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「ほらさ、あれじゃない?迷子」

「寝間着の迷子なんて聞いたことないぞ」

「じゃあ、夢遊病?」

「夜は、門は閉まってるだろ。夢遊病だとしたら、ものすごい夢遊病だな」

「あはは、傑作だね。桐華が夢遊病ならやるかも」

「笑い事じゃないっての…」


屋根裏の住人は、もう一度起きたときにはいなくなっていた。

どこに行ったのかと探してみたが、おおよそ行きそうな場所にはいなかった。

洗濯が終われば、おおよそ行かなさそうな場所を探さないといけないけど…。


「まあ、いいんじゃない?たぶん、私たちの代わりに来てくれたんだよ」

「そうだ。桐華に任せただろ、連絡」

「うん。やっぱり、忘れてるんだね」

「いつものこととはいえ、お前からも連絡しておいてくれ。灯から昨日聞いたんだぞ」

「あはは、聞けただけマシじゃない」

「だから、笑い事じゃないって…」


旅団天照は、どうしてこうも適当なやつばかりなんだろうか。

…私が神経質なだけってことはないはずだし。

大切なことは、きっちり連絡してほしいものだ。


「あ。あれ?噂の女の子ってさ」

「ん?」


遙が指差す方…広場で、例の寝間着のまま他のチビっこと遊ぶ屋根裏の住人が見えた。

…何してるんだ、あいつは。

ていうか、どこにいたんだ。


「珍しいね。金狐?」

「どう見ても狼だろ…」

「えぇ、そうかな」

「狼の匂いがした。間違いない。それに、狐と狼では耳の形も尻尾の形も違うだろ」

「そうかな?」

「お前は、大雑把すぎるんだよ。虎と熊が同じだって言ってるのと同じだぞ」

「えぇ~、全然違うって。狼と犬くらいでしょ」

「狼と犬も全然違うだろ…。望とツカサが同じか?」

「似てるよね~」

「似てない!」

「どう違うのさ」

「狼の耳は鋭くて、犬は丸みを帯びている。尻尾も、狼がずんぐりと太いのに対して、犬はスラッとしたのが多い」

「ふむ。ほとんど同じだってことだね」

「だから、違うって…」


なんで、狼と狐とか狼と犬が同じなんだよ。

あんなに違いがあるのに…。


「まあまあ、いいじゃない。それよりさ、金狼なんて聞いたことないんだけど」

「はぁ…」

「ため息つかないの。で、紅葉は何か知ってるの?」

「…金狼は南の地方でよく見られるらしい。具体的に言えば、ミユタナ以南くらいだな」

「へぇ、そんな遠く」

「あいつがそのあたりから来たのかどうかは知らないけどな」

「まあ、そりゃそうだけど。…なんかすごく楽しそうだね」

「でも、あいつ、下着を着けてないぞ」

「あはは。それは大変だ」

「ああ。大変だな」


早いとこ終わらせて、捕獲作業に移るか。

遙にも、目で合図を送って。

…それにしても、風華はどこに行ったんだ?

寝坊か?



襟首のところを掴んで持ち上げる。

猫の子のようにプラプラとぶら下がる屋根裏の住人は、観念したのか無駄な抵抗はしなくて。


「ありゃりゃ。ホントに穿いてないね~」

「まったく…」

「すばしっこかったね、キミ。名前は?」

「ウゥ~…」

「唸ってるよ」

「そうだな」


頭を一発小突いてやる。

すると、すぐに涙目になって。


「うぅ…」

「あ、紅葉が泣かせた」

「オレに向かって唸ったこいつが悪い。自業自得だ」

「うえぇ…」

「あーあ」

「まったく…。何なんだ、お前は…」


床に放り出すと、四肢でしっかりと着地して。

それから、ちゃんと座り直して、また泣き始める。


「あ、そうだ。私、もう行かないと」

「そうか」

「見送ってくれないの?」

「見送ってほしいのか?」

「桐華は寂しがると思うよ」

「あいつは、連絡を寄越さなかったけどな」

「まあまあ。じゃあ、行こうよ」

「はぁ…。分かった分かった…」


泣き止まない屋根裏の住人を背負って、いざ見送りに。

…ていうか、すぐそこなんだけどな。


「はぁ~。なんか、長いようで短かったようで長かったね」

「まあ、前王のときは、いつも三日くらいで出てたからな」

「イヤじゃない?あれと同じ釜の飯を食べるなんてさ。苦行だよ」

「オレたちは、毎日その苦行を強いられていたわけだが」

「そうだね~」

「他人事だと思って…」

「他人事だもん」

「はぁ…」

「ため息つかないの」

「お前がつかせてるんだ」

「そうだけどさ」


と、そんなことを言ってる間に、広場に着いて。

広場は、天照の団員やら見送りやらでごった返していた。

そこには、さっき姿を見せなかった風華もいて。

挨拶して回っていて、洗濯に出られなかったということか?


「あっ、おーい、紅葉~」

「こんな近くで、大声で呼ぶな」

「あはは。紅葉に言うの忘れてたからさ、来てくれないかと思った~」

「来ない方がよかったな」

「そんなこと言わないでさぁ。…それで、その子、誰?」

「お前が連れてきたんじゃないのか?」

「知らないよ。ね、遙?」

「うん、まあ」

「金狼かぁ。なんでこんなところにいるんだろ」

「さあな」

「へぇ。狼だって分かるんだ」

「え?」

「…なんでもない」

「そう?んー、まあいいや。あのさ、紅葉。また帰りに寄ると思うんだよね。そのときは、またよろしくね」

「ああ。分かってるよ」

「旅団の護衛だから、やりごたえあるだろうなぁ」

「遊び感覚でやるものじゃないぞ」

「分かってるよ…」

「本当かな」

「まあ、桐華が遊んでると判断したら、私がきつく叱っとくからさ」

「それじゃ、いつも怒られてないといけないじゃん!」

「…いつも遊び感覚なんだな」

「あっ!ち、違うよ!」

「墓穴を掘ったね、桐華」

「違うって!」


まったく…。

しかし、こんなバカなやり取りでも、しばらく出来ないとなると、少し寂しいかんじもする。

まあ、新しい事件の種はもう蒔かれてあるんだけど。


「…それにしても、お前、いつまで泣いてるんだよ」

「うえぇ…」

「紅葉が泣かせたの?」

「そうだよ。紅葉が殴って泣かせてた」

「こいつがオレに向かって唸るからだ」

「あはは、命知らずなチビっこだなぁ」

「うぅ…」

「まあ、行ってこい」

「うん。行ってきます」


おんぶをする手を片方離して。

桐華と、がっちりと手を組む。

…よし。

行ってこい。

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