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「これがいいんじゃない?」
「首輪か」
「赤くて可愛いよ」
「じゃあ、これにする」
「お前はどうだ?」
「え…あたし…ですか…?」
「ああ」
「えっと…あの…」
「遠慮はするな」
「その…」
「なんだ」
「あたし…お金…持ってませんよ…?」
「オレの奢りだ。それに、昼ごはんだって奢りだったじゃないか」
「え…でも、そんな…。今日始めて会ったのに…」
「いいってこと」
「でも…」
「ねぇ、その子、紅葉の友達?」
「まあ、そんなところだ」
「ふぅん…。まあ、なんでもいいや。そこの人」
「あ、あたしですか…?」
「そうだよ。あのねぇ、奢ってくれてるってんだから、素直に奢られなさい。分かった?」
「は、はい…。あ…」
刹那の気迫に圧されて、思わず返事をしてしまう。
「ふふ。そら、好きなのを選びな!」
「うぅ…」
「大丈夫だから。それに、葛葉に買ってお前には買わない、なんて不公平だしな」
「あたしは…」
「これなんかどう?」
「えっと…」
「ユカラは、これがいいと思う」
「ユカラ…?」
「足輪…ですか…」
「じゃあ、ふたつで一万円ね!」
「…もうちょっと負からんか」
「負からんね!」
「はぁ…まあいいか…」
「そうそう。お金は溜め込んでても良いことないよ!」
「はいはい…」
財布から代金を取り出し、刹那に渡す。
「あいよ!まいどあり!ほら、二人とも、早速着けてみな」
「それはオレの台詞だろ」
「ありゃ?そうだっけ?」
「うぅ…どうやってつけるの~?」
「こう」
葛葉の首輪を受け取り、しっかりと着けてやる女の子。
「えへへ、ありがと!ユカラ!」
「どういたしまして」
ニッコリと笑う葛葉につられ、ニッコリと笑い返す。
それにしても…
「なぁ、葛葉。ユカラってなんだ?」
「ユカラはユカラ」
「説明になってない…」
「あ、あたしの呼び名だと思います…」
「そりゃ分かるけどな。なんでユカラなんだ?」
「それは…」
「ユカラだからユカラなの!」
「…そうか」
かくして、謎の女の子は葛葉によってユカラと名付けられた。
…どういう意味なんだろ。
革屋を出て、市場の中をグルリと回ってみる。
「あぁ~っ!隊長!その子の手錠はどうしたんです!」
「香具夜か…。そら」
ユカラの手を拘束していた手錠を投げて寄越す。
「もう!こんなの渡されてもどうしようもないですよ!」
「食べにくそうにしてたからな」
「えぇ!?」
「そんなに驚くことなのか?」
「逮捕者は連れまわさないで、すぐに城まで連行してください!」
「固いことを言うな」
「隊長だからって、自由気ままに振舞ってもらっては困ります!」
「暴れたらまた取り押さえれば良い話だろ?」
「もう!知りませんよ、私は!」
「はいはい」
「ふんだ!隊長のバーカ!」
そう言って、機嫌悪そうに尻尾を振りながら城の方へ歩いていった。
まったく…どこのガキんちょだよ…。
「あの…暴れたって…」
「あぁ、なんでもないから。それにしても、風華たちはどこに行ったのかな…」
「…対象捜索機能へ移行します」
「え?」
「…検索中」
「おい、ユカラ?」
「ユカラ…?」
「…検索終了」
「大丈夫か?」
「あ…えっと…なんですか?」
「いや…」
あの無機質な声の間の記憶はないのか…?
