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「何、あの二人。なんであんなに離れて座ってるの?」

「はぁ…。お前もか…」

「えっ?何?」

「今日、何回目だ、その質問」

「い、一回目だけど…」

「お前はな」

「何回されたの?」

「さあな。覚えてない」

「なんだ…。それで、あの二人は何してるの?喧嘩?」

「ああ。ちょっとしたすれ違いでな」

「ふぅん…。そういうのって、どっちも悪くないから、仲直りも大変だよね」

「まあ、今回は響が悪いっちゃ悪いんだけどな」

「そうなの?」

「響って茶化す癖があるだろ?それがとうとう、光の逆鱗に触れたらしい」

「そうなんだ」

「それで、朝からずっとああなんだよ」

「ふぅん」

「まあ、二人の喧嘩なんだ。二人に解決させるのが一番いいだろ」

「うん、そうだけど」

「けど?」

「あんなに離れてたら、解決も何もないんじゃないかって思ってさ」

「前に喧嘩したときもああじゃなかったか?」

「そうだっけ?」

「たぶんな」

「でも、あの二人ってさ、いつもはすごく仲が良いのに。喧嘩するなんてね」

「仲が良いから喧嘩するんだよ」

「そうだね」

「お前は、犬千代とは喧嘩しないか?」

「えっ?うーん…。兄ちゃんってば、いつも軽くいなしてさ。喧嘩になんないんだよね」

「ふん。まあ、喧嘩にならない方法を心得てるんだな」

「やられてる方は、余計に腹が立つけどね。でも、その態度に怒ったって仕方ないし…」

「そうだろうな」

「はぁ…。ホント、損な役回りだよね…」

「そうか?」

「だってさ、こっちは怒ってんのに、適当にあしらわれてさ。怒りの捌け口をどこに持っていきゃいいのさ」

「オレには如何とも言い難いな」

「そうだね。姉ちゃんは軽くいなす方だもんね」

「そう怒るなよ」

「怒ってない!」


怒ってるじゃないか。

まあ、ここで何か言っても余計に怒らせるだけだし…。

とりあえず、唐揚げを口の中に入れて。

…喧嘩を回避するのも考えもののようだ。

たまには、思いっ切り喧嘩してみるのもいいかもしれないな。

昔のように。



部屋に戻ると、ツカサが寝床の準備をしていた。

…またりるが、ツカサの敷いてる布団に突っ込んでいく遊びをしている。


「りる、兄ちゃんの邪魔をするな。こっちに来い」

「んー!」

「あ、姉さん」

「どうだ、ツカサ。調子は」

「いいよ。風華に、たまには休めって言われたけどさ…。でも、この前、給料も出たんだ。今までの分。それで、結構いっぱい貰っちゃって…」

「そうか。…そのうち、望と一緒にここを出る気なのか?」

「えっ?いや、全然そんなこと、考えたこともないけど」

「じゃあ、なんでそんなに一所懸命働いてるんだ?」

「働くのが楽しいからだよ。…衛士なんだから、本当は城で働かないといけないのは分かってる。姉さんが怒るのも分かるけど…」

「オレは別に怒っていない。市場で働くのも賛成だ。一所懸命働いてくれればいい。でも、お前がそうやって一所懸命になるのはどうしてなのかと思ってな」

「…誰かの役に立ちたいんだよ。今までやってきたことの…贖罪として」

「そうか」

「………」

「悪かったな。変なことを聞いて」

「いや…。俺も、自分の目指すべき場所をもう一度はっきりと確認することが出来た。ありがとう、姉さん」

「ふん。なんでオレが礼を言われなきゃならないんだよ」


りるを適当に放って、布団の間を歩いていき、屋根縁に出る。

ツカサは、また布団を敷き始めて。

りるの遊びも、また始まっていた。

…夜風が冷たい。

明日も晴れるだろうな。


「今日の料理、美味しかったよ」

「ありがと。作った甲斐があった」

「それで…」

「ん?」

「また…食べたいな…」

「そう言ってくれると嬉しいよ。また作るな」

「う、うん…」


…また下で話してるのか。

今は、私以外は誰も聞いてないみたいだけど。

昨日聞かれたばかりなのに、油断しすぎじゃないか?


「ところでさ、明日、俺、非番だからさ…」

「えっ…?」

「そ、その…。一緒に下町とか行かないか…?」

「えっ、あ、えっと…。明日も、望の手伝いがあるんだ…」

「あ、あぁ…。望ちゃんの…」

「ごめんね…」

「あっ…じゃあさ、俺も望ちゃんの手伝いに行っても…いいかな…」

「…うん。えへへ…男の人が手伝ってくれたら、もっと捗るかな」

「じゃあ…」

「望に聞かないと分からないけど、きっと、いいって言ってくれるよ」

「そ、そうか。よかった…」


まあ、今日は一緒にいられなかったからな。

明日は二人でゆっくりすればいいけど。


「…姉さん」

「ん?」

「布団、敷き終わったよ。寒いから、もう中に入ったら?」

「そうだな」

「えっ、た、隊長!またいたんですか?」

「ああ。いたが」

「…誰だ?」

「進太だよ。今日、厨房に立ってただろ」

「あぁ…」

「ツ、ツカサもいるの?」

「いや、こいつは今来たばっかりだけど」

「ナナヤもいるのか?」

「うっ…」

「ふぅん。ナナヤと進太が」

「ああ。昨日からな」

「ツカサ!絶対秘密なんだからね!」

「そんな大声を出してると、遅かれ早かれ、みんなに知れ渡るんじゃないか?」

「うぅ…」

「まったく…。昨日の今日で同じ失敗をするとはな、進太」

「すみません…」

「逢瀬がてら、散歩にでも行ってきたらどうなんだ。城の外周なら誰もいないだろうし」

「はい…。そうします…」

「まあ、今日は早く寝ることだな。明日、望の手伝いをするんだろ?」

「…ハイ」


二人は返事をすると、とぼとぼと中へ戻っていって。

その様子を見て、ツカサはクスクスと笑っていた。


「ふふ、そうか。ナナヤが恋か」

「ん?」

「いや、あいつ、心に決めた人としか結婚しないって言ってたからさ」

「進太が、心に決めた人だったんだろう。結婚するかどうかは置いといて」

「そうだな」

「進太はいいやつだよ。心配する必要はない」

「分かってるし、心配なんてしてないよ。…嬉しいんだ。ナナヤの笑顔を見られて」

「…そうか」

「ああ」


それから、私たちも部屋に戻って。

りるはもう眠っていたけど。

…部屋へ戻ってきたナナヤに、ツカサは容赦ない質問と冷やかしを浴びせていた。

本当に嬉しかったんだろうな。

ナナヤにしちゃ、かなりの迷惑だったろうが。

とにかく、あとに帰ってきた風華や望に不審がられるくらいに、喜んでいた。

…それと、響と光は部屋に帰ってこなかった。

お互いに、今、顔を合わせるのは気まずいと感じたんだろう。

香具夜と美希から、それぞれの部屋で寝るらしいという報告を受けて、私も床に就いた。

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