252
「んー」
「ん?どうした」
「狼の姉さまは、なんで銀色の髪なんだ?」
「さあな。生まれつきだから分からないな」
「ふぅん。自分の髪も生まれつきなんだぞ」
「ああ。綺麗な髪だ」
「えへへ」
遠足に行ったときよりもかなり伸びたルウェの髪は、ところどころに蒼色が混じっている。
龍特有のものだけど、そういえば響は真っ黒だし、光は真っ白だし。
リュウだけが、ルウェと同じだな。
「お前もヤーリェと一緒に行かなくてよかったのか?せっかく昼ごはんの味見が出来たのに」
「ううん、いいんだぞ。自分は、お腹空いてないし」
「そうか」
「うん」
「…オレといて、つまらないんじゃないか?」
「なんで?」
「面白いことも話せないし」
「充分面白いんだぞ」
「それならいいけど…」
「うん」
膝の上から離れないルウェの頭を撫でると、ゴロゴロと喉を鳴らして。
それから、満足そうにため息をつく。
「狼の姉さまは、幽霊が見えるの?」
「ん?どこで聞いたんだ?」
「んー?」
「…まあ、確かに幽霊は見えるよ。そんなに頻繁に見えるというわけでもないけど」
「ふぅん」
「ルウェは、幽霊が見えるようになりたいと思うか?」
「んー、分かんない」
「そうか」
「でもね、幽霊が見えたら楽しいかなって思うことはあるんだぞ」
「ほぅ」
「一人でお留守番をしてるときとかにね、悠奈と七宝と一緒にお話ししたりするのもいいけど、やっぱり、みんなで集まってお話しする方がもっと楽しいかなって」
「一人で留守番?そんなときがあるのか?」
「うん。風邪を引いたりしたら、みんなお薬を買いに行ったり、ごはんを作ってくれたりして、一人になることがあるの」
「そうか…」
「でも、幽霊がいたら、ちょっと寂しくなくなるかなって思うんだ」
「そうだな。寂しくなくなるな」
「うん。だから、見えたらいいなって思うこともあるんだぞ」
「そうか」
風邪を引いたときか。
私も、灯に移さないようにと部屋を隔離されたときは寂しかったな。
そういえば、ときたま霊が枕元に立っていたときがあった。
あれはもしかして、私を心配してくれていたんだろうか。
それとも、別の何かか。
あのときは、どう思ったんだったかな。
弱っていて、何も考えられなかったのかもしれない。
「風邪を引くとね、いつもお粥なんだ」
「まあ、消化にいいものを食べないといけないしな」
「なんで?」
「身体が弱ってるのと同じように、お腹も弱ってるんだ。だから、少しでもお腹に優しいものを食べて、しっかり体力を付けて、早く風邪を治すんだ」
「ふぅん」
「お粥は嫌いか?」
「ううん。好きだよ」
「そうか」
「うん。ヤーリェがね、食べさせてくれるの。あーんってして」
「はは、そうか。それはよかったな」
「うん。だからね、自分もヤーリェが風邪を引いたときはやってあげるんだけど、ときどきちゃんと冷ませてなくて、火傷しちゃうんだ」
「それは大変だな」
「うん…。でもね、ヤーリェは嬉しいって言ってくれるんだぞ」
「そうか」
「うん。ヤーリェみたいに上手く冷ませないんだけど、次はもっと頑張ろうって思うの」
「そうか。それはいいことだ」
「えへへ」
ルウェの頭を撫でると、可愛い笑顔を見せてくれる。
お粥か。
小さい頃、灯が母さんの見よう見真似で私に食べさせようとしたときは危なかったな。
大火傷をするところだった。
ちゃんとやり方を覚えてからは、上手く食べさせてくれたけど。
そういえば最近、風邪なんて引かなくなったからやってないな。
頼んだらやってくれるだろうか。
…無理かな。
「誰も来ないんだぞ」
「みんな、仕事があるからな」
「どんな仕事をしてるの?」
「そうだな。城の見回りだとか、市中の見回りだとか」
「ときどき、自分の家のところにも来るんだぞ。お元気ですかって。白い服の人が」
「ああ、そいつが市中見回りだろうな。どうだ。どんなことをしていた?」
「んー。お茶を飲んで、お菓子を食べて、みんなといっぱいお話しして、それから、さようならって帰っていくんだぞ」
「ふぅん…」
休憩場所として使っているのか…?
とにかく、孤児院にいる間は仕事をしてるようには思えないな。
しかも、お茶や菓子の世話にまでなってるとは…。
注意しておく必要があるかもしれない。
「ん~」
「どうした?」
「狼の姉さま、とっても温かい」
「そうか?」
「うん」
「こうしたら、もう少し温かくなるかな」
ルウェを後ろから抱き締める。
すると、ルウェは嬉しそうに足をパタパタさせて。
「えへへ」
「ルウェも温かいな」
「えっとね、人の温かさは、その人の温かさなんだって」
「ん?どういうことだ?」
「狼の姉さまが誰かを温かいって思ったら、それは狼の姉さまの温かさなんだよ」
「そうなのか?」
「うん。ヤーリェが言ってた」
「そうか」
「だから、狼の姉さまは温かいんだぞ」
「いや、この温かさはルウェの温かさも含まれている。ルウェの優しさも」
「優しさ?」
「ああ。ルウェは優しい子だ」
「えへへ、そうかな」
「そうだ」
もう一度、ルウェを抱き締める。
そうだ。
この温かさはルウェの温かさ。
ルウェの優しさだ。