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「綺麗だね~」
「そうだな。おい、りる。あんまり遠くに行くなよ」
「うん!」
「あ。あれって、もしかして色目石?」
「ああ、そうだな」
「じゃあ、ここってお墓なんだ?」
「そうだな。遺灰をここに撒くんだ。この辺に住んでる人たちの共同墓地だな」
「ふぅん…」
「ここはやめておくか?」
「ううん。ここがいい」
「…そうか」
そうと決まれば、適当なところに腰掛けて。
ユカラも隣に座る。
「ふぅ。姉ちゃんとこうやって話すのって、なんか久しぶりな気がするね。この前も、カシュラのときも、二人っきりなんてことはなかったし。もしかして、遠足のとき以来?」
「そうかな。すまないな、なかなか構ってやれなくて」
「いいよ、あたしは。それより、あの子たちの方が大切な時期でしょ?」
花畑を走り回る、りるの方を指差して。
…あ、転けた。
しばらくゴロゴロと転がったあとに立ち上がり、また笑いながら走り出す。
「まあ…そうだな」
「ふふふ」
「なんだ」
「やっぱり、姉ちゃんは姉ちゃんだなって」
「どういうことだよ」
「普通だったら、そう思ってなくても、少しは否定するものでしょ?いや、お前も大切な時期なんじゃないか?とかさ」
「そうなのか?」
「うん。でも、姉ちゃんはやっぱり姉ちゃんだなって。思ってることを率直に言ってさ」
「悪かったな」
「ううん。嬉しいんだ。あたしは、そのままの姉ちゃんが好きだもん」
「…そうか」
「うん」
ユカラはニッコリと笑うと、空を見上げて。
私も寝転がって、空を見る。
…今日は少し雲が流れていて、でも、いい天気だった。
明日も晴れるかな。
「…りるってさ、屋根裏にいたんだよね」
「ああ。朝の寒い屋根裏で寝てた」
「ふぅん。よく見つけたね」
「そうだな。でも、子供たちはりるのことを知ってたらしい」
「へぇ、そうなんだ」
「不思議なかんじだな。大人は知らなくて、子供は知ってる。なんか、座敷わらしみたいな」
「あはは、座敷わらしかぁ。元気な座敷わらしだね」
「そうだな」
「座敷わらしって、金狼なのかな」
「さあな。子供の姿をしているとは言うが、種族までは指定されてないし」
「そっか」
りるは、今度は花畑の真ん中あたりに座って花を摘み、蜜を吸っている。
…あいつ、食い気だけは一人前みたいだな。
「りる、蜜ばっかり吸って。お花の冠とか作らないのかな」
「作り方を知らないんじゃないか?」
「そうなのかな」
「あいつにとって、花は食料でしかないんだろ」
「そうかなぁ」
「少なくとも、今はそう見える」
「今はね」
「教えてきてやったらどうだ?」
「えぇ~。あたし?」
「お前が言い出したことじゃないか」
「そうだけどさ。でも、また今度ね。今日は姉ちゃんと話す日だし」
「ずっと一人で遊ばせておくのも可哀想だけどな」
「あっ…。うん…」
「まあ、飽きてきたら、こっちに来るだろ」
「そうだね…」
なぜかは知らないが、少し寂しそうに、りるを見ていた。
いや…りるだけを見てたんだろうか。
もしかしたら、別の誰かを重ね合わせて見ていたのかもしれない。
…誰なんだろうな。
「…そういえば、術式とかいうのはどうなったんだ?」
「ん?相変わらずだよ。ていうか、あれ以来、響にも見てもらってないし。大きな、基底になってるような術式はそのまま残ってるよ」
「そうか」
「…大丈夫だよ。上手くやっていってるから。それに、結構便利なんだよ、この力も」
「お前が大丈夫と言うなら、それでいい」
「…うん」
「それで、桜はどうだ。相変わらずか?」
「そうだね。裁縫に夢中になってるよ」
「お前はどうなんだ?腕は上がったか?」
「んー。あたし自身は、あんまり上手くなったって実感はないかな。あ、でも、最近はかなり思い通りに縫えるようになってきたかな。あと、組紐も結構覚えてきたよ」
「そうか。よかったな」
「うん。それで、姉ちゃんはどう?」
「どうって何がだよ」
「えっ?…なんだろ。姉ちゃんって何してるの?」
「何してるんだろうな」
「毎日ぼーっとしてるだけ?」
「そうかもしれないな」
「そんなことないでしょ?」
「特別、何をしてるわけでもないし。まあ、ぼーっとしてると思われても仕方ないしな」
「何やってたのよ。昨日とか」
「昨日は…葛葉と話してたな。部屋で」
「ふぅん。やっぱり、ぼーっとしてたのかぁ」
「そうだな」
ぼーっとしてたんだろうな。
葛葉と一緒に。
のんびりと。
「なんか幸せな生活だよね。信じられないくらい」
「そうだな。こうして寝転がっていても給料を貰えるんだから」
「そんなことないでしょ?城の警護も街の巡回もしてるし」
「オレはしてないけどな」
「もう…。そういう言い方はよくないよ。姉ちゃんは衛士長でしょ?責任者なんだから」
「そうだな」
「責任者の仕事が少ないのはいいことでしょ?姉ちゃんも言ってたじゃない」
「ああ」
「だから、そんなこと言わないで」
「まあ、努力するよ」
「…うん」
「ところで、お前はどうなんだよ」
「えっ?」
「衛士の仕事はちゃんとやってるのか?医務班だろ?」
「や、やってるよ…」
「最近、マオに負けてるんじゃないか?あいつ、かなり勉強熱心だからな」
「うぅ…」
「…ふふふ。まあ、こうやって、手間の掛かる衛士もいるってことだ」
「あっ!もう!姉ちゃん!」
「まあまあ。そう怒るなよ」
「怒るよ!」
ユカラはフイと向こうの方を見てしまい。
でもまあ、ちょっと笑ってるからダメだな。
…さて、りるもそろそろ飽きてきたみたいだし、三人でどんな話をしようかな。
蒼い空を見ながら考える。