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やっぱり、この風呂は一人では広すぎるな。

誰か連れてくればよかった。

でも、みんなまだ食べてたしな…。


「ふぅ…」


尻尾を浸けたら、毛が浮くとまた掃除当番に怒られるだろうか。

まあ、怒られるくらいは別にどうともないんだけど。

ということで、髪をまとめあげて、ゆったりと肩まで浸かる。


「………」


最近は誰かしらと一緒に入ってたから、なんだかうら寂しいな。

早く上がって、部屋に戻るか。

その頃には、みんな帰ってるだろうし。

…と、誰か来たらしい。


「ふんふーん。なーなにゃにゃー」

「変わった鼻唄だな」

「あ、お母さん」

「湯船に入るのは、身体を洗ってからだぞ」

「うん」


リュウは洗い場の椅子に腰掛けて、まずは頭を洗い始めた。

掃除は上から。

身体を洗うときもそうだな。


「んー…」

「………」


あっさりと洗い終わると、さっさと流してしまう。

そしてすぐに、身体に取りかかろうとする。


「…リュウ。もう少ししっかり洗ったらどうなんだ」

「え?いつもこのくらいなの」

「まったく…。オレが洗ってやるから」

「うん」


湯船から上がり、尻尾の水気を払い飛ばして。

そして、適当に椅子を持っていって、リュウの後ろに座る。

すると、リュウは嬉しそうに翼をはためかせた。


「どうしたんだ?」

「えへへ。お母さんとお風呂に入るのが嬉しいの」

「なんでだ?」

「お母さん、温かいの」

「温かい?みんなもそうだろ?」

「うん。でも、お母さんはお母さんの特別な温かさがあるの」

「特別な?そうか?」

「うん。温かいよ」

「ふぅん」


石鹸を取って泡立てる。

それから、リュウの髪に付けて洗い始めて。

…リュウの髪は、黒地に赤い毛が混じっているな。

ルウェも、黒地に蒼い髪が混じってた。

龍ってのは、そういうものなのかな。

でも、光は灯と同じで真っ白だし。

響は…真っ黒だな。


「リュウの髪は綺麗だな」

「えぇ、そうかな?」

「ああ。きちんと洗ってくれれば、もっといいんだけどな」

「むぅ…」

「髪は女の命とも言うからな。まあ、女は髪だけじゃないけど」

「そうなの?」

「ああ。だから、いつでも綺麗にしてほしいんだけど」

「でも…。面倒くさいんだもん…」

「私が毎日洗ってやろうか?」

「えへへ。それならいいかな」

「あんまり甘えるなよ」

「えへへ」

「そら、流すぞ」

「うん」


しっかりと洗って、しっかりと流す。

…よし、こんなものだな。


「リュウ、いいぞ。顔を洗って」

「ん」

「ほら、目を開けて。目は痛くないか?」

「うん。痛くないの」

「よし。じゃあ、次は身体だな」

「お母さんが洗ってくれるの?」

「自分で洗え」

「うん」


手拭いと身体用の石鹸を取って、泡を立て始める。

…まあ、背中くらいは流してやろうかな。


「背中を流してやるから、それを貸せ」

「うん!」


泡を立て終えると、すぐに手拭いを渡す。

それから後ろを向き、翼をパタパタとさせて。


「リュウ。それじゃ洗えないだろ?」

「えへへ。そうだったの」


リュウはきちんと座り直して、翼も大人しくさせる。

よし。

じゃあ、流してやるか。



布団に潜る。

少し温かいのは、さっきまで誰かがここにいた証拠なんだけど。

まあ、隣で寝てる響あたりが妥当な線だろう。


「ふぁ…。あ、姉ちゃん。もう寝るの?」

「ああ。風華もだろ?」

「うん。遙さんと話し込んじゃった」

「やっと仕事が決まったんだってな」

「うん。あれ?聞いてなかった?」

「オレの担当は桐華だろうからな」

「あはは、そっか。桐華さんは仕方ないよね~」

「仕方ないことはないだろ?充分大切なことなのに」

「うん。まあ、いいんじゃない?姉ちゃんも、別に怒ってないんでしょ?」

「…まあな」

「明日になれば、嫌でも報されるんだしね。見送りはするの?」

「いつ出るか聞いてないからな」

「朝、洗濯が終わったくらいだって。旅団天元っていうのがまだ国境まで到着してないから、ゆっくり行くって」

「まあ、それくらいだったら桐華も起きてるだろうしな」

「あはは。お寝坊さんなんだ」

「知らなかったか?」

「知ってたけど」

「あいつの寝坊は昔からだ。急ぎの用があれば、置いていかれることもある」

「えっ、そうなの?」

「まあ、寝てる桐華を叩き起こすか、寝てるまま連れていくかのどっちかが多いけど、そんな時間もないときは置いていかれるな」

「ふぅん…。うちの村ではそんなことなかったけどな…」

「村では宿営地を張っていただろ?桐華のために残していくわけにもいかないし、どうしても連れていくんだろう。それにここでも、いつまでも居座るのは迷惑だからと馬を一頭置いていくんだ。桐華が起き次第、その馬で旅団に追い付くという寸法だな」

「ふぅん。桐華さんって、みんなに好かれてるんだね」

「そりゃそうだろ。そうでなければ、とっくの昔に路頭に迷う熊だ」

「路頭に迷う熊かぁ。なんか、可哀想だね」

「あいつなら、路頭に迷っても大丈夫そうなかんじだけどな」

「生命力はありそうだもんね」

「そうだな」


まあ、お茶を飲んでるだけでも、いちおうは旅団天照の団長なんだ。

路頭に迷うことはないだろうな。


「ふぁ…。もう眠たいや…」

「そうか。お休み、風華」

「お休み、姉ちゃん…」


そう言ってすぐに、静かな寝息を立て始めた。

かなり眠たいのを押してたんだろう。

…じゃあ、私も寝るかな。

明日はちゃんと、桐華の口から聞かないといけないな。

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