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「それで?上手くやってるのか?」

「結構な。アルは、今はちょっと買い出しに行ってるけど」

「ふぅん。アルの買い出しと、上手くやってることは、何の関係もないけど」

「いいじゃないか、別に。…みんな優しくしてくれるよ。それこそ、勿体ないくらいにな」

「そうか。サンは、ここに来たりするのか?」

「ときどきな。それで、来たときは、いつでもお姉ちゃんの話をしてさ」

「怒られた、とかか?」

「それはあんまりないな。一緒にごはんを食べたとか、一緒に遊んでくれたとか」

「そうか」

「楽しそうに話してるよ。あの神社に住ませてもらってた頃と同じように。本当に、お姉ちゃんに預かってもらってよかったって思ってる」

「お前たちが迎えに来るまで、あいつの機嫌を損ねるわけにもいかないしな」

「大丈夫だよ、お姉ちゃんだったら。サン、本当に、お姉ちゃんのことを信頼してるから」

「まあ、そうだといいけどな」

「相変わらずだな、そういう言い回しも」

「相変わらずって…まだ何日しか経ってないだろ」

「そうだったな」


ユタナはクスクスと笑って。

…まあ、ここに来てからも、いろいろ考えることがあったんだろう。

サンのこと、今後のこと。

アルと一緒に。


「そういえば、ツカサは?本堂にいるって聞いてきたんだけど」

「えっ?あぁ、今は台所だと思う」

「台所?」

「うん。夕方の少し早い時間になったら、いつでもここに来て、夕飯を作る手伝いをしてくれるんだ。最初は、市場にある食堂の涼さんに言われて来たって言ってたけど」

「ふぅん…。そんなこともしてたんだな」

「知らなかったか?」

「まあな。でも、アルが買い出しに行ってるんじゃないのか?」

「日用品だよ。夕飯の食材じゃない」

「そうか」

「一番年長だからな、私たちは。手伝いもよくするんだ」

「そうか。偉いな」

「偉いだろ?」

「台無しだな、それで」

「はは、そうだな」


ユタナは笑うついでに、縁側に寝転がって。

赤く染まり始めた空を見てるらしかった。


「お母さん!」

「ん?どうした、りる」

「えへへ~」


急に向こうから走ってきたりるは、真っ直ぐに私の膝に座ってきて。

横からちょろりと出した尻尾をゆったりと動かしている。


「そういえば、その子は?」

「りるだ。お前とは初めましてか?」

「そうだな」

「おねーちゃん、誰?」

「えっ?あぁ、私はユタナだ。よろしくな、りる」

「うん!」


そして、りるは早くも私の膝から降りて、ユタナの隣に座る。

…ユタナには人見知りしないんだな。

やっぱり、金髪だからだろうか。


「金狼か、りるは」

「うん。キンロウ」

「りるの髪は綺麗だな。サラサラしてる」

「えへへ」

「毎日手入れしてるのか?」

「んー?」

「美希がしてるかもしれないな。あいつ、金髪に弱いし」

「あぁ、サンを可愛がってくれてた」

「そうだ」

「ふぅん…。いい香りがするな。香油か?」

「そうだろうな」

「いいな、ちゃんとお手入れしてもらって」

「オテイレって何?」

「りるの髪が綺麗でいられるように、きちんと手入れすることだ」

「手入れの説明に手入れを使ってどうするんだよ」

「あぁ、そっか」

「手入れっていうのは、髪とか尻尾の毛を櫛でといたり、香油を差したりすることだ」

「ふぅん。よく分かんない」

「ははは。よく分かんないんだってさ」

「そうだな」


ユタナが髪の匂いを嗅いだりしてるから、りるも自分の尻尾の匂いを嗅いだりして。

まあ、りるもそのうち、自分で手入れするようになるのかな。

そうなったら、美希は残念がるだろうか。


「あっ!狼の姉さま!」

「ルウェか。しばらく振りだな」

「うん!」

「ただいま、ユタナ」

「お帰り」

「姉さん、来てたんだね」

「ああ」

「姉さんが来てるなら、早く帰ってくればよかったよ」


そう言いながら、アルは履き物を脱いで。

ルウェも、急いで縁側に上がってきた。

…あいつ、ちょっと明るくなってないか?

まあ、子供たちに囲まれて暮らしていれば、明るくもなるか。


「ユタナ。ちょっと、これ、置いてくる」

「うん」

「姉さんを、ちゃんと引き止めておいてくれよ」

「分かってる」

「じゃあ、姉さん。もう夕方だけどさ、ゆっくりしていってよ」

「ああ。分かった」

「狼の姉さま!」

「ん?どうした」

「自分、髪、伸ばしてるんだぞ!伸びてる?」

「そうだな。相変わらず、綺麗な髪をしてる」

「えへへ。自分、もっともっと伸ばすんだぞ!狼の姉さまみたいに!」

「そうか。頑張って伸ばしてくれよ」

「うん!」

「ルウェ、お姉ちゃんのことが好きなんだな」

「うん、大好き!ユタナお姉ちゃんは?」

「私も好きだよ」

「えへへ」


ルウェは、頬のあたりの龍紋を光らせて。

こっちも相変わらず綺麗だな。


「ヤーリェはどうした?」

「ヤーリェは、今は料理のお手伝いをしてるんだぞ」

「なんだ、ヤーリェもか」

「えっ?」

「いや、ツカサが手伝ってるって聞いたところだからな」

「ツカサ、料理が上手いんだぞ。だから、いつも楽しみ!」

「そうなのか?」

「うん!食堂でね、料理を教えてもらってるって言ってた」

「ふぅん」

「狼の姉さまは、ツカサの料理は食べたことないの?」

「ないな」

「そっか」


ルウェは、どこかつまらなさそうに足をブラブラさせて。

そして、隣を見てビックリしたような仕草をする。


「そいつはりるだよ」

「りる?」

「ああ。ほら、りる。挨拶しろ」

「こんばんは」

「こんばんは」

「ルウェっていうの?」

「うん」

「りるはね、りるっていうの」

「うん。さっき聞いた」

「ルウェは、龍さん?」

「うん。蒼龍だよ」

「そっかぁ」

「りるは狼さんでしょ?」

「キンロウだよ」

「キンロウ」

「うん」


そんなかんじで、二人はどこか不思議な会話を続ける。

そして、そのうちにアルも来て。

ツカサとヤーリェが、手伝いを終えて台所から帰ってくるまで、沈みゆく夕日を眺めながら、しばらく五人で談笑していた。

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