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「お母さん!」

「ん?なんだ、りるか。なんでここに?」

「どこにいたの!」

「えっ?」

「どこにいたの!」

「千秋の家だけど…」

「あ、お姉ちゃん。やっぱりここにいたんだ」

「灯。どういうことなんだ、これは」

「りる、寂しがって大変だったんだよ。お姉ちゃんがいないってさ。泣いちゃって」

「泣いてないもん!」

「あはは。慕われてんだねぇ、紅葉ちゃん」

「慕われてるというか、りるはお姉ちゃんにベッタリだから」

「そっか。ベッタリか。でも、いいんじゃない?甘えられるときに甘えさせておかないと」

「この調子で、ちゃんと母親離れ出来るか心配だけどね…」

「大丈夫大丈夫。離れるときになったら、スッと離れるもんだよ」

「それはそれで寂しい気もするけどね…」

「まあ、親としては複雑なところではあるよね」

「ふむ…」


抱きついてグズグズと泣いているりるの頭を撫でて。

まあ、ちゃんと離れてくれればいいんだけど。

涼の言う通り、今はまだ甘えてくれたらいいけどな。


「それで?どこに行ってたの?」

「千秋の家だけど」

「ふぅん」

「言わなかったか?」

「言われたかな?」

「いや、覚えてないけど…」

「まあいいじゃん。何しに行ったって?」

「千秋ちゃんが家を出る出ないって話だよ。それで、紅葉ちゃんがガツンと言ってだね」

「千秋、家を出ることになったの?」

「んー、どうなのかな。今、正光くんがグズっちゃってさ。千秋ちゃんがいなくなるのが寂しいんだって。りるちゃんと同じ。今はちょっと、二人とも勲さんの店に行ってるけどね」

