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「お姉ちゃん、あれ見て!」

「なんだよ…」

「ほら!あのぬいぐるみ、可愛いよ!」

「買い出しに関係ないよな」

「ないけど…」

「思った通りだな。やっぱり、食材の買い出しは二の次なんだろ」

「うっ…」

「だいたい、西洋の料理を作るからといって、倉庫にまだまだ食材が残ってるのに買い出しなんておかしいと思ったんだ」

「だって、そうでも言わないと、お姉ちゃん来ないじゃない」

「そんなことないだろ。自分の買い物がしたいなら、最初からそう言えよ。なんで、わざわざ嘘をつくんだ」

「嘘じゃないもん。買い出しに来たのは本当だし…」

「買い出しが主じゃないんだろ」

「はい…」

「まったく…」


灯はたまに、こういうことをするよな。

私だって、灯に誘われれば買い物くらい行くのに…。

面倒くさがるのは変わらないだろうし。

…自分で言うと、なんか情けないな。


「とにかく、買い物に行きたいなら最初からそう言え」

「はぁい…」

「で、祐輔はどうしたんだ。お前が巻き込んだのか?」

「えっ?ううん。風華と話してるときに、一緒に行きたいって言うから」

「風華と共謀してたのか」

「共謀なんて人聞きの悪い。作戦を立ててたんだよ」

「はぁ…。風華もお前も、なんで真っ直ぐ言ってこないんだ」

「お姉ちゃん、すぐに嫌そうな顔するもん。外出するって言ったらさ」

「それはそうだけど…」

「だから、気を遣うんだよ。外に連れ出すだけでもね」

「まあ、それはすまないと思うけど…。でも、どのみち同じじゃないか」

「違うの!」

「………」


しかし、なんで私は外出が嫌いなんだろうか。

過ごしやすい住処から出るのが嫌なんだろうか。

縄張りとか住処とか、人の間ではそういう意識は薄いはずなんだけど。

幼少期の経験は大きな影響を与えるということか。

じゃあ、住処は城として、私の縄張りはどこまでなんだ?


「何を考えてるの?」

「いや、私の縄張りはどこまでかを考えてた」

「縄張り?何それ。縄張りなんてあるの?」

「いや、分からないけど…」

「縄張りってあれでしょ?自分が護るべき土地」

「そう…なのかな」

「じゃあ、ルクレィ全体なんじゃないの?お姉ちゃん、衛士長だし。群れの長でしょ?」

「それを言うなら、犬千代が長だけどな」

「でも、ルクレィを護りたいって思うんでしょ?」

「まあ…」

「じゃあ、ルクレィが縄張りだよ」

「うーん…」

「何?」

「見回りもしてないし、本当に縄張りって言えるのかと思って…」

「何言ってるのよ。王さまが変わったとき、すぐに国境の村にみんなを派遣したし、リュクラスの事件も解決したし。充分護ってるよ。狼みたいに、歩いていける範囲だけじゃないんだから。人には人なりの縄張りの護り方があるんじゃない?」

「そう…かな」

「うん」


灯はしっかりと頷いてみせてくれて。

…ありがとう。

少し、自信が持てた気がする。


「ところで、祐輔は?」

「さっき、向こうに行ったけど」

「ふぅん。孤児院に行ったのかな」

「そうなんじゃないか?ちょうどその方向だし」

「じゃあ、またあとで顔を出しに行こっか」

「そうだな。夕飯までには帰ってくるように言わないと」

「もう…。お姉ちゃんって、ホントにそんなのばっかりだよね」

「ん?何がだ」

「わざと?」

「自然体だ」

「はぁ…。昔からだもんね」

「……?」


何が言いたいんだろうか。

夕飯までに帰ってくるのは大切なことだろうに。

ん…?



買い物もそこそこにして、孤児院に向かう。

まあ、また帰りに買えばいいからな。


「なんか静かだね」

「そうだな」

「お昼寝かな?」

「さあな」


いつもならみんなが遊んでる声が聞こえるあたりまで来ても、なんとも静かなものだった。

…どうしたんだろうか。

門の前に着いてみても、誰も遊んではいない。

人の気配はするんだけど…。


「お邪魔しま~す…」

「なんか泥棒に見えるぞ」

「う、五月蝿いなぁ…」

「ほら、早く入れよ」

「お、押さないでよ…」

「別にお化け屋敷じゃないんだから、そんなにおどおどすることもないだろ」

「そうだけど…」


灯の背中を押して、どんどん入っていく。

人の気配がするのはお堂の方からだったので、そちらへ誘導していって。


「ど、どうしたのかな…。お葬式…?」

「葬式なら、もっと人がいると思うけど。それに、ここは廃寺だろ?」

「そ、そうなの?」

「そうだったと思うけど」

「ふぅん…」


お堂に着き、閉じられた障子の前に立つ。

灯はコソコソと中の様子を探ろうとしてるけど。

そっと、障子を開けてみる。

すぐ前に、祐輔が奥に向かって座っていた。


「あ、お姉ちゃん」

「祐輔。…何してるんだ?」

「習字だよ」

「習字?」


確かに、みんな机に向かって座って字を書いている。

一番奥には、見慣れない男が座っていて。

居眠りしてるのか、精神を統一してるのか、とにかくジッと目を瞑って動かない。


「先生、出来たよ!」

「ん?そうか。見せてみなさい」

「うん」


小さな子が、先生の机の上に紙を置いて。

半紙の真ん中に大きく"日"と書いてあって、端に小さく名前が書いてあった。

かなえというらしい。


「そうだね。元気のいい字だね」

「うん!」

「でも、香奈枝ちゃんの名前が小さい。これでは、これは立派な字だけど、誰が書いたのかが分からないということになる。元気のいい字を書くことも大事だけど、名前を元気よく書くのも大切なことだ。次は名前も元気よく書けるように、全体の構図をしっかりと考えてから書きなさい」

「はぁい…」

「…最初に比べて、かなりよくなってきてるよ。香奈枝ちゃん、こんなにちっちゃい字を書いてたからね。この調子で、もっともっと上手くなろうな」

「うん!」

「じゃあ、これは花丸だ」


そう言って、先生は余白に"たいへんよくできました"の判子を押した。

かなえは大喜びで、また席に戻って半紙を広げる。

ふむ、なかなか面白い先生のようだ。

横に置いてあった、半紙を四つに切ったものに何かを走り書きして、少しあたりを見回す。

そして、まずはヤーリェが書く字をずっと眺めていた灯に気付き、次に私に気が付いた。

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