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「何なの、あの二人。喧嘩?」
「ああ」
「ふぅん。なんで?」
「…桜に聞け」
「桜に関係あるの?」
「ないよ!」
「ホントに?」
「あるわけないじゃん!なんで、ボクが二人の喧嘩に関係あるのさ!」
「大声を出すな」
「いろはねぇが悪いんでしょ!」
「あー、そうだな。オレが悪かった」
「もう!」
「こっちでも喧嘩?勘弁してよ」
「喧嘩なんてしてない」
「そうだよ!いろはねぇが全部悪いんだよ!」
「はいはい…。でも、姉ちゃんはなんでそんなにボーッとしてるの?」
「ん?そうか?」
「そう見えるけど」
「腹が膨れて眠くなってきたのかな」
「えぇ~。いろはねぇ、子供みたい」
「桜には言われたくないと思うな」
「むっ。どういう意味よ」
「桜だって、お昼寝することも多いでしょ」
「ひ、昼寝じゃなくて、日向ぼっこだもん!」
「そうだね~」
「ホントなんだから!」
「はいはい。よく分かりました」
「バカにして!」
「してないよ」
「むぅ~!」
やっぱり子供っぽいな、桜は。
前にも悩んでたみたいだけど。
結局、自分らしくすると言ってた。
まあ、それが正解なんだろう。
しかしだ、もう少しお姉ちゃんらしくしたらどうなんだろうか。
いくら自分らしくと言っても、そこくらい成長してもいいと思う。
…そんなことを言ったら、また怒るだろうか。
「………」
「またボーッとして。ちょっと寝たら?四半刻くらい寝たら、気持ちいいよ」
「そうか」
「寝ないの?」
「よく考えたら、眠たくなかった」
「えぇ…。何それ、変なの…」
「そうだな」
「それじゃあ、なんでそんなにボーッとしてるの?姉ちゃんらしくもない」
「いや、ちょっとみんなを見てただけだ」
「みんな?広場の?」
「ああ」
「何してるの?」
「さあな。でも、楽しそうに遊んでる」
「ホントだ。何してんだろ」
「"当たり"なんじゃないの?」
「そうかな?」
「変則を取り入れてるんだよ。今は、決められた場所の中で逃げ回るってやつね。地面にも丸が描いてあるでしょ?」
「丸から出てる子は?」
「あれが"当たり"だよ。丸の中を真っ直ぐに突っ切る間に、誰かに触れたら交代。二人いるし、連携しても面白いかな」
「ふぅん。よく知ってるんだね」
「まあね。あの変則を教えたのはボクだし」
「…へぇ、そうなんだ」
「何よ、その目。なんか、バカにされてる気分!」
「気のせいだよ~」
「ホントかなぁ…」
「ホントホント。それにしても、望の畑はすごいね。もう半分くらい?」
「そうだな。望は三分の一くらいだと思ってるらしいが」
「まあ、下で見てる分には分かりにくいよね」
「そうだな」
「あそこにいるのは?ナナヤかな?」
「たぶんな」
「望と何を話してんだろ」
「気になるなら聞いてきたらどうだ」
「えぇ~…。秘密の話かもしれないし…」
「そんなこと、気にするようなタチか?」
「気にするよ!さすがのあたしでも!」
「ふぅん。そうか」
「もう…。姉ちゃんったら…」
「ね、ね!腹が立つでしょ?ボクの気持ち、分かった?」
「五月蝿い、桜」
「うっ…。な、何さ!二人して!ふんだ!」
桜は拗ねて屋根縁の向こうの端へ行ってしまった。
やっぱり、まだまだ子供だな、あいつは。
こちらをチラリと見てきた桜に笑い掛けてから、また広場に視線を移す。
ナナヤは望と一緒にセトにもたれ掛かって、一所懸命に二人で何かを話していた。
恋の話だろうか。
ナナヤは、進太のことをちゃんと認めたんだろうか。
まあ、私が詮索するようなことではないんだけど。
二人が上手くいくことを願うばかりだが。
「姉ちゃん」
「なんだ」
「響と光はどうしてる?」
「自分で見ればいいじゃないか。ずっと部屋にいるんだし」
「見にくいよ、そんなの…。喧嘩してるところなんて…」
「それをオレに見させるのか?」
「お願い!姉ちゃんなら平気でしょ?」
「それはそうだけど」
「ね、ね。教えて!」
「はぁ…。そこまで気になるなら、自分で見ろよ…」
振り返ってみると、相変わらず二人は部屋の端と端に座っていて。
顔を合わせようともしない。
…こちらとも。
「どう?」
「相変わらずだな」
「そう…」
「心配するな。二人を信じろよ」
「信じてるけどさ…」
「なら、いいじゃないか。気長に待つのがいい」
「うん…。でも、姉ちゃんは不安じゃない?もう二人はずっと仲違いをしたままになるかもしれない…とかさ」
「不安じゃないと言えば嘘になるが、不安になっても仕方ないとも思う。決めるのは結局あいつらだから、あいつらに任しておくのが一番だ。オレたちの出番はない」
「はぁ…。あたしも、姉ちゃんみたいに割り切れたらなぁ…」
「割り切ってはいないさ。ただ、成り行きを見守ることにしているだけだ」
「それを、割り切ってるって言うんじゃないかな…」
「ん?そうか?」
「はぁ…」
まあ、なんでもいいじゃないか。
喧嘩なんてのは、本人たちに任せるのが一番だ。
特に、あいつらみたいにお互いがお互いをよく知っているような場合は尚更な。
私は信じてるから。
もちろん、ユカラや桜も。
二人が、自分たちで解決することを、な。