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赤目の横に八色目を置いて。

あたりを見回してみると、いくつか新しい墓標もあった。


「ボクに叩かせて!」

「叩けよ。割るんじゃないぞ」

「分かってるって」


と言いながらも、かなり大きく振りかぶって。

何か嫌な予感しかしないので、とりあえず腕を掴んで止める。


「何するのさ」

「振りかぶりすぎだ。いくら木槌でも、それだけ振りかぶれば割れるぞ」

「むぅ…」

「まったく…」


桐華から木槌を取って、一個叩いてみせる。

軽く叩いただけでも充分で、綺麗に光り始めて。


「これくらいで充分なんだよ。なんで、あんなに振りかぶるんだ」

「だって、一回で光らなかったらイヤじゃない」

「加減というものがあるだろ。しかも、割らないようにって注意してるのに…」

「次は上手くやるから返して!」

「ちゃんとやれよ」

「うん」


今度は少し控えめに。

眉間に皺を寄せてるあたり、何かおかしいとは思ったものの、しばらく様子を見てみる。


「とりゃあ!」


掛け声と共に木槌を勢いよく降り下ろす。

そして予想に違わず、木槌は藍目をかすって横の地面に打ち付けられた。


「だから、なんでそんなに気張るんだよ。普通に叩けないのか」

「だ、だって…」

「はぁ…。次、変なことをしたら、オレが全部やるからな」

「うぅ…。分かったよ…」

「よし。じゃあ、やってみろ」

「う、うん…」


だから、なんでそんな緊張した面持ちなんだ。

ただ叩くだけなのに…。


「よ、よし…」

「………」


木槌を上げて。

確認するように、こちらを見る。

…いいから、早くやれよ。

何回こっちを見るんだ。


「たぁっ!」


そして意を決して振り下ろした木槌は、掛け声の大きさに反して、なよなよとしたもので。

結局、光らなかった。


「ほらぁ!」

「ほらじゃないだろ。お前は極端すぎるんだよ。なんで、地面にめり込むくらい強かったと思ったら、次は蚊も殺せないくらい弱いんだ」

「そんなこと言っても…」

「まったく…。これくらいの力だ」


桐華の手を握って、木槌を振り下ろしてみる。

軽い音がして、藍目が光りだした。


「おぉ、光った」

「光るものなんだから、そりゃ光るだろ。ほら、お前、やってみろ」

「うん」


私の八色目を取ると、さっきのは何だったのかと思うくらい、すんなりと叩いて。

また軽い音がして、赤色に光り始める。


「なぁんだ。赤色だったね」

「ちょうどいいじゃないか。母さん、赤色が好きだったし」

「よ~し。ボクは白色を目指して」

「目指すも何も、もう色は決まってるんじゃないか?」

「夢のないこと言わないの!」


そう言いながら、コツンと叩く。

すると、八色目は淡く緑に光りだす。


「なぁんだ。緑色かぁ…」

「いいじゃないか。何色でも」

「白色があるなら、それを見たいじゃない。珍しいっていうなら尚更」

「珍しいものを簡単に見られると思うなよ」

「そりゃ、そんなことは思ってないけどさ。でも、見たいじゃない」

「そうでもないけど…」

「なんだ。紅葉って夢がないんだね」

「悪かったな」

「うん。悪い悪い」


神妙に頷く桐華。

…そりゃ、期待しないわけじゃないけどさ。


「あれ?ねぇ、ちょっと見て」

「なんだ」

「さっき、緑だったよね」

「ああ」

「ほら。橙になってる」

「そうだな」

「なんで?なんで?」

「まあ、しばらく待ってみたらいいんじゃないか?」

「う、うん…」


淡い色だとは思っていたが、そういうことだったのか?

まあとにかく、しばらく様子を見ることにする。

色は少しずつ変化していって、次は紫色に、次は赤色に。

それに合わせて、桐華の表情も刻々と変化していってる。

…こっちの方が面白いかもしれない。


「あ、あれ?色が消えたよ?」

「じゃあ、それで終わりなんじゃないのか?」

「えぇ…」

「さっさと済ませて帰るぞ」

「えっ、もうちょっと待ってよ!」

「…気になるなら持って帰ればいいじゃないか」

「そんなのダメだよ。墓標は、ボクたちがここに来たって証なんだから」

「お前、大雑把なくせに細かいことを気にするんだな」

「全然細かくないよ!大切なことだよ!」

「でも、それを言うなら、藍目もあるんだし別にいいだろ」

「よくない!」

「耳元で叫ぶな…」

「変化があるまで、ずっとここにいる」

「はぁ…。分かったから、やることはやっておこうか」

「うん」


桐華は頷いて。

そして、藍目と光らなくなった八色目を目の前に置いて、目を瞑る。

私も同じようにして。

…お母さん、みんな。

ごめん、なかなか来れなくて。

こっちは元気にしてるから、心配しなくていいよ。

まあ、これからは、ちょくちょく顔を出すことにする。

たぶん。

忘れてたら、報せてくれたらいいから。

そのときはまた、誰かと一緒に来るからさ。


「もういい?」

「ああ」

「じゃあ、いっせーのでいくよ?」

「合わせる必要はないじゃないか…」

「いいの。じゃあ、いっせーの!」


赤目を取って、花畑の真ん中に向かって投げる。

示し合わせたわけではないけど、桐華の投げた藍目と当たって高い音を響かせて。


「もうひとつもいくよ。いっせーの!」


次もまた、桐華のと当たった。

…これでよし、と。


「あ、見て!」

「ん?」


桐華の八色目がぼんやりと光り始めて。

徐々に強くなっていく。


「わっ、ほら!」

「見てるって」


桐華の八色目は、強く白く光る。

なぜだか分からないが、とても懐かしいかんじがした。

…なんでだろうな。

温かい、光だった。

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