表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/578

「うぇ…気持ち悪い…」

「だらしないなぁ。弱いなら呑まなきゃいいのに」

「弱いんじゃない…呑みすぎるんだ…」

「一緒でしょ?自分が呑める量くらい把握しといてよ!」

「もっと…静かに喋ってくれ…」


二日酔いで真っ青になってる利家に、大声で迫る風華。

…まあ、たぶんわざとやってるんだろう。


「はい、これ。昨日サボった分も溜まってるんだから、さっさと片付けてね」

「ていうか…なんで兄ちゃんがやらないといけないんだ…?」

「一揆の首謀者なんだから、次代の王は兄ちゃんに決まってるでしょ?」

「えぇ…そんなぁ…。それに…王政が前回の失敗だったんだから…王はもういらないだろ…」

「そんなこと言い出すんじゃないかと思って…。ほら、これ。議会設置の資料もあるんだから、目を通しといてね」

「うぅ…分かったから…ちょっと休ませてくれ…」

「何もやってないじゃない!休むのはやることやってから!」

「うぅ…」


風華の方が、よっぽど人の上に立つのに相応しいと思うんだけど…。


「姉ちゃん!ちょっと来て!」

「ああ」


フラフラの利家を残し、政務室を出る。

…政務室といっても、急あつらえだけど。

前は政務室なんていらなかったからな…。


「あ!いろはねぇ!」

「ん?桜か」

「ねぇねぇ、ボクの部屋に来てみない?」

「ダ~メ。姉ちゃんは忙しいの。それに、いつの間に桜の部屋なんて作ったの?」

「さっき!」

「さっき?」

「どこだ。後で行くから」

「この前のところ!じゃあね!待ってるから!」


と言って、桜は走り去っていった。

…この前のところって、もしかして地下牢か?

なんでまたそんなところを…。


「あ、そうそう。衛士さんだけど、それぞれの農村に配備出来ない?特に国境付近とか…」

「無理ではないが、各村に一人か二人になるだろうな」

「うーん…じゃあ、どうしよう…」


風華が心配してるのは、内乱に乗じて他の国が攻めてくることだろう。

情勢が不安定なときに攻め上がるのが一番楽で確実。

だから、国境付近は非常に危険だ。


「…オレの選りすぐりの衛士を派遣する。罠や奇襲に長けたやつらをな」

「そっか。少ない人員で簡単に防衛出来る手段…。それに、やり方さえ教えてもらえば、衛士さんがいなくても、ある程度の抵抗も出来る…」

「ああ。基礎中の基礎だが、非常に有効な手段だ」

「うん、ありがと。じゃあ、そういう方向でいくね」

「今日中に行かせた方がいいだろうな…。あ、風華の用事ってなんだ?」

「え…あ…うん…。わ、私のはあとでいいよ!それ、先にやっちゃって」

「……?ああ、分かった」


よく分からないが、私用らしいな…。

何をしたかったんだろう…。

まあいい。

近くにいた衛士を呼び寄せる。


「おい、大吾郎」

「はっ!どうしました、隊長」

「農村…特に国境付近の農村に、警備・指導に行ってもらいたい」

「では、少人数対多人数を想定した…ということでよろしいでしょうか」

「ああ。みんなに知らせてくれ。今すぐ、広間に集合だ」

「はっ!了解しました!」


あっという間に姿が見えなくなってしまった。

やっぱり、あいつを伝令班に入れて正解だったな。


「あ…じゃあ、私は医療室にいるから、終わったら来てね」

「分かった」


そして、風華は医療室、私は広間に向かった。



よし、これでいい。


「じゃあ、よろしく頼んだぞ」

「はっ!行ってまいります!」

「ああ。行ってらっしゃい」


行ってきます、行ってらっしゃい。

派遣の際は、必ずこのやり取りを交わす。

無事に帰ってこれるように。

また会えるように。


「泣くなよ」

「しかし…!」

「別れのときに泣いちゃいけない。泣いたら、もう会えなくなるから。泣くのは、再会のとき。そのときは、たくさん泣けばいい。また会えたねって」

「はっ…!」

「頑張ってこいよ」

「はっ!」


そして、旅立っていった。

小さくなってゆく衛士たちの後ろ姿が次第に滲んでくる。

頑張ってこいよ…!



桜が覗き込んでくる。


「どうした」

「ん~?」

「ん~?じゃ分からんだろ」

「いろはねぇ、目、腫れてない?」

「…寝不足なんだろ」

「そうかな…?」


変なところで勘のいい桜。

頼むから、あまりジロジロ見ないでくれ…。


「姉ちゃん。これだけど…」

「え?あぁ、好きなのを買えばいい」

「ありがと!」


風華の用事というのは買い物だった。

普段、こんな中心の方には来ないから、市場だとかが珍しいんだろう。

だいたいは日用品だとか、身の回りのものだったけど、薬なんかも買い集めたりしてるみたいだ。

そして、私にねだるのは、お菓子類。

村の方では甘いものが手に入りにくいんだろう。

…最初、家の金では買えないと思ったのか、お菓子を恨めしそうな目で見ていた。

それを見かねて、なんでも買ってやると言ったんだけど…。

風華はだいぶ遠慮しているらしい。


「でも、そんなんでいいのか?もうちょっと…これとかどうだ」

「た、高いよ…」

「遠慮するな。どうせ、オレの金なんだ」

「ダメだって…ホントは私のお金で買わないといけないのに…」

「ボクは食べてみたいっ!」

「じゃあ、おやっさん!これ、三つ!」

「あいよ!そんで…嬢ちゃん。これ、おまけだ」

「わぁ!ありがと!」


金平糖を両手いっぱいに貰って喜ぶ桜。


「でも、おっちゃん。ボク、こっちの風華と同い年なんだからね!」

「え…あ…そうなのか…。いや~、ごめんね、嬢ちゃん。もっとちっちゃいかと思ったよ」

「むぅ…。いいよ。おまけ、貰ったし」


そして、桜は上機嫌で菓子屋の親父と別れた。

…でも、身体だけでなく、言動も幼いんだから、間違われても仕方ないと思うんだけどな。


「ほら。これ、食べてみ」

「ありがと!いろはねぇ!」

「…ごめんね」

「感謝こそされど、謝られるようなことはしてない」

「うん…。ありがと」

「どういたしまして」

「ん~!甘~い!」

「美味いだろ?」

「うん!」

「どうだ?風華は」

「うん!美味しい!」

「そうか。よかった」


買い物に来てから、遠慮がちで気を遣ってた風華だったが、ここでやっと本当の笑顔を見ることが出来た。


「じゃあね、ボクは~…」

「お前は少し遠慮を覚えた方がいいな」

「えぇ~!なんでも買ってくれるって言ったじゃん!」

「だからって、なんでもかんでも欲しがるんじゃない」

「むぅ…だって…欲しいんだもん…」

「…仕方ないな。今日だけだぞ」

「うん!」


風華に止められながらも、いろんなものをしこたま買った桜。

帰るときは持ってきた袋が破裂しそうなほどだった。

そして、桜は満足そうにニコニコしていた。

…やっぱり、笑顔が一番、だな。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