「ふぅん。そうなんだ」

「それで、今は秋華ちゃんの話をしてたんだけど、りるちゃんが来てね」

「そうなんだ」

「うん。灯ちゃんも、一緒にお喋りする?」

「そうだね。せっかくだし」

「それで、どこまで話したっけ」

「秋華が寺子屋に行ってるくらいまでじゃないか?」

「あぁ、そうだったそうだった。それでね、正義感がものすごく強い子でさ。しっかりしてるのよねぇ。哲也も、何回も泣かされてるし」

「ふぅん」

「でも、面倒見もよくてさ。なんかほら、劇場の監督みたいなんだよ」

「監督ねぇ。私の知ってる監督は、生真面目で頑固で融通が利かないんだよね」

「灯ちゃん。それ、誰のこと、言ってる?」

「さあ?誰かな?」

「………」

「それでそれで?」

「まあ、そんなところかな。正光くんのお姉ちゃんだってことは知らなかったけど。でも、千秋ちゃん、秋華ちゃん、正光くんって見てると、いい兄弟だなってのは思うよ」

「そうだな。オレは秋華には会ったことはないけど…」

「頼もーっ、頼もーっ!」

「噂をすれば。あれ、秋華ちゃんだよ」

「衛士長の紅葉さんって方はいますか!」

「オレだ」

「あっ!いた!」

「いたな」

「姉さまをどこに連れていく気ですかっ!」

「いや…。私じゃないんだけど…」

「姉さまを…あっ」


と、蹴躓いて転びそうになる。

それをしっかり受け止めて。

…よく見れば、こいつ、竹刀を背負ってるな。

剣道でもやってるのだろうか。


「は、離してください!」

「元気がいいのはよろしいことだ」

「う、五月蝿いっ!恩には着ませんからね!」

「別に、恩を着せようと思って受け止めたわけじゃない」

「うぅ…。敵に助けてもらうとは、武士として、背中の傷も同然ですっ!」

「なぁ、涼。こいつはいつもこうなのか?」

「あはは…。まあね…」

「内緒話なんてズルいです!正々堂々勝負してください!そして、私が勝ったら、姉さまを返していただきますっ!」

「あー。まあ、分かったから、大きな声を出すな。五月蝿いから」

「五月蝿いとはなんですか!いいから勝負してください!」

「お前、剣道を習っているのか?」

「剣道でも格闘術でも、なんでも来いなのです!私が絶対に勝ちます!」

「はぁ…。じゃあ、条件の追加だ。お前が勝てば千秋は返してやるが、オレが勝てばオレの言うことを聞くんだぞ」

「ふん。いいでしょう。私が負けるわけなんてないですからっ!」

「そうかよ。まあ、いつでも掛かってこい。オレが、ちみっこいお前に掛かっていっては尋常な勝負にはならないだろ?」

「私は武士としてさまざまな武術を嗜んでいますので、私にとっては相手が大人か子供かというのは些末な違いでしかないですが。しかし、あなたが気に入らないというのであれば、それで構いません。では、いざ尋常に勝負!」


秋華は背負っていた竹刀を横に置いてから、構えを見せる。

ふむ。

北の拳法だな。

動物の動きを模した、最強の格闘術と言われるものだが…。

虎の一の段とはまた、攻撃一辺倒の構えを出してきて。

よっぽど自信があるんだろうな。

…とりあえず、りるを灯に預けて。

椅子から立ち上がり、少し身体を伸ばす。


「よし。どこからでも来い」

「守りに入らなくていいんですか?あと三秒待ってあげます!」

「お心遣い感謝するが、お前の方こそ、狼の二の段くらいにしたらどうなんだ」

「最初の一手で決めますっ!」


聞く耳持たないようだ。

足に力を込めて、強く地面を蹴る。

次の瞬間には、右からの鋭い中段の蹴りが迫ってきていた。

それを左手で止め、右腕でしっかりと脇腹に挟み込んで。

すかさず秋華は身体を捻って、頭へ蹴りを加えようとする。


「まあ、筋はいいな」

「……!」


足を固めていた右手を離し、左腕での防御を補助する。

地面に落ちた秋華は横に転がり、また立ち上がる。


「少しはやるようですね」

「お前は技のキレや威力はいいが、少しは守ることを覚えないといけないな」

「そういうあなたは、一撃も加えられてないじゃないですか!」

「秋華ちゃん。その辺にしといたら?」

「涼さんは口出ししないでください!」

「秋華ちゃん。ひとつ言っておくとね、着物の帯、解けちゃってるよ」

「えっ?あっ!な、なんで…」

「ほら、ここにあるぞ」


帯を投げて寄越して。

顔を真っ赤にさせている秋華は上手く掴めずに、あたふたしている。


「一生の恥です!しっかり帯紐も結べないなんて!」

「違うよ。紅葉ちゃんに盗られたの、気付かなかった?」

「えっ…」

「攻めを重視するあまりに、自身の守りすら手薄になるようでは、まだまだ修行が足りないということだ。出直してくるんだな」

「そんな…。悪鬼羅刹に私が負けるなんて…」

「えらい言われようだよ、お姉ちゃん」

「まあ、投降するならオレの勝ちなわけだが…」

「まだまだ!負けません!負けるわけにはいきません!」

「はぁ…。仕方のないやつだな…」

「撥!」


また虎の一の段からの突進。

そして、次は勢いを乗せた正拳突き。

打ち倒されるまで続けるだろうな、こいつは。

まあ、手を出すつもりはなかったが、致し方あるまい。

秋華の突きに合わせて、私も反撃を取る形で正拳突きを繰り出す。


「……!」

「勝負ありだな」


秋華の突きが私に届く一歩手前で、私の一撃が秋華を捉える。

…まあ、当てはしないけどな。

でも、それでも充分だったらしく、目の前まで迫った拳に、秋華は腰を抜かしてしまって。


「そんな…。じゃあ、私は、姉さまを守れないのですか…?」


その場にへたりこんで泣き出してしまった。

ふぅむ…。

泣かせるつもりはなかったんだけどな…。

灯は、こっちを見ながらヒソヒソとりるに何か吹き込んでるし。

はぁ…。

まあこれで、秋華が落ち着けば、話は聞けるかな…。

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