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「わぁ、この子の頬っぺた、柔らかいよ!」
「起こすなよ。あと、こいつの名前はルウェだ」
「ふぅん。ルウェ」
「ナナヤ、今日は仕事はなかったの?」
「うん、まあ。望がお花畑を作りたいとか言うからさ、ちょっと一緒に見てきた」
「どこを?」
「お城の裏のところだよ。灯と縁さんもいたけど」
「ふぅん…」
「何?紅葉お姉ちゃん、何か知ってるの?」
「いや、別に」
「……?」
「それで、どうだったの?」
「ん?あぁ。綺麗だったよ」
「普通の感想を聞いてもつまらないんだけど」
「そんなこと言われても…。あ、そうだ。いろんな花があるな、とは思ったよ。あんなにいっぱいの種類の花が咲いてるところなんて見たことないし」
「ふぅん?」
「あそこは不思議な場所なんだ。ナナヤの言う通り、たくさんの種類の花が咲いてるし、一年中いつ行っても花が咲いてるんだ」
「冬でも?」
「ああ」
「へぇ…。なんか変なかんじ…」
「そうだな。でも、世界にはそういうところがポツポツと点在してるらしい。カイトに聞いた話なんだけど」
「ふぅん…」
「ああいうところは、龍脈が噴き出しているのだ」
「わっ、ビックリした」
屋根縁にカイトが降りてきた。
いつも通り火の粉を振り落とすと、ナナヤの方を見る。
「ふむ。カシュラのとき以来か?」
「何回か、空を飛んでるのは見たけど」
「なんだ。ナナヤ、カイトのこと知ってたんだ」
「知ってちゃ悪い?」
「だって、つまんないじゃん。ビックリしてるのを見たいのに」
「それは残念でしたね」
「ふむ。上手くやっているようだな」
「当たり前でしょ」
「そうやって胸を張れるのは好ましいことだな」
「そ、そうかな」
「自信を持つというのはいいことだ」
「ナナヤは自信の塊だからな」
「それはない」
「なんだ、つまらん」
「もう…。じゃあ、紅葉お姉ちゃんは、私に何を望むの?」
「ナナヤがナナヤらしくあることを望む」
「むぅ…」
「ははは。一番難しいことかもしれないな」
「まあ、それはいいとして…」
「風華、それはいいって何よ!」
「龍脈って何なの?」
「完璧に無視されたな」
「風華!」
「だって、ナナヤのことよりも気になるんだもん」
「うっ…。それは言えてる…」
「何か反論しろよ…」
「もっともなことだもん…」
「まあ、龍脈の説明はかなり難しい」
「カイトにも無視されてるぞ」
「うぅ…」
「私は無視をしているわけではない。私が答えを持っていないことには答えられないというだけだ。それなら、答えを持っているものを優先しようと考えたまでであって…」
「分かった分かった。続きを話してくれ」
「うむ。説明はかなり難しいが、まあ、その土地が持つ気質と気の流れ…というのが一番しっくりとくるかもしれない」
「土地によって気質が違うの?」
「それはそうだろう。鉱石が出やすい土地、肥沃な土地、その他にもいろいろな土地がある。それは、たいがいは龍脈と深い関わりがある」
「ふぅん…。どんな場所にも龍脈はあるの?」
「ああ。大小の違いはあれど、龍脈のない土地などない」
「なんで分かるの?」
「私たちは、確かにそこにあると感じることが出来るからだ」
「どこにでもあるのに?」
「さっきも言ったが、各地で大小の違いがある。その濃度勾配を感じ取ることも出来る。また、龍脈の濃い場所にはたいがい、街や大きな森など、特徴的なものがあるのだ」
「えっ?じゃあ、この辺も…あっ」
「そうだ。この城のすぐそこに、大きな源泉がある」
「ふぅん…。じゃあ、ルイカミナとかヤマトとかも…」
「ルイカミナは街のちょうど中心に、東西南北四つの龍脈が交わる場所がある。ヤマトは、街を囲むように太い龍脈が通っているな。あとは、リュクラスやヤクゥルなんかにも大きな龍脈が通っている」
「へぇ…。龍脈か…」
風華は手近にあった筆と紙を取って、何かを書き始めた。
さっきの話を、忘れないうちに書き留めているんだろう。
「はぁ、ビックリしたぁ」
「何がだ」
「だって、風華、怒濤の質問攻めだったじゃない」
「何かを知りたいと思うのは、意識的にしろ無意識的にしろ自分の無知を知覚しているからだ。無知であるからこそ、変に考えたりせずに思ったことをそのまま素直に質問としてぶつけることが出来るのだ。それは聡明であることの証であり、兆しである」
「へぇ。じゃあ、風華は賢いってこと?」
「さあな。それは、その者次第だ。風華がどう活かすかに掛かっている」
「風華、頑張って有効活用してね!」
「ナナヤ、ちょっと五月蝿い」
「はい、すみません…」
怒られてショボーンとするナナヤ。
でも、風華は脇目も振らず、さっきの話を書いていて。
カイトも興味深げに覗き込んでいる。
「ふむ。なかなかよくまとめられてあるな」
「………」
「ほぅ」
「………」
「なるほどな。しかし、少し違う」
「えっ?どう違うの?」
「龍脈の濃い場所にだけ街や森が見られるのではない。薄い場所にも、龍脈の気質によっては街や森が出来る。特に水の龍脈ならば、少量でも充分その可能性はありうる。逆に、水の龍脈が濃すぎると滝や湖沼になってしまうこともあるからな」
「なるほど…」
それから、また何かを書き留める。
…あとで見せてもらおうかな。
ナナヤはもう諦めてるかんじだけど。
まあ、しばらくは空を眺めていよう。