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「隊長、隊長」

「んぅ…。誰だ…」

「起きてください」

「なんだ…」


身体を起こして、少し周りの様子を窺う。

…まだ夜中じゃないか。

もう一度、布団に入り直す。


「隊長!」

「分かった分かった…。大声を出すな…」

「早く来てください」

「何なんだよ…」

「いいから!」

「だから、大声を出すなって…」


まったく…。

なんだってんだよ…。

まだ眠いし…。

布団から抜け出して、とりあえず羽織だけ着て部屋を出る。

でも、さっき呼びに来たやつはどこかに行ったらしく、見える範囲にはいなかった。

はぁ…。

かくれんぼでもしようってのか?

だけど、昼の子供たちのようにはいかないぞ…。

さっさと用を聞き出して、さっさと寝よう。


「ふむ…」


匂いを辿っていく。

逃げ足は速いみたいだ。

今の状況では、かなり面倒くさいが。

角を曲がって、階段に。

下…じゃないな。

匂いが少し古い。

上か。

階段を上がって、例の屋根裏に。

天井板は外れていて、そのまま屋根裏へと入ることが出来た。


「ようこそ」

「何がようこそだよ。こんな夜中に呼び出しておいて」

「月が綺麗だぞ?」

「用件は何だ。オレは眠いんだ」

「…俺と月見をするのは嫌か?」

「嫌ではない。こんなに夜遅くでなければ」

「…そうか」

「それで?衛士になる気になったのか?」

「いや…。まだ分からない。衛士になりたいのかどうか…」

「そうか。まあ、ゆっくり考えればいい」

「………」

「それで、ここにはどうやって来たんだ?門はいつでも開かれてるとは言ったが、夜はさすがに閉まってるし、橋も上がっている」

「どうやって入ったと思う?」

「考えられるのは、門が閉じられる前に入った。あるいは、堀を泳いで渡って城壁をよじ登るなりなんなりしたってところだな。まあ、お前は濡れてないみたいだし、前者だろう」

「さすがだな。俺の目に狂いはなかったわけだ」

「ふん。それだけか?お前も、もう寝ろよ。ここは寒いし、オレの部屋で寝てもいいから」

「…もう少し、月を見ていく」

「そうか」

「紅葉」

「なんだ」

「…悪かったな。お休み」

「ああ。お休み」


階段をそのまま降りていく。

まあ、たぶん、千秋とりるは無関係だろう。

たまたま屋根裏を選んだというだけで。

しかし、本当の用件は何だったんだろうか。

…あいつの本意は分からなかったけど。

まあ、そのうち聞かせてくれるのかな。



目が覚める。

今度はちゃんと朝だ。

…と言っても、いつも通りの夜明け前だけど。

少し身体を起こして、見回してみる。

ツカサはもういない。

やはり、束の間の休みだったというわけか。

まあ、向こうとしても、何日も休ませるわけにはいかないんだろう。

でも、ちゃんと休憩することも覚えさせて。

…ちゃんと覚えてくれるんだろうか。


「………」


まあ、ツカサのことは置いといて。

千秋はいなかった。

もう帰ったんだろうか。

でも、布団に残った匂いは、まだ新しい。

近くにいるのかもしれないな。

…とりあえず、布団から抜け出して。

羽織、着たままだったか。

戻ってきたときの記憶もないし…かなり寝惚けてたんだろう。


「はぁ…」


そんなことはどうでもいい。

今日の当番は誰だろうか。

毎日早起き組が当番ならいいのに。

淡い希望と大きな諦めを持って、部屋を出る。


「あ、おはようございます」

「ん?あぁ、おはよう」

「昨夜はどうされました?何か、フラフラと歩いてましたが」

「うん、ちょっとな」

「そうですか…」

「何か異常はあったか?」

「いえ。あぁ、そういえば、光ちゃんが厠へ行くと言ってフラフラと歩いていたので、付き添いで行って参りました」

「そうか。光と響は、まだ別の部屋で寝てるんだな?」

「はい、残念ながら」

「今回の喧嘩は、少し長引くみたいだな」

「そうですね…。早く、もとの仲の良い二人に戻ってほしいものですが…」

「そうだな」

「隊長が仲を取り持つわけにはいかないんですか?」

「ああいう喧嘩は、当事者に任せて解決させるのが一番いいと、オレは思ってるが」

「そうですか…。まあ、そうかもしれませんね。隊長がそう言うのであれば…。でも、どうしてもダメなときは…」

「分かってる」

「よろしくお願いします」

「ああ。…まあ、夜勤ご苦労さま。今日はゆっくり休んでくれ」

「はい。ありがとうございます」


そう言ってお辞儀をすると、廊下の向こうへ歩いていって。

…二人とも、上手く自分で解決してくれよ。

二人なら、絶対に出来るから。


「………」


さて、厨房にでも行ってみるか。

いや…どうせいないだろうし…。

…まあ、いちおう行っておくか。

毎朝こんな早い時間に起きておいて、厨房に行くかボーっとしてるしかないというのも、全く情けない話だけど。

本当に、市場を手伝いに行ってみるか?

もしくは、散歩。


「んー…」


両方とも悪くはないんだが、でも、腹が減ってるときにやるようなことでもない気がする。

昨日もこんなことを言ったような気がしないでもないが。

まあ、市場に行けば、朝ごはんは出るかもしれない。

…って、さっきから食い気ばかりだけど。

まあいいじゃないか。

食べることは大事だし。

誰に言い訳してるのかは分からないけど。

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