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医療室の戸を開けて、中に入る。

寝台に腰掛け、屋根裏の住人を下ろして。

屋根裏の住人は、さすがにもう泣き止んではいたけど、まだグズグズ言っていた。


「はぁ…。やれやれ…」

「あれ?どうしたの、その子?」

「知らないよ。屋根裏にいた」

「屋根裏?そんなのあるの?」

「あそこの階段、上に上がれるだろ?」

「あぁ、あれ。屋根裏になってるんだ。ていうか、天守閣の屋根裏って…」

「風華が連れてきたんじゃないのか?」

「違うよ…。屋根裏なんて、伊織とか蓮じゃないんだからさ…」

「まあ、そりゃそうだが」

「…それにしても、大人しいね」

「………」


私の後ろに隠れる。

風華が近付くと、尻尾の毛を逆立てて。


「あ、あれ?いきなり嫌われちゃった?」

「人見知りなんじゃないか?」

「ふぅん…。そうなの?」

「さあな。それより、何か下着を用意してやってくれ」

「おねしょでもしてたの?」

「いや。最初から穿いてなかった」

「えぇ…。ていうか、なんで屋根裏にいたのよ」

「だから、知らないって。まったく…。サンにしろこいつにしろ、どこから来たんだよ…」

「サンは、偽孤児院からでしょ?」

「いつの間にか屋根縁で寝てただろ。その話をしてるんだ」

「あぁ。そういえばそうだったね。ホント、うちの子たちは神出鬼没というかなんというか」

「そうだな」


なぜかブルブルと震えだした屋根裏の住人を抱き上げて、膝の上に乗せる。

寝間着は、大きな布の袋に首と腕を通す穴を空けただけのような簡単なもので、やっぱりこれだけでは寒すぎるんじゃないかと思う。

でも、寒くて震えてるわけではないらしい。


「風邪?寒いの?」

「いや。お前が怖いんじゃないか?」

「えぇ…。そんなことないよね?」

「………」

「ど、どうしたのかな…」

「だから、お前が怖いんだろ」

「ち、違うよね?」

「………」

「そういえば、まだ名前すら聞いてなかったな」

「えっ?そうなの?」

「ああ」

「それじゃあ…。あなたのお名前は?」

「………」

「そら、風華が聞いてるぞ」

「…フーカ?」

「なんだ。オウム返しか?」

「………」

「この子も風華って名前なのかな」

「違うと思う」

「なんでよ」

「今のは、ただのオウム返しだろ」

「………」

「おい、お前の名前は何だ」

「そんな乱暴な聞き方じゃダメだよ」

「………」

「ほら」

「ほらじゃないだろ…。おい、お前の名前は?ないのか?」

「…りる」

「りる?りるっていうのか?」

「…うん」

「はぁ…。ちゃんと喋れるんじゃないか。さっきはなんで唸ったりした」

「唸った?姉ちゃん、何したの?」

「捕まえて、事情を聞き出そうとしただけだ」

「どうせ、今みたいに乱暴にしたんでしょ」

「いたって普通の対応だ」

「ホントかなぁ…」

「そんなことは別にいいだろ。…りる。さっきはなんで唸ったりしたんだ」

「………」

「答えない気か?」

「うぅ…」

「泣いてもダメだぞ」

「もう…。姉ちゃん…」

「ごめんなさい…」

「はぁ…。まったく…」


小さくシュンとなられては、怒るものも怒られない。

…怒ってたわけじゃないけど。

まあ、人見知りの気もあるみたいだし、警戒してたのかもな。


「…お前はどこから来たんだ?」

「りるね、お肉が好きだよ」

「誰もお前の好物なんて聞いてない」

「ごめんなさい…」

「そうじゃなくて、お前はどこから来たんだ」

「あっち」


正確に部屋の南西の方を指す。

まあ、金狼が多い地方から考えると、そうである可能性は高いけど…。

距離が分からないから、なんとも言えない。


「フーカは怖くない?」

「怖くはないけど、悪さをしたら怖いぞ」

「ね、姉ちゃん…」

「りる、悪いことしてないもん…」

「それなら、怖くないかもな」

「ホント?」

「私は別に怖くないからね」

「………」

「な、なんで黙るのよ…」

「ねぇ、フーカって何してるの?」

「薬師だ」

「クスシ…」

「なんで、私に直接聞かないの?」

「………」

「怖いお姉ちゃんだもんな」

「うん」

「だから、怖くないって…」

「怖くないんだとさ」

「うん。分かった」


りるは、パタパタと尻尾を振って。

そうやって、怖くない人だと記憶してるのかもしれない。

背中を押してやると、風華のところに走っていって。


「はぁ…。なんで、姉ちゃんばっかり、すぐにそうやって好きになってもらえるのかな?」

「人望だな」

「それはないね」

「なんでだ」

「人望なら、私にもあるもん」

「お前の思い込みかもな」

「ち、違うもん…」

「りる。風華のこと、好きか?」

「んー」

「なんで考えるのよ…」

「フーカ、狐の匂いがする」

「狐?葛葉かな。…姉ちゃん、私、葛葉の匂いする?」

「だいたい、近しい者の匂いは付いてるものだ。まあ、狼の鼻なら分かるかもな」

「そうなんだ…。姉ちゃんなら誰かな」

「さあな。風華の匂いも付いてるかもしれない」

「そうかな」

「気になるなら匂ってみればいいじゃないか」

「私じゃ分からないよ…」

「まあ、そうかもしれんな」

「もう…。ねぇ、りる。姉ちゃんはどんな匂いがする?」

「んー。いろんな匂い」

「ふぅん…。よく分からないなぁ…」

「まあいいじゃないか。なんでも」


誰の匂いがしようとも。

私がみんなのことが好きなのには変わりないんだし。

「フーカ、薬臭い」

「薬師だからね…」

「でも、服はいい匂い」

「焚き染めてるからね」

「えへへ。いい匂い~」


りるは風華に抱きついて。

風華も、りるの頭を撫でる。

…二人が仲良くなるのに、そんなに時間は掛からなさそうだな。

それならその方がいいし。

しかし、匂いが二人の仲を結ぶか。

まあ、そういうのがあってもいいかもしれない。

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