
「いないよ」
「…あれ?ていうか、僕、なんでこんなに濡れてるんだ?」
「…桜に掛けられたの、気付いてなかったのか?」
「全く」
「はぁ…。昔からそうだよ…。集中すると周りが全く見えなくなるの、悪い癖だよ」
「あんまり褒めないでくれ」
「褒めてない」
風華が洗濯物に目を戻した瞬間、利家は思いっきり引き寄せた。
私も一歩横に避けると、私と風華を結ぶ直線上に放物線が描かれる。
しかし風華がそれを見ることはなく、利家に文句を言っている。
「あぁ!」
「ユカラ。お前まで桜に抱き込まれたのか?」
次なる一撃をかわし、手で即席の水鉄砲を作り、響に掛けてやる。
「やぁん…」
「まだまだ甘いな」
「撃てー!」
ユカラと響は新しい水鉄砲を取り出し、さらに桜、望、光、葛葉の六人六方向からの攻撃。
でも、水鉄砲を使ってる分、速さはあるが攻撃範囲は狭くて。
一気に加速して葛葉に接近。
腰に差してあった水鉄砲を盗って、一人ずつ仕留めていく。
「顔を洗って出直してくるんだな」
「くっ…。次の作戦、考えにいくよ!」
「「「おぉーっ!」」」
いつか、私を完膚なきまでに叩きのめすような作戦、立ててくれよ。
楽しみにしてるからな。
「もう!ユカラまで!まったく…何考えてるのかな!」
「まあ、みんな楽しんでるみたいだし、良いじゃないか」
「私は全然楽しくないよ!」
頬を膨らまし、乱暴にゴシゴシと洗濯物を洗う。
でも、やっぱり本気でそう思っているわけではないらしく。
「くっ…ふふふ」
「顔がニヤけてるぞ」
「ふふふ。だって、楽しいんだもん」
みんなが楽しいから、自分も楽しくなる。
でも、自分が楽しいから、みんなも楽しくなる。
ひとつの輪のようになって、楽しさは連鎖する。
竹筒の水鉄砲と言って、最近の子たちは分かるのでしょうか?
自分は一回だけ作ったことがあるんですが。