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「鶏の唐揚げとどう違うんだ」

「んー…。衣がちょっと違うのかな…」

「ふぅん」

「よく分かんないや」

「作ったお前が分からなくてどうするんだ」

「だって、これ、鶏の唐揚げなんだもん」

「………」


ナゲッツとかいうものを、もうひとつ食べてみる。

ふむ…。

やっぱり鶏の唐揚げじゃないのか…?

私には違いが分からない。


「そういえば、祐輔は?」

「あそこにいるじゃないか」

「あ、ホントだ」

「夕飯前に帰ってこいと言ったんだ。帰ってくるだろ」

「んー。まあ、そうだろうけど」

「気になるなら聞いてきたらいいじゃないか」

「えぇ…。そんなの無理だよ…」

「なんで」

「聞きにくいでしょ、そんなこと…」

「そうか?」


ちょうど祐輔がこっちを向いたので、小さく手を振る。

祐輔はそれに気付いて、ご飯と箸を持ってやってきて。

夏月もついてきた。

そして、私の隣に座る。


「お姉ちゃん、どうしたの?」

「ん?いやな。祐輔たちと一緒に食べたいと思って」

「うん」

「ねーね、このからあげ、おいしいよ!」

「そうか。じゃあ、ひとつ貰おうかな」

「うん!あーんして」

「あーん…」

「おいしい?」

「ああ。美味しいよ」


夏月の頭を撫でると、ニコニコと笑って。

やっぱり、この笑顔が一番可愛いな。


「夏月も食べるか?」

「うん!」

「じゃあ、お返しだな。あーんしろ」

「あーん」

「ほら」

「ん~」

「よしよし」

「えへへ」


またニッコリと笑う。

うん。

よしよし。


「…そういえば、祐輔」

「ん?」

「今日は、どうしてオレたちについてきたんだ?習字なら一人で行けただろ?」

「う、うん…」

「何か、別の理由があるんだな」

「うぅ…」

「言いにくいことか?」

「うーん…」

「言いにくいなら言わなくてもいいんだぞ」

「うん…。えっとね、お姉ちゃんたちと一緒に行きたかったんだ…」

「ん?」

「俺な、お姉ちゃんたちと一緒にいたら、ポカポカするんだ。身体の真ん中が。ルウェと一緒にいるときみたいに」

「………」

「でも、お姉ちゃん、いつも忙しそうにしてるから、なかなか声が掛けられなくて…」


忙しそうにしてる、のところで噴き出しそうになった灯の腿をつねる。

灯は足を踏んで対抗しようとしたが、ただ床を強く踏みつけただけだった。


「それで、今日、灯お姉ちゃんと風華お姉ちゃんが、お姉ちゃんと一緒に市場に行くって話をしてたから、ちょうどいいって思って…」

「そうか」

「迷惑…だったかな。せっかくの買い物の時間だったのに…」

「いや、そんなことはないよ。私も、祐輔と夏月と一緒にいたら、心が温かくなる。今日、一緒に来てくれて嬉しかった。でもな、ひとつ、言っておきたいことがある」

「な、何…?」

「これからは遠慮なんてするな。いくら忙しくたって、お前たちがいれば辛くない。でも、お前たちに遠慮されるのは、ただそれだけでも辛いことだ。だから、な?私たちと話したい、遊びたいってときは、私たちのところに来てくれないか?」

「…ごめんなさい」

「ん?」

「俺、お姉ちゃんたちに辛い思いをさせてるなんて考えなかった…。俺は…」

「今、分かったんでしょ?」

「えっ…?」

「お姉ちゃんや私が、辛い思いをしてるかもしれないって、分かったんでしょ?」

「う、うん…」

「じゃあ、次からはそうならないようにしてくれればいいんじゃないかな」

「…うん」

「まあ、そういうことだ」


祐輔の頭をそっと撫でて。

少し複雑そうな顔をしたけど、迷いはないようだった。

…うん。

灯に決め台詞を取られたかんじだけど。

それでいい。



屋根縁に出て、少し夜風に当たる。

赤い月はもう昇らないんだろうか。

カイトに聞けば、何か分かるかもしれないけど…。


「お母さん…」

「望?どうした?」

「ちょっと寒いの…」

「ん?風邪か?こっちに来い」

「んー…」


望はフラフラとやってきて、膝の上に座る。

額に手を当ててみたりするけど、熱はないみたいだし、他に風邪らしい症状もない。


「ん~…」

「どうしたんだ、望?」

「んぅ…」

「………」


そっと、頭を撫でる。

望は眠ってしまっていた。

また怖い夢でも見たんだろうか。

とにかく、今は安心してくれているみたいだ。


「どうしたの?」

「いや、なんでもない」

「そう。…望、また裏のお墓のところに行ってたんだって」

「ふぅん。会わなかったな」

「うん。お昼過ぎに行ったらしいから」

「そうか」

「それで、花の種をいっぱい取ってきて」

「花畑を作るって言ってたな」

「セトに頼んで、広場の端の方をちょっとずつ掘り返して、種を埋めてるみたい。雑草は生えてるから、花も咲くだろうって、カイトも言ってたらしいし」

「まあ、そうだろな。あそこの花も、いちおう雑草だし」

「あはは、そうだね。確かに雑草だ」

「しかし、これで殺風景なただの広場にも、彩りが加えられるということか」

「殺風景は言い過ぎなんじゃないかな。雑草しか生えてないけどさ」

「充分殺風景だよ。…まあ、子供たちが遊んでいたら、殺風景でもないかな」

「うん。一番の彩りだね」

「そうだな」


広場が花畑になるのなら、それはそれでいい。

その広場に、またたくさん子供たちが集まってくれるなら、なおよし。


「綺麗になるといいね」

「ああ。望たちなら、きっと上手くやってくれるよ」

「うん」


今度、花屋に連れていってやるのもいいかもな。

きちんと世話の仕方も教えてもらって。

今から楽しみだ。

ほんのりと温かい望の身体を抱き締めて。

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