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「うーん…」

「ほら見ろ、風華。何も考えずに、連れてくるだけ連れてきて」

「ごめんなさい…」

「まったく…」


利家はため息をつきながら、ヤーリェと、なぜか一緒についてきたルウェに布団を掛ける。

カイトも少し呆れ顔。


「で、でも、姉ちゃんの目も治ったんだし、いいじゃない」

「正当化しようとするな」

「うぅ…」

「それより、もう洗濯の時間だろ?行かないと」

「そうだけど、紅葉は少なくとも今日一日は安静にしてろ。何が原因か分からない以上、下手なことはさせられない」

「月光病が一時的に進行しただけじゃないか。どこも悪くなってないんだから…」

「じゃあ紅葉は、今回の気の乱れが、洗濯やその他日常生活の何かに起因するものじゃないと言い切れるのか?」

「それは…」

「それなら、許可は出来ない。今日一日安静にしてろ」

「…分かったよ」

「ああ。それでいい」

「でも、今日は墓参り…」

「延期しろ。病人の無理を押して、墓に来させる人なんていないよ」

「でも、すぐ城の裏だし、墓参りくらい…」

「今日一日様子を見て、何もないようであれば、明日にまた行けばいいじゃないか。それ以上のことは、何であろうと許可出来ない」

「はぁ…。分かったよ…」

「うん。じゃあ、カイト。紅葉のこと、ちゃんと見張っておいてくれよ」

「承知した」

「食事はまた持ってくるよ。あと、厠くらいなら行ってもいいから」

「医療室と厠の往復生活か…」

「抜け出そうなんて考えるなよ」

「分かってるって…」

「まあ、そんなところかな。風華、行くぞ」

「うん」


そして、利家は部屋を出ていった。

風華はしばらく廊下の様子を窺ったあと、こちらに戻ってきて。


「兄ちゃんね、姉ちゃんのことが心配なんだよ。キツいことばっかり言うけど」

「分かってる」

「うん。…じゃあ、行ってくるね」

「ああ」


軽く手を振ると、風華も部屋を出ていく。

…私のことを心配している、か。

なんでだろうな。

心地良いと思ってしまうのは。

不本意だとはいえ、みんなに迷惑を掛けているのに。


「ふむ。しかし、原因は何なのだろうな」

「さあな。でも、昨日は母さんとたくさん話したから」

「霊体と接触しすぎたために気の流れが乱れた?まあ、あり得ない話ではないかもしれない」

「母さんはお節介だったからな」

「ふむ。ありがた迷惑ということか」

「ありがた迷惑か…。そういうの、多かったよな…」

「霊を感じることが出来る分、お前は死者と身近に生活しているわけだが。…懐かしいか?」

「そうだな。懐かしいよ。もう…二年も話してなかったから」

「そうか。もう二年になるのか」

「ああ」

「では、お前が衛士長になって三年というわけか」

「そう…だな、そういえば」

「この三年で、見違えるほどに成長したな、お前は」

「そうか?私は分からないけど…」

「自分の成長は、自分ではなかなか分からないものだ」

「ふぅん…」

「大きく成長したよ、お前は」


カイトは、身体を震わせて火の粉を落とす。

…成長、か。

私自身は分からない。

でも、成長しているらしい。

不思議な気分だ。


「そうか…。一葉が帰ってきたのか…。二年…」

「どうしたんだ?」

「いやな。また挨拶に行くのもいいかと思って」

「お前も、母さんが見えるのか?」

「霊と私たちは似た波長を持っているらしいのでな。よく話をしたりもする」

「へぇ…」

「お前の霊とは特に話が弾むよ。やはり、お前といるときは退屈をしない」

「オレの霊?背後霊でも憑いてるのか?」

「そんなところだな」

「ふぅん…」

「…あまり怖がらないのだな」

「そういう反応が見たいなら、灯に話すことだな」

「ははは。そうだな、そうするよ」

「…それで、オレの背後霊というのはどんなやつなんだ?」

「ん?まあ、そうだな。聡明でお淑やかなやつだ」

「なんで、オレに憑いてるんだよ」

「さあな。本人も教えてくれないのでな」

「オレに見えないのは?」

「背後霊というのは、えてして内気なやつばかりなのだ。お前なら見えるだろうが、よっぽどでないと姿を見せないだろうな」

「…つまり、お前が嘘をついてたとしても、内気なやつだからと言い張れば、オレには絶対に分からないわけだ」

「はは、確かにそうだな。まあ、信じるか信じないかは、お前次第だということだ」

「本当かどうか言ってくれてもいいだろ」

「その真偽をどうやって確かめるのだ。お前自身が今、私がもし嘘をついていても分からないと言ったのだろう」

「それはそうだけど…」

「では、私がどうしようとも、お前の信用に足る答えは出せないな」

「むぅ…」

「ふふふ。お前もまだまだ青いということだ」

「はぁ…。全くその通りだな」

「ふふふ」


カイトは楽しそうに笑う。

私は全く面白くないんだが。


「ふむ。では、墓に行ってくるとしよう」

「オレも…」

「それは無理な相談だ。利家にも言われているのでな」

「それなら、お前もそうじゃないか。オレを見張るように言われてただろ」

「ふむ。そうだったな」

「オレが行けないなら、お前も同じだ」

「そうだな。…では、もう少し、話していくとしよう」

「はぁ…」


元気は有り余っているのにな。

原因が分かった今、こうやって過ごす意味もない気はするのだが…。

まあ、仕方ない。

今日もゆっくりと過ごすこととしよう。

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