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退屈そうに、爪で土を掻くセト。

その横で、望は種を埋めている。


「セト、もっとちゃんとやってよ!」

「ゥウ…」

「つまらなくないの!」

「………」


またため息をついた。

毎日、土を掘り起こすばかりで飽きてしまったんだろう。

たまには別の仕事でも与えてやればいいんだろうが…。


「セト!」

「ォオ…」

「ダメ!」

「ウゥ…」


まあ、しかし、こんな小さな女の子に怒られて、銀龍も形無しだな。

セトはもともと大人しいけど…。


「あ、お姉ちゃん。来てたんだ」

「厨房からここが見えたからな。でもまあ、今はオレの出番はあまりなさそうだな」

「そうだね。望も慣れてきたみたいだし。セトは飽きてきたみたいだけど」

「ああ」

「広場の四半分くらいは花畑にしたいんだって。望が言うには、もうちょっとみたいだけど」

「もう三分の一くらいは耕してあるんじゃないか?」

「そうなんだけど、もうちょっとなんだってさ」

「そうか。まあ、向上心があるのはいいことだ。広場が花畑になって困ることもないし、望の好きなようにやらせてやればいい」

「うん」


ナナヤは頷いて、私の隣に座る。

それから、望に叱られるセトを一緒に眺めて。


「なんか、変な構図だね」

「そうだな」

「甘いよね、セトってさ」

「そうか?」

「そうだよ。望の言いなりになっちゃってさ」

「言いなりか?」

「うん。充分言いなりでしょ」

「まあ、いいじゃないか。非協力的な態度を取られるよりは」

「んー、そうかなぁ」

「何の文句があるんだよ」

「やっぱりさ、男の人ってガッシリ強そうでないと」

「充分、ガッシリ強そうじゃないか」

「見た目だけでしょ」

「そうだけど」

「ダメダメ、そんなの。体格だけじゃなくて、精神的にも頼り甲斐のある人じゃないと」

「まあ、そういうのはお前の理想なだけであって、他のやつらがどう考えてるかなんて分からないだろ?ああいう優男が好きなやつもいるだろ」

「どうかな。でも、望はツカサのことが気になるみたいだよ?」

「…お前は、どこからそういう情報を仕入れてくるんだ」

「あ、やっぱり知ってたんだ」

「知ってたけど…」

「この前に聞いたんだけどね。ほら、私って恋愛には疎いからさぁ」

「だからって、調理班の連中に相談を持ち掛けるな」

「え?なんで?」

「調理班の情報伝達網を侮るな。誰に相談したかは知らないけど、少なくとも環は知ってるみたいだったぞ」

「えぇ…。そうなの?私、ロゥナに相談したんだけど…」

「ふぅん…。まあ、ロゥナと環は同じ部屋だし、調理班の中でも口は固い方だけど…。もう一度、厳重に口止めをしておくことだな」

「でも、口止めされたら、余計に話したくならない?」

「…あの二人なら話さないが、灯あたりなら確実に喋るだろうな。まあ、あいつなら、再度口止めする前にはすでに手遅れになってるだろうけど」

「そうなんだ。じゃあ、一番口が固いのって誰なの?」

「香具夜とか縁とか…。とりあえず、伝令班のやつらは基本的に口が固い。機密文書を扱ったりするからな。戦闘班と医務班は…どっこいかな。まあ、秘密の相談をするなら、断然伝令班だろうな。ユカラもそうだけど、相談する相手は慎重に選ぶんだ」

「ユカラ?なんで?」

「あいつは、大事な頼み事を灯にしたんだ。その結果、城中ほとんどに知れ渡ってしまった」

「えっ?どんな頼み事?私、たぶん知らない」

「知らないだろうな」

「どんな頼み事だったの?教えてよ」

「知らないなら知らないでいい。ユカラも秘密にしたがってたことだし」

「えぇ~…。気になるなぁ…」

「気になるなら、直接ユカラに聞いてこい」

「えぇ…。私も灯に聞いとくんだった…」

「何を言ってるんだ。裏を返せば、お前の秘密も城中に知れ渡る可能性があるってことだぞ」

「私は、もう間違えないもん」

「ふん。それはどうかな」

「何よ」

「伝令班にも地雷はいるからな。伝令班だけに、伝達速度は調理班に劣らないぞ」

「えぇ…。誰よ、それ…」

「さあな。まあ、自分で探すことだ。一人一人に別の秘密を話して、どの秘密が漏れたかを調べれば分かるだろ?」

「お姉ちゃんが教えてくれたら済む話でしょ…」

「オレはいちおう、口が固い方に分類されてると思ってるからな」

「そんなところで口を固くしなくていいよ!」

「お前も、情報が漏れる怖さを味わえばいい」

「うぅ…。もう香具夜さんと縁さんにしか相談しないもん…」

「それはどうかな。恋愛事情を相談するには、ロゥナみたいな歳の近いやつの方がいいだろ?香具夜も縁も、ちょっと離れてるんじゃないか?」

「うっ…。じゃあ、お姉ちゃん」

「オレだって、色恋沙汰には疎いよ」

「風華」

「どうかな。他人のそういう噂は好きかもしれないけど」

「うぅ…。どうすればいいのよ…」

「まあ、みんなと付き合ってみて、見極めることだな」

「はぁ…」


ナナヤはため息をついて、ぐっすり眠ってるりるの頬を引っ張って八つ当たりする。

りるは、そんなのお構い無しで眠ってるけど。

…まあ、意識し始めれば自然と分かってくることだと思うけどな。

今回は、ユカラの意識が足りなかったというだけで。


「セト。もうちょっと、ここまで」

「ウゥ…」

「ここまで!」

「………」


望が、セトを叱りつけながら着々と花畑の予定領域を増やしていくのを見ながら。

指示があるまで、のんびりと昼下がりの時間を過ごす。

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