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「ナナヤちゃんですか。よく覚えてますよ」

「そうか。やっぱりな」

「ええ。毎日来てくれてましたし」

「そうなのか?」

「はい。だいたい日用雑貨を買っていましたけど」

「ふぅん。まあ、あとで会ってやってくれ」

「はい。分かりました」


進太はもう一度お辞儀をすると、厨房へ戻っていった。

…しかし、本当に進太だったとはな。

ナナヤがいつ会ったのかは分からなかったけど。

まあ、フラフラとあいつが流れ着いたのが二年前で、そのときナナヤは十二歳。

今日話してたのも十二歳のときのこと。

…ちょっとこじつけか?


「紅葉。終わったのか?」

「まあな」

「…りるは?」

「先に広間に行ってるよ」

「そうか…。少し味見をしてもらおうと思ったんだけど…」

「残念だったな。まあ、進太にでもやってもらえ」

「大人の舌と子供の舌では、味の感じ方が違うんだよ」

「りるも進太も、あんまり変わらないと思うんだけど…」

「変わるさ。りるは七歳、進太は十六だ。九歳も違うじゃないか」

「待て。りるの年齢をなんで知ってるんだよ」

「だいたいそれくらいだろ?葛葉もサンも七歳だから、りるも七歳だ」

「そんな適当な…」

「一歳二歳違っても大丈夫だろ。それくらいの誤差、困るものでもないし」

「そうだけど…」

「不満そうだな」

「まあ、不満だな」

「年齢の多少の誤差で困ることはなくても、年齢が分からないことで困ることは多い。早いうちに、だいたいでもいいからはっきりとした年齢を決めてやるのがいいだろ」

「まあ…そうだな」

「うん。…ところで、進太と何を話してたんだ?」

「それは秘密だ」

「ナナヤがどうしたんだ?」

「気になるなら、進太に聞いてみればいい」

「教えてくれてもいいだろ…」

「ふん。他人のことを詮索するのは良い趣味だとは思わないけどな」

「せ、詮索じゃないよ…」

「そうか?それならいいけど」

「………」


美希はガックリと肩を落として、厨房の中へ戻っていった。

まあ、美希なら本当に聞きかねないな。

…と思ってるうちに、もう聞いてるみたいだ。

進太はニコニコと笑って、あっさりと答えているようだったけど。


「あっ、隊長!そこにいるなら手伝ってくださいよ!」

「いや、いい」

「朝言ってたじゃないですか。一緒にやりません?」

「やりません」

「そんなつれないこと言わないで」

「じゃあ、夕飯、楽しみにしてるから」

「あっ!待ってくださいよ!」

「待たない」


環に捕まる前に、さっさと厨房から離れて。

まあ、ゆっくりと夕飯を待たせてもらうとしよう。



夕飯も終わり、部屋に帰ってきて。

少し夜風に当たりたくて、屋根縁に座る。


「し、進太さんっていうんですか?」

「呼び捨てでいいって」

「あっ、はい…」


…どうやら下の屋根縁で、二人が逢瀬の時を迎えているらしい。

しかし、なんでこんなところで…。


「久しぶりだな。カシュラ以来?」

「あっ…はい…。ま、まさか、こんな近くにいるなんて思わなかったので…」

「そっか。でも、大きくなったな。まあ、俺もそうだろうけど」

「はい…」

「懐かしいなぁ」

「はい…」


…ナナヤ、緊張してるみたいだけど大丈夫かな。

進太は進太で、ナナヤの気持ちが分かってないような気もするけど。


「あ、ごめん。寒いよね、ここ。場所、変えようか」

「い、いえ…。ちょうどいいです…」

「そうか?でも、女の子なんだから、身体を冷やしちゃダメだからな」

「あっ…」


布の擦れる音がしたから、大方進太がナナヤに自分の上着を着せた、というところだけど。

しかし、進太がこんなに手慣れているとは思わなかったな。


「………」

「大丈夫?」

「は、はい…。大丈夫です…」

「無理はするなよ」

「はい…」

「そういえば、ナナヤちゃん、盗賊だったんだって?隊長から聞いたんだけど」

「えっ…」

「あ、ごめん…。そういうことじゃないんだ…。盗賊だったからって、責める気はなくて…。ほら、うちって、元盗賊の連中も多いしさ…」

「………」

「ごめん…」

「いえ…。話を続けてください」

「…俺もさ、元盗賊の連中のうちの一人なんだよ。だから、ナナヤちゃんと境遇が似てるなって…。俺がここに来たのも十四のときだったしさ…」

「そうなんですか?」

「うん…。昔に入ってた盗賊団から逃げてきたんだよ、俺は。それで、フラフラとあちこちを放浪してて、カシュラに行き着いて。そこで、ナナヤちゃんに会った」

「………」

「俺が十四でさ、ナナヤちゃんはあのときは十二くらいだっただろ?毎日来てくれて、毎日笑顔を見せてくれた。…可笑しかったら笑ってくれていいんだけど、俺はナナヤちゃんのことが好きだったんだ。それで、雇用切れのときも、辛いからお別れを言えなくて…」

「………」

「あはは、変なこと言ってごめんな…。あと、あれだけお世話になったのに、お別れも言わなくて、ごめん…」

「私も…」

「えっ?」

「私も好きだった!進太のこと!ずっと、ずっと…」

「あ…」

「ずっと、それが伝えられなくて…。でも、伝えられた。えへへ…これでちょっとスッキリ。…私もごめんなさい。迷惑だよね、こんなこと…。進太にも、好きな人はいるだろうし…」

「…俺も、ずっとナナヤが好きだった。あのときから。それは、今も変わらない」

「えっ?」

「だ、だから…。だから、もしナナヤがよかったら…。俺と…付き合ってください!」

「あっ、えっ?」


ナナヤのやつ、戸惑ってるな。

まあ、青春真っ盛りってかんじでよろしいことじゃないか。

…気になることが、ひとつあるけど。

ナナヤと進太と、もうひとつの気配。


「えっと…。は、はい…。お付き合い…しましょう…?」

「えっ?」

「えっ?」

「あ…。や、やった!」

「ヒューヒュー。お熱いことだね、お二人さん!」

「あっ!か、香具夜さん…!」

「ふふん。私だけじゃないんだな。この上、誰の部屋か知ってる?」

「あっ!お姉ちゃんの部屋だ…」

「場所を変えた方がよかったかもねぇ。ね、紅葉」

「………」

「ありゃ。返答なし。関わり合いになりたくない、と」

「誰も、好き好んでお前の冷やかしに加わりはしないよ」

「隊長…!」

「まあ、私たちだったからよかったようなものの。気を付けなさいよ?特に進太。あんた、調理班なんだから、不用意にこういうことが出回ったらどうなるかくらい、分かるでしょ」

「はい…。すみません…」

「おい、香具夜。もういいだろ。せっかくの逢瀬なんだから。それに、そうやって騒ぎ立てれば注目を集めやすい」

「分かってますって。じゃあ、今度からは気を付けることね。それじゃ、お休みなさい」

「お休みなさい…」


やっぱり、でしゃばってきたか。

気付いてないなら気付いてないで、そっとしておいてやってもいい気がするけど。

まあ、二人の恋路は前途多難のようだな。

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