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「今日はユカラとお出掛けだったよね」

「そうだな」

「昨日、灯から聞いたんだ」

「そうだろうな」

「なんだ、知ってたみたいな言い方だね」

「ああ。優太も知ってたしな」

「あはは。灯、なんでも喋るんだね」

「お前も気を付けろよ」

「そうだねぇ。気を付けることにするよ」


最後の、衛士の白い服を干して。

それから、腰を捻って関節を鳴らす。


「はぁ~、疲れた。それで?いつ出るの?」

「え?聞いてないけど」

「えぇ…。じゃあ、どうやって待ち合わせとかするのよ…」

「門で待っていればいいんじゃないか?出入口は、いちおうそこしかないし」

「そんな適当な…」

「まあ、部屋に一回行ってみるよ」

「そうだね。その方がいいかも」

「じゃあ、ちょっと行ってくるよ」

「うん」


風華はヒラヒラと手を振って。

私も、適当に手を振っておく。

と、すぐに風華がこっちに向かってきて。


「そうだそうだ、姉ちゃん。忘れるところだったよ」

「なんだ」

「もし市場に行くことになったら、買ってきてほしいものがあるんだ」

「はぁ…。今日はお使いじゃないんだぞ?」

「分かってるけど…。でも、必要なものだから買ってきてよ」

「仕方ないな…。何だよ」

「えっと、イゥハルって薬石」

「薬石?何に使うんだよ」

「ちょっとね…」

「…イゥハルといえば、痔の軟膏か何かに使うって聞いたけど」

「ち、違うよ、今回は…」

「ふぅん?誰が痔なんだ?」

「そんなこと、言えるわけないじゃない!」

「やっぱり痔なんだな」

「あっ…。うぅ…。姉ちゃんがイゥハルの使い道を知ってるのが悪いんだからね!」

「はいはい。とにかく、イゥハルを買ってくればいいんだな」

「…はい」

「市場に行かなかったら買わないからな」

「分かってるよ…」

「うん。じゃあ」

「行ってらっしゃい…」

「行ってきます」


今度こそ、城へと帰っていく。

途中で後ろの様子を窺ってみると、ため息をつく風華が見えた。

…別にいいじゃないか。

少しくらい聞いたって。


「お母さん」

「ん?りるか。みんなと遊んでこないのか?」

「お出掛けするの?」

「今日はちょっとな」

「りるも行きたい!」

「え?うーん…。どうかな…。ユカラは二人っきりのつもりらしいし…」

「りるも行きたい!」

「じゃあ、ユカラに聞いて、いいって言ってもらったらついてきてもいいけど、ダメって言われたら大人しく留守番だぞ」

「りるも行きたい…」

「約束出来ないなら、いいって言ってもらえても連れていかないぞ。約束出来ないのか?」

「出来る…」

「そうか。じゃあ、ユカラを探しにいこう。ついていっていいかは、自分で聞くんだぞ」

「うん!」


まったく、現金なものだな。

連れていってもらえるかもしれないと分かると、すぐに元気よく走っていって。

…あいつ、ユカラのことは知ってるんだろうな。

あと、なんで外にも裸足で出てるんだよ…。

しっかり掃除をしておかないとな…。



部屋にはのんびり寝坊している桜しかいなかったから少し探してみたが、ユカラはやっぱり門のところで待っていた。

りるに草鞋を履かせて、門へと向かう。


「よぅ、ユカラ」

「あ、姉ちゃん」

「準備は出来たのか?」

「うん。まあ、準備なんて大層なことはする必要もないけど」

「そうだな」

「ユカラ!あのね」

「ん?どうしたの?」

「りるも行きたい!」

「えっ?」

「りるも一緒に行きたい!」

「い、いいけど、どうして?」

「どうして?」

「えっ?」

「ただ単に外出したいだけなんじゃないのか?」

「そ、そうなのかな?」

「えへへ~」

「まあいっか。じゃあ、りる、一緒に行こ?」

「うん!」


りるは、ユカラの手をしっかりと握って。

それから、少し空気の匂いを嗅いでニッコリと笑う。


「ユカラ、猫の匂いがする!」

「え?猫?」

「桜の匂いなんじゃないか?同じ部屋にいるんだし」

「そうかな…。そんなに桜の匂いがするの…?」

「自分の近しい者の匂いが服とかに付くことはある。お前の場合は、桜だったということだな。ちなみに、風華は葛葉の狐の匂いだったそうだ」

「へぇ、そうなんだ。ていうか、風華も似たようなこと、聞いたんだ…」

「ああ。昨日な」

「ねぇねぇ、桜って誰?」

「手先が器用で、刺繍とか裁縫がとっても上手なお姉ちゃんだよ。今日はもう出るけど、またあとで会いにいこっか」

「うん!」

「よし。じゃあ、そろそろ行こうか」

「そうだね」

「それで、どこに行くんだ?」

「んー、どうしよ。何も考えてなかった」

「話がしたいんだろ?静かなところがいいんじゃないか?」

「そうだね。でも、お昼は市場に行くかお城に帰ってこないと」

「せっかく出てるんだ。市場に行こうか。お使いもあるしな」

「お使い?」

「ああ。風華が薬石を買ってきてほしいって」

「ふぅん。ここにはないの?」

「ないんじゃないか?」

「まあ、あったら買ってきてなんて頼まないしね」

「そうだな」

「じゃあ、お城の周りをちょっと回ってから市場に行こっか」

「分かった。りるも、それでいいよな?」

「うん、いいよ」

「よし、決まったな。行こう」

「うん」


門から外に出る。

橋を渡って、すぐ左に曲がって。

森の中に入っていく。

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