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窓を開けると、セトが門のところで寝ているのが見えた。

門はまだ開いてないけど。

…相変わらず、厨房に調理班はいない。

また寝坊か…。


「………」


そういえば、今日はユカラと外出だったな。

ゆっくり話がしたい、か。

どんな話をするんだろうな。

いや、もしかしたら、私から話を振らないといけないかもしれないな…。

どんな話を振ればいいんだろうか…。

でも、要らぬ心配ということもあるかもしれないし…。


「はぁ…」


まあ、あれこれ考えても仕方ないんだけど。

どうしたものかな…。


「あれ?隊長、早いですね」

「ん?あぁ、おはよう」

「おはようございます。朝ごはん待ちですか?」

「ああ」

「よければ、僕がやりましょうか?」

「出来るなら頼むよ」

「はい。まあ、仕込みは出来てるでしょうし」

「すまないな。夜勤明けだろ?」

「あはは、大丈夫ですよ。今日はどうせ、ずっと暇ですから」

「そうか。…ありがとう」

「いえいえ」


優太は鍋の中身を確認してから、竃に火を入れる。

それから、ゆっくりと温め始めて。


「そういえば、今日はユカラちゃんとお出掛けですってねぇ」

「どこから聞いてくるんだよ、そんなこと」

「灯ちゃんですよ。お喋りですからね、あの子は」

「そうだな。ユカラも失敗だったな。相談相手を間違えた」

「あはは。それはそうですけど、そんなこと言っちゃ灯ちゃんが可哀想ですよ」

「でも、あいつが知ったことはすぐに伝播していくからな」

「そうですねぇ」


あいつはお喋りだし、噂好きだし。

そこが良いところと言えば良いところだろうが、悪い方に傾いてるかもしれないな。


「隊長は、ユカラちゃんとはどんな話をするつもりなんですか?」

「分からないよ、そんなこと」

「いくつ違いでしたっけ?五つくらいですか?」

「そうだな」

「じゃあ、話題もまだ噛み合いますよね。僕となら、隊長でもだいぶ苦労するでしょ?」

「そんなことないだろ。将棋の話も出来るし」

「あはは、それがありましたねぇ。でも隊長、ジジ臭いなんて言われませんか?灯ちゃんとか桜ちゃんあたりから」

「お前だって、ジジィと言うにはまだまだ若いじゃないか」

「僕はジジ臭いですから」

「ふん」

「まあ、ユカラちゃんとは、将棋の話では会話も弾まないでしょうし。風華ちゃんあたりから話の種をいくつか仕入れてみてはいかがですか?」

「オレもそう思ったんだけど、やっぱりなるようにしかならないだろうって思ってな。無駄な体力は使わないことにした」

「ふふふ。そういう、ちょっと適当なところが一葉さんにそっくりですねぇ」

「褒め言葉として受け取っておこう」

「ふふふ。残念ながら、褒め言葉ではないですねぇ。でも、不思議なんですよね。隊長も一葉さんもよく考えてるはずなのに、最後にはなるようになれって」

「なるようにしかならないからな」

「そうは言っても、諦めたわけではないんでしょ?」

「諦めはしないさ。ただ、考えたことが無駄になるかもしれないし、考えた通りになるかもしれない。それは成り行きを見ていかないと分からないし、結局はなるようになるということになる。あんまりいろいろ考えて無駄な体力を使うよりは、流れに身を任せて、要所要所で力を加えて方向を調整していく方が楽だということになるのかもな」

「へぇ…。よく分からないですけど、僕にはそういう考え方は出来ないかもしれませんね。僕みたいなのは、上手くいかないと特に、あれこれと考えてしまいますから」

「そうなのか?」

「そうですねぇ。僕は気が小さいですから」

「ふん。どの口がそんなことを言うんだよ。お前ほどおおらかなやつも見たことないぞ」

「ありがとうございます」

「褒めてはないな」

「おあいこです」

「何とのおあいこだよ」

「ふふふ」


いい匂いがしてきた。

もうそろそろかな。

優太も、少し味見をして。


「うん。いいかんじですね。隊長、悪いんですが、お皿を取ってもらえますか?」

「ああ。お前も食べるか?」

「そうですね。寝る前に少しいただいておきましょうか」

「じゃあ、これ」

「ありがとうございます」


皿を受け取ると、手際よく盛り付けていく。

まあ、さすが料理が趣味なだけはあるな。

…いや、盛り付けはあんまり関係ないか?


「さあ、どうぞ」

「ああ。いただきます」

「はい」

「ふむ…。美味いな」

「それは、今日の当番に言ってあげてください」

「いや。寝坊した罰だな」

「隊長も手厳しいですね」

「まあな。…そういえば、夜回りはどうだった。異常はなかったか?」

「はい、そうですね。ただ、ひとつ気になることが」

「ん?何だ?」

「りるちゃんなんですが、丑の刻あたりでしたでしょうか、隊長の部屋の屋根縁で、ずっと月を見ていたんです」

「ふぅん?りるが?気が付かなかったな」

「僕も見間違いだと思ったんですが。次に行ったときには、ちゃんと隊長の横で寝てましたし。でも、気になるんですよね。かなり物憂げでしたので…」

「そうか。ありがとう。またあとで聞いてみるよ」

「はい。よろしくお願いします」


りるが物憂げに月を見ていた、か。

不思議と、その姿は簡単に思い浮かべることが出来た。

銀の月に輝く、あの金色の髪が。

…でも、もし本当だとしたら、どうしてそんな真夜中に月を見ていたんだろうか。

月光病にサン、そして、りる。

どうやら私は、月とは切っても切れない縁があるらしいな。

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