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りるは、ひとしきり泣いたあと、疲れて眠ってしまって。

葛葉もうとうととしていたが、布団に潜り込んで眠ってしまった。

屋根縁に寝転んで、のんびりと空を見る。

あの雲は桐華の湯呑みに似ているな…とか思っていると、黒い影が視界を横切った。


「お母さん」

「ん?」

「何を考えてるの?」

「そうだな。響のことかな」

「ホントに?」

「さあな」

「もう…」

「みんなと遊ばないのか?」

「今は、お母さんと一緒にいたい」

「ん?どうしたんだ?」

「………」


またか。

最近多いな、こういうの。

まあ、みんな多感な年頃なんだろう。

悩みを持ってきてもらうのも、私自身嬉しいし。


「お母さんって、わたしのお母さん?」

「ああ、そうだな。…お前はどう思うんだ?」

「………」

「分からないか?」

「わたしね、今日は市場の友達と遊んできたの」

「そうか」

「お昼ごはんも、そこで食べたんだよ。市場の食堂で」

「ふぅん。涼のところか」

「うん。それでね、涼のお腹を見せてもらったんだ。中に赤ちゃんがいるんだって」

「そうだな。妊娠してるんだ」

「それが、お母さんなんだって。お腹の中の赤ちゃんの、お母さんってことなんだって」

「ああ」

「…でも、お母さんは違うよね。お母さんは、わたしをニンシンしたんじゃないよね?」

「…なるほどな。そういうことか」

「お母さんは、わたしのお母さんなの?」

「じゃあ、もう一度聞くけど。お前はどう思うんだ?私は、お前のお母さんか?」

「わたしは…わたしは…」


響は、今にも泣き出しそうな目でこちらを見つめてくる。

…でも、今は手助けをすることは出来ない。

響の思うところなんだから。

それを聞かせてもらわないとな。


「お母さんは、わたしのお母さんだよ…。でも…でも…お母さんは、わたしのお母さんじゃないんだよね…?」

「響。お前が、私を母親だと思ってくれてる間は、私はお前の母親だ。たとえ、腹を痛めた、血の繋がった娘でなくともな」

「なんで、わたしとお母さんは血が繋がってないの…?血が繋がってたら…わたしがお母さんの本当の娘だったら、こんなことも考えなかったのに…」

「そうかもしれないな。でも、こんなことを考えられるのも、響と私の血が繋がっていないからだとも言える」

「………」

「それじゃあ…響は家族をどう考える?」

「家族…。お父さんとお母さんと子供と…。おじいちゃん、おばあちゃんとか…」

「そうだな。そういう血縁関係も、確かに家族のひとつと言えるだろう」

「………」

「じゃあ、この城にいるみんなはどうだ?お前にとって、家族じゃないのか?」

「家族…だと思ってる…」

「家族とは言えないのか?」

「だって、血も繋がってないんだよ?家族って言えるの…?」

「血に拘るんだな」

「………」

「自分の家族を決めることに於いて、血なんて不確定な一要素にすぎないんだ。たとえば、お前はさっき、お父さんとお母さんが家族の中に含まれると言った。でも、父親と母親は血では繋がっていない。従兄弟だとか、そういった近縁者でない限りな」

「あっ…」

「そうだ。血に拘ることはないんだ。まずは、それを分かってくれ」

「うん…。でも、お母さんと子供は血が繋がってるよ…?」

「父親と母親の血が繋がってなくてもいいなら、母親と子供の血も繋がってなくてもいいんじゃないか?そう思わないか?」

「………」

「そうだな…。あまりこういう話はよくないんだけど…。たとえば、父親と母親が何かの理由で別れたとする」

「離婚…?」

「ああ。それで、子供は父親についていった。そして、父親がまた結婚をした」

「再婚…?」

「そうだな。…よく知ってるな」

「うん、まあね。それで?」

「父親が結婚した女の人は、とても優しくて、温かくて…まるで母親のようだった。そういうとき、その女の人は、その子の母親とは言えないだろうか」

「その子がそう思うんだったら、それでいいんじゃないの…?」

「そうか。じゃあ、お前について考えよう。お前は、私のことをお母さんと言ってくれる。城のみんなを家族だと言ってくれる。それなら、お前にとって、私はお母さんで、城のみんなは家族なんじゃないのか?たとえ、血が繋がっていなくても」

「………」


響は何も言わなかった。

ただ、私の服を強く握り締めただけで。

…でも、笑っていた。

優しく。

答えは出たみたいだな。


「まあ、そういうことだ。あくまで私の考えだが」

「ううん。ありがと」

「何言ってるんだよ。私は、お前のお母さんなんだろ?愛する我が子が哀しい顔をしていたら、それを笑顔にするのがお母さんの仕事だよ」

「えへへ。そうだよね」

「ああ」

「ねぇ、お母さん」

「ん?」

「ギュ~ってしていい?」

「ああ。もちろんだよ」


腕を広げると、響は真っ直ぐに飛び込んできて。

強く、強く、抱き締める。


「えへへ。ちょっと、苦しいかな」

「そうか?じゃあ、弛めるか」

「…ううん。このまま」

「ああ。分かってるよ」

「えへへ」


私は、響の母親。

たとえ、血が繋がっていなくても。

頼りないかもしれないけど、やれることは精一杯やるからな。

約束する。

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