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りるは、椅子に座って足をブラブラさせている。
まあ、退屈なんだろう。
腹が減ってるせいで元気が出ないというのもあるかもしれないが。
「はい、どうぞ」
「ごはん!」
「そうだね~」
「りる。いただきますは?」
「いただきます!」
「はぁい」
箸を取ると、早速食べ始める。
こいつは将来、かなりの大食いになりそうだな。
今でも充分大食いだけど…。
「これだけたくさん食べてくれたら、作り甲斐がありますよね」
「そうだな」
「…隊長も、料理をしてみません?上手いんだし」
「いや、いいよ。上手いとも思わないし」
「そう思ってるのは隊長だけですよ」
「オレに作ってほしいと思ってるやつはいないだろ」
「そんなことないですよ~」
「…なんだ。どうしても料理をしてほしそうだな」
「ええ」
「はぁ…。なんでだよ。誰かに頼まれたのか?」
「それもありますけど、私もそう思ってる一人ですから」
「どう思ってるんだ」
「隊長に、女の子らしいことをしてほしいって」
「…灯か?」
「ふふふ。当たりです。灯、隊長のことが気になるんですよ。そりゃ、言えることは率直に言うでしょうけど、姉妹でも言いにくいこともあるんですよ?」
「いや…前にも、そういう旨のことは聞いたことがあるけど…」
「じゃあ、地盤固めですね」
「まったく…。オレは、自分で自分らしく生きていく。女の子っぽいとか、そういうことから外れていようがいるまいが」
「そう言うと思ってましたけど。でもまあ、久しぶりにやってみません?」
「遠慮しておく」
「そうですか?…まあ、望ちゃんの手伝いで園芸もやってますしね」
「あくまで手伝いだ」
「またまた~」
「………」
「あれ?怒っちゃいました?」
「怒ってない」
「そうですか。じゃあいいです」
「………」
まったく…。
なんだって言うんだ。
オレが女の子らしくないとか、そういうのはもういいんだよ。
充分だ。
「でも、やっぱり、女の子には女の子らしくしてほしいよね」
「ふん。そうかよ」
「隊長、誰と喋ってるんです?」
「…母さんだよ」
「えっ?一葉さん?幽霊?」
「まあ、そうだな」
「えぇ…。ホントですかぁ?どの辺にいるんです?この辺?それとも、この辺?」
「あはは、相変わらずだなぁ、環は」
「そうだな」
「隊長~…。教えてくださいよぉ…。一葉さんが帰ってきてるなら、ちゃんと挨拶しないといけないじゃないですか…」
「いいよ、そんなの」
「いえ、そういうわけにはいきません!」
「………」
「おかわり」
「はぁい。まだまだあるから、たくさん食べてね」
「うん!」
りるから茶碗を受け取り、ご飯をよそいに行く。
…あいつは、変に拘るところがあるから。
まあ、あれで忘れてくれればいいが…。
「それで、隊長。一葉さんは本当にそこにいるんですか?」
「ああ。いるよ。何も悩みがなさそうな顔でニヤニヤしてる」
「あっ、それは酷いなぁ。実の母親に対して」
「ふん」
「そうですか。お変わりないようで、嬉しいです」
「…何気に、環も酷いね」
「お前の発言にご立腹だ」
「えっ?なんでですか?何かマズいこと言ったかな…」
「自覚がないならいいんじゃないか?」
「えぇ…」
「環の困った顔も見れたし、まあいいや」
「母さんも、もういいらしい」
「そ、そうですか?すみません…」
環は、全く検討違いな方向へ頭を下げる。
それを見て、お母さんはまた笑って。
「ところで、隊長。幽霊っていうのは、やっぱり足がないんですかね?」
「いや。そんなことは…ないよな?」
「んー、あるよね?」
「あるな」
「へぇ、そうなんですか」
「ていうか、生前と変わらないぞ、全然」
「向こうが透けたりは?」
「しない」
「触れたりは…」
「それは無理だね。私たちは精神的な存在だし」
「でも、聞いた話によると、カイトとかの聖獣っていうのも精神的な存在らしいけど」
「そんなの知らないよ」
「で、どうなんですか?」
「ん?あぁ…。触れない。精神的な存在だから、だそうだ」
「ふぅん、精神的な存在…。じゃあ、隊長と私たちでは精神の構造が違うってことですか?」
「いや、知らないけど…」
「知らないんですか?」
「精神の形なんて見えないだろ。感じ取れるものでもないし、違いなんて分からないよ」
「まあ、そうだね」
「そうですよね…」
「なんだ、残念そうだな」
「隊長みたいな精神になれば、霊とかも見えるのかなって思いまして…」
「見たい霊でもいるのか?」
「そうですねぇ。私の守護霊とか」
「守護霊?いるか?」
「いないんですか?」
「守護霊なんて、いたとしてもなかなか出てきてくんないよ。それに、出てきても別に面白いものでもないし」
「ふぅん…」
「えっ?一葉さん、なんて言ってるんですか?」
「守護霊なんて、別段面白いものでもなんでもないらしい」
「そうなんですか?でも、面白いかどうかは私が決めることですしねぇ」
「そうだけど」
「まあ、環なら面白い霊が来るかもしれないね~」
「適当だな…」
「何の話ですか?」
「いや…」
ゆっくりと、昼ごはんを食べていく。
…母さんがいるから、話が結構ややこしくなるんだけど。
まあ…それはいいかな。