「そうだ。風華の居場所は分かったのか?」
「はい。この先の駄菓子屋にいるみたいです」
「ほぅ…」
「だがしや?」
「お菓子がたくさん売っている場所だよ」
「おかし!早く行こ!」
「はいはい。分かったから引っ張るな」
葛葉に引かれるまま、駄菓子屋まで行く。
…そしてたしかに、風華たちはいた。
「あれ?姉ちゃん」
「何か良いものでもあったのか?」
「望と響がなかなか決まらなくて…」
「光は?」
「わたしは、これ」
と言って、飴でいっぱいになった袋を見せてくれる。
「いや~、クジで当たりを引かれちゃってねぇ。ホントびっくりだよ」
「…いくつの中に何個当たりを入れてるんだ?」
「さあねぇ…数えたことがないんで…」
「ふぅん…」
「…衛士長さんにだけ教えますけどね、百個に一個くらいですよ」
「ほぅ…。まあ、当たりが入ってるだけまだマシだな」
「ありがとうございます」
「ところで、なんでオレが衛士長だってことを知ってるんだ?」
「そりゃ…あの時、火事現場にいましたからね…。良いものを見せてもらいました」
「…もう危ないところには近付くな」
「分かってますよ。飛んできた刀で怪我をした人もいるみたいですし…」
「やっぱりな…」
「お母さんにも、これ、一個、あげるね。お姉ちゃんも、どうぞ」
「ん?あぁ、ありがとう」「ありがとう、光ちゃん」
「望と響もいい加減決めなさい!」
「えぇ~…だってぇ…」
「じゃあ、わたしはこれにする」
と言って、響は独楽を店主に渡す。
「毎度あり。さて、黒い狼の子だけになっちゃったよ」
「うぅ…」
「何で悩んでるんだ」
「えっとね、飴か、ケンダマか」
「飴かケンダマ…」
「ね、ね。お母さんも悩むよね!」
私は飴かな…。
「うぅむ…」
「早く決めないと、置いていっちゃうよ!」
「うぅ~…」
「あんまり急かしてやるな」
「でも…」
「じゃあ、こうしよ、望ちゃん。あたしがケンダマを買ってもらうから、望ちゃんは飴を買ってもらう。あたしがケンダマで遊んでないときは誰でも使っていいことにするから、そのときにケンダマで遊べばいいよ。それでいいですよね、紅葉さん?」
「ああ」
「ホント!?じゃあ、望は飴にする!」
「あたしはケンダマ」
「上手いこと考えるね、お嬢ちゃん…って…」
店主を思いっきり睨むと、なんとなくでも状況を把握したのか、私に軽く頷いて続ける。
「お、お嬢ちゃん、流石だね!」
「それほどでもないですよ」
「毎度あり!」
「じゃあ、行こっか」
「あぁ、ちょっと先に行っててくれ」
「……?分かった」
風華がみんなを連れて外に出たのを確認して
「ユカラ…あの子は、今は大丈夫だ。それに、火事現場でのことも全く覚えていない。
あまり、あのことは言わないでほしい」
「わ、分かりました…」
「他の野次馬たちにも伝えておいてくれ。分かるんだろ?」
「は、はい…ある程度は…」
「頼んだぞ」
「はい…」
「…オレもこれを貰おうか」
「は、はぁ?」
「そら、代金だ」
「あっ!ま、毎度あり!」
店主に軽く手を振り、飴を頬張りながら外に出る。
…風華たちは、と。
向かいの店でまた何かしているようだ。
「さぁさ、今日の夕飯に出来たての豆腐はどうだい!」
「お母さん!あぶらげ、いっぱいあるよ!」
「お豆腐屋さんだからね」
「おっ!油揚げが好きなのかい!?」
「うん!」
「じゃあ、何か買ってくれたら、二枚おまけで付けちゃおっかな!」
「…商売上手いですね」
「ははっ!伊達にウン十年やってませんよ!」
「そうだな…。じゃあ、この豆腐を三丁」
「あ、姉ちゃん」
「あいよ!毎度あり!じゃあ、約束の油揚げだ!」
「やった!」
「そのままで食べても美味しくないと思うよ」
「むぅ…じゃあ、あとで食べる」
「鍋、貸してくれないか?」
「了解!貸し出しは無料だけど、明日までに返してね!」
「分かった」
「毎度あり!」
そしてそれから、ユカラと、ユカラの監視下に置かれたチビ三人と合流し、豆腐を入れた鍋を持って城に帰った。
駄菓子屋、最近あまり見なくなりましたね。
ヤッターメンとか十円チョコとか、昔はよく食べてたんですが…。