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案の定、美希にこってりと搾られてしまった。

加熱殺菌処理だとか、古い生肉の危険性だとか、小さな子の病原体に対する抵抗力だとか、いろんな説教も聞かされて。

まあ、ある程度だけ聞いて、早々に引き上げたんだけど。


「はぁ…」


お湯を掛けて、石鹸を洗い流す。

今日は、本当にユカラとのんびり話してただけだったな。

…まあ、ちょっとした面倒事もあったけど。

ユカラはちゃんと楽しんでくれたんだろうか。


「んー…。目が痛いー…」

「目を開けるなよ。流してやるから」

「うん…」


桶にお湯を入れて、りるの洗髪石鹸を流す。

その間、りるは言った通りに目をギュッと瞑っていて。


「そら、顔を洗って」

「うん…」

「目は痛いか?」

「んー…。もう大丈夫」

「そうか。じゃあ、湯船に浸かろうか」

「うん!」

「走るなよ」

「ん~」


そんなことは全く聞かずに、真っ直ぐ湯船まで走っていって、豪快に飛び込んだ。

そして、それなりに広いものだから泳ぎ始めて。

私もすぐに追い付いて、りるの尻尾を掴んで制止させる。


「おい、りる」

「うぅ…。痛いよ~…」

「お前が言うことを聞かないからだろ。走るなって言ったよな?」

「うぅ…。だって…」

「だっても待ってもない。言うことを聞かないなら、次からはお前に首輪と紐を付けて風呂に入ることになるぞ」

「うぅ…。ごめんなさい…」

「まったく…。ちゃんと言うことを聞けよ」

「はぁい…」


ちゃんと返事をしたから尻尾を離してやると、半分ベソをかきながら、湯船の端っこの方で大人しくしていた。

…ちょっと効きすぎたかな。

尻尾がダメだったのか?

まあ、危ないことは危ないと教えておかないと。


「りる」

「…何?」

「夕飯はどうだった?」

「美味しかったよ!」

「そうか。それはよかった」

「あのね、帰ってきたら美希がいて、お肉に美味しくなる魔法を掛けてあげるって。そしたらね、本当に美味しくなったんだよ!」

「あいつは、料理の魔法が得意だからな」

「リョーリの魔法?」

「ああ。その魔法が上手いと、食べ物がさらに美味しくなるんだ」

「じゃあ、りる、明日も美希に魔法を掛けてもらう!」

「そうしてもらえ。美希も喜んでやってくれるだろうし」

「うん!」


りるは笑顔に戻って。

そして、また機嫌よく泳ぎ始めた。

まあ、泳ぐなとは言ってないし。

別にいいだろう。

…しかし、本当にこいつは、食い気だけは一人前なんだな。

それに、食べ物の話を出すとすぐに笑顔だ。

たくさん食べるのはいいことだけど。


「ん~」


まあ、なんでもいいさ。

たくさん遊んでたくさん食べて、元気に育ってくれるなら。

…ゆっくりと肩まで浸かって、ため息をついた。



部屋に戻ると、ツカサがみんなの布団を敷いているところだった。

りるはそこへ走っていき、頭から突っ込んで。


「こら、りる。危ないから、そういうことはやめろ」

「ん~」

「はぁ…。あ、姉さん」

「早いな。風呂には入ったのか?」

「ああ。市場から帰ってきたときに入ってる」

「そうか」

「………」

「食堂、昨日からだって?」

「ああ。涼さん、風華から止められたって」

「ふぅん。風華に診てもらってるのか。でも、まだ早いような気もするけど」

「涼さんもそう言ってたけど、風華はダメだって」

「まあ、薬師の言うことは聞いておくものだけどな」

「うん」


ツカサは、りるをつまみ上げて隣の布団へ投げ飛ばす。

それから、また布団を敷き始めて。


「そういえば、市場の肉屋が急に休業したって」

「ふぅん。そうなのか?」

「衛士長が来て、それからしばらくして休業したって聞いたけど」

「そうか」

「姉さんが関係してるんじゃないのか?」

「そうかもしれないな」

「………。あそこの肉屋は、全体の評判はよかったんだけど、一部の客には不人気だったらしい。それで、その一部の客には犬や狼の客が多かった」

「ふぅん」

「…俺も、あそこに行ったことがあるんだよ。それで、なんで不人気なのかが分かった。姉さんも分かってたんだろ?あそこに行って分かったのか、事前に知ってたのかは知らないけど」

「そうだな。上手く消してあったが、それでも肉の古くなった匂いがしていた。見た目はほとんど完璧だったがな」

「…やっぱり行ったんだ」

「りるが行きたいと言ったからな」

「あの店で買ったのか?」

「まあ、買った肉はそこまで古くなってなかったみたいだし、それに、うちにはチビたち専属の優秀な料理人もいるしな」

「…美希か?」

「ああ」

「ふぅん…。そんなに優秀なのか?」

「元旅人だしな。腐りかけでも、安全に美味しく料理する方法を知ってるだろうよ」

「………」

「大丈夫だ。あいつは、害があると判断した食べ物は、子供たちには出さないよ」

「それならいいけど…」

「まあ、もしかしたら、その腐りかけをオレたちの方に回してるかもしれないけどな」

「ふぅん…」


あまり関心がなさそうな、適当な相槌が返ってきた。

自分が腐りかけたものを食べるのには、幾分も不満はないらしい。


「こら、りる。危ないってさっきも言っただろ?」

「んー!」

「布団を敷いたら遊んでやるから。少し大人しく待ってろ」

「やぁの!」

「我儘を言うな。我儘を言う子とは遊ばないぞ」

「うぅ…」

「よしよし。そこで大人しく待ってろ」


どうやら、りるはツカサにも懐いてるみたいだな。

本当に、人見知りをする人としない人の違いは何なんだろうか。

いよいよ、よく分からないけど。


「…姉さん」

「なんだ」

「…もう寝るか?」

「いや、みんなが来るのを待つよ」

「…そうか」

「気を使ってくれなくていい。結構、楽しみにしてるんだぞ?」

「………」

「まあ、気にするな」

「…分かった」


そして、また布団を敷く音が聞こえてきた。

りるが待ちきれずに、また布団に飛び込む音も。

…そうだな。

私自身、結構楽しみにしているんだ。

この暗闇の時間を。

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