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結局、千秋は帰ってしまった。

まあ、結局も何もないか。

あいつの家は、向こうのオカマ長屋なんだし。


「あら、隊長さん。ここが気に入ったのかしら?」

「ん?まあな…」

「またまたぁ!」

「それより、勲はどうした」

「えぇ?ワタシじゃ不満?」

「勲に話があるんだ」

「何の話?…千秋ちゃん?」

「ああ」

「…裏にいるわ。隊長が来て、そう言ったら通すように言われてる」

「そうか」

「勲姐さん、隊長さんが千秋ちゃんのことで今日ここに来るって分かってたみたいよ。女の勘…ってやつかしら?」

「そうかもな」

「まあ、勲姐さんを待たせちゃアレだから。早く行きなさいな」

「ああ、そうさせてもらうよ」

「………」


忠行はまだ何か言いたそうだったけど。

…店の中を通って、裏口に出る。

勲は出てすぐのところにいた。


「隊長」

「よぅ」

「来るって分かってたわ。お昼に、千秋と話してたから」

「立ち聞きとは趣味が悪いな」

「気付いてたくせに…」

「ふん。それで?教えてくれるか?」

「そうね…。あの子の実家は豪族ってのは聞いたでしょ?」

「ああ。豪族の古くからの考え方が嫌だったって」

「そうよ。それで、夜の街をフラフラしてたから、捕まえてきたのよ。最初は反発してたんだけど、少しお店に入れてあげたら、すぐにみんなとも打ち解けてくれて。それから、しばらくはみんなが住んでる長屋に泊めてあげて。その間に千秋の家に行ってきたのよ。すごい豪邸だったわ。確かに、豪族ってかんじの」

「ふぅん…」

「それで、上手く千秋の両親と話をすることが出来たの。でも、まともには取り合ってくれなかったわ。お前は千秋の仲間だろうってね。それで、連れていくならどこへなりとも連れていけって。驚いたわ。あれでも、あの子の家族なんだなって」

「そういうところも昔からの考え方なんだな。家にとって何の役にも立たないのなら、勘当してしまうという。その家にとっては、もう千秋は家族でも何でもないんだろう」

「そうなのよ。だから、私、堪忍袋の緒が切れちゃって。同伴してもらった忠行に止められなかったら、二親とも殴り飛ばしてたわ」

「…そうか」

「ええ。…まあ、そのあと、形だけは取り繕って迎えが来たんだけど、お屋敷の使用人でね。お世話になってた使用人だったらしいんだけど、千秋も相当落ち込んでたみたい。でも、逆に吹っ切れたって。もう家には帰らないんだって」

「なるほどな。まあ、だいたい事情は分かった」

「…隊長。千秋の家に行く気なんじゃないの?」

「さあ。どうだろうな」

「もし行くなら、私も連れていって」

「…ああ、分かったよ。ただし、オレはあくまで衛士長として話を聞きにいくだけだ。お前を止める気はない。自制してくれよ」

「そうね…。分かったわ…」

「よし。じゃあ、早速明日行くから。準備しとけよ」

「えっ、予約もなしじゃ会うことすらままならないわよ?しかも、そんなすぐの予約じゃ…」

「予約なしでも会える方法がある」

「隊長、まさか…」

「そうだ。千秋を連れていく。一度も帰ってないんだろ?」

「…そうよ。使用人が迎えに来たあとも、一回も帰ってないわ。一度くらい帰ったらって言ってるんだけど」

「あいつはもう二度と帰らないよ。そうだよな?」

「………」

「千秋!いつからそこに…?」

「…そうさ。俺は帰る気なんてない」

「ああ。分かってる」

「紅葉。俺、決めた。使用人…ウォルクとも話したんだ。それで、城に行くことに決めた!ウォルクも連れていく。俺が雇用するって形で…」

「そうか」

「それでいいか?」

「言っただろ?オレは、お前がどういう決断をしようとも受け入れるって」

「うん…!」

「千秋…」

「ごめん、勲さん。勝手に決めちゃって…」

「いいのよ、それは。むしろ嬉しいくらいよ」

「店は続けさせてくれ。ウォルクの給料も払わないといけないし…」

「ええ。分かってるわ」

「それから…」

「千秋」

「えっ?」

「明日、ついてきてくれるな?」

「………」

「千秋。行きましょう?それで、決着をつけるのよ。あんな家とは。家を出るにしても、言われっ放しで出てくるのでは納得いかないでしょ?」

「…ウォルクにも言われたよ。そうしろって。分かった。行くよ、俺。それで…きっちり縁を切ってやる。俺にも家族が出来たんだって、見せつけてやるんだ」

「そうよ。その意気よ」

「よっしゃ!行くぞ!」


二人は少し、頭に血が上りすぎているような気もするけど。

…まあ、今の関係はどうであれ、血を分けた家族なんだ。

縁を切るなら切るで、きっちりしとかないとな。

それが筋ってものだろう。

………。

そうだよな。


「じゃあ、千秋。今日はお休みをあげるわ。お城への引っ越しの準備と、明日のためにしっかり休んでおきなさい」

「ありがとう、勲さん!」

「いいのよ、そんなの」

「うん。じゃあ、紅葉。また明日な。告白は…きっちり全部終わらせてからにするよ」

「…ああ。分かった」

「じゃあな!」


そして、千秋は大急ぎで帰っていった。

明日、か。

明日だな。


「どうしたの?」

「いや…。千秋を連れてあいつの家に乗り込むと提案したけど…本当にこれでよかったのかなって思ってな」

「本当なら、和解して家に戻るのが一番いい…そう思ってるんでしょ」

「…ああ」

「まあ、明日になれば、隊長にも分かるわ。少なくとも私は、あんなところに千秋を帰したくない。隊長も同じ考えになると思う」

「そうか…」

「ええ」


…どういう判断が一番なのか。

それは分からない。

でも、千秋を盾にして親に会いに行く限り、責任は私にある。

結局、最終的な決定は千秋がするんだけど…。

私は…。

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