表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
250/578

250

少し、目を開ける。

まだ日の出までは時間があるようだ。

もう一度、目を瞑る。

そういえば、今日は墓参りに行く約束だったな…。



何か音がしたので目を開ける。

…日の出はまだなのだろうか。

さっきから、だいぶ時間は経ったように思うけど…。

とりあえず身体を起こして、周りの様子を探ってみる。


「あ、姉ちゃん。おはよ」

「えっ?」

「え?」

「風華、早いな」

「どういうこと?」

「え?」

「えっ?」

「………」

「どうしたの、姉ちゃん」

「今、何時くらいだ?」

「卯の二つくらいだと思うけど…」

「卯の二つ…?」

「わっ、どうしたの、その目?」

「目…?」

「夜みたいに真っ赤」

「………」

「ねぇ、もしかして…」

「目が…見えない」

「えぇっ!?」

「………」

「た、大変だ…。兄ちゃん呼んでくる!」


…どういうことなんだ?

なんで…なんで見えないんだ…?


「んぅ…。お母さん…。どうしたの…?」

「光?光、そこにいるのか?」

「うん…」

「光…!」

「むぅ…。ちょっと、苦しいよ…」

「あ、あぁ…。ごめん…」

「どうしたの?」

「心配ないからな。心配ない…」

「うん」


思わず、光を抱き締めてしまった。

怖い…怖いのか…?

見えなくなることが…。

昼も、夜も。

私は…私は…。


「大丈夫、大丈夫だよ、お母さん」

「えっ…?」

「大丈夫だからね」

「…ああ。そう…だな」


光に頭を撫でられて。

ようやく落ち着いてきた。

そうだ…。

大丈夫、大丈夫…。


「姉ちゃん!」

「シーッ。静かに。紅葉、医療室まで行くぞ」

「あ、ああ…」

「あっ、光。起きてたの?」

「うん」

「まだちょっと早いから、もう一回寝ててもいいんだよ?」

「うん。そうする」

「ごめんね」

「ううん」

「じゃあ、行くぞ」

「わっ、うわっ」


利家に抱え上げられる。

前にもこういうことがあったけど、やっぱりこれは恥ずかしい…。

見えないと余計に、誰かに見られてる気がして…。

医療室までの短く長い道のりを、一気にゆっくりと駆け抜けていく。

そして、ガラリと戸を開ける音がして、薬の匂いが濃くなった。


「下ろすぞ」

「あ、ああ…。早く下ろしてくれ…」


布団の上に寝かされる。

向こうの方でガサガサと聞こえるのは、風華が薬棚でも漁っている音だろうか。


「ちょっと調べるからな。…瞳孔反射はあり。体温…正常。脈拍…正常だな。心音と呼吸音を調べるから、着物を脱がせるぞ」

「え、えぇっ?」

「…風華。心音と呼吸音を頼む。あと、薬棚を漁っても何も出てこないぞ」

「で、でも…」

「心音と呼吸音を頼む」

「う、うん…。じゃあ、着物を脱がせるからね…」


着物の上を脱がされていく。

それから、聴診器の冷たい感触。

…最初のこの冷たいのは、なかなか慣れないものだな。

いつでもビックリしてしまう。


「両方とも正常。鬱血や浮腫もなし」

「いたって健康、というわけか」

「…着物、戻していいか?」

「あ、あぁ…。ごめん…。じゃあ、戻すね」

「………」

「ねぇ、兄ちゃん…」

「うーん…月光病、だろうな。瞳の色から見るに」

「でも、もう朝だよ…?」

「うーん…」

「柚香と同じだな」

「わっ、ビックリした」


医療室の屋根縁にカイトが降りてきたらしい。

翼をはためかせる音が聞こえた。


「柚香ちゃんと一緒か…。じゃあ、これも月光病なの?」

「さあな。しかし…柚香とは違い、気が乱れているようだ」

「気?何それ?」

「ふむ…。必要なのは闇か…」

「ねぇ、何の話?」

「たしか、闇の気質を持った者がいたように思うが…。誰であったか…」

「カイト!」

「ん?あぁ、すまない。どうした」

「気とか闇とか、それって何なの?」

「気は、その者の気質の流れだ。闇は気質の種類。また、気質というのは、その者が持つ性質だ。この気質だからどう、ということはないのだが、たとえば闇の気質を持つのであれば、闇の眷族を引き寄せやすくなる、というようなことがある」

「闇の眷族?」

「"日の神"ヤンリォに属する者だ。ヤーリェなどが、これにあたるな」

「ヤーリェ?孤児院に同じ名前の子がいるけど…」

「おぉ、そうだ。あそこの孤児院にいたな。ふむ。あの子が闇を気質を持っていたのだ」

「えっ、じゃあ、ヤーリェを呼んでくればいいの?」

「そうだな。闇の気質があれば調律出来るだろう」

「兄ちゃん、行ってくるね!」

「あ、おい、待てって!朝も早いんだから、迷惑を考えろよ!」


何はともかく、部屋を飛び出す風華。

そして、それを追う利家。

…ふむ。

またカイトと二人っきりになってしまったな。


「それで、月光病が進行したわけじゃないんだな?」

「まあ、気の乱れによって、一時的に進行したと考えるのが妥当だろうな。…月光病については、私もよくは知らないのだ」

「ふぅん…」

「ルィムナや、あるいは、シフなどは知ってるやもしれん」

「ん?ルィムナは分かるが、シフが知っているとはどういうことだ?"零下の氷剣"だろ?」

「ああ。しかし、シフはかつて光の眷族だったのだ。シフの容姿を知っているか?」

「明るい灰白色の、巨大な狼か?」

「巨大は言い過ぎかもしれないが。しかし、何か思わないか?」

「そう言われてみれば、ルウェに似ているかもしれない」

「ああ、そうだ」

「でも、ルィムナもルウェもシフも、伝説や伝承の話でしかないだろう。そういったものにすがる気はないのだが」

「ははは、そうか。しかし、私は何だ。世にも珍しい、喋る火の鳥か?」

「他に何がある」

「私も、そういった伝説の一人だと言えば信じるか?」

「…まあ、信じない理由はない。事実、お前はいろんなことを知っているからな」

「ふふふ。知識の層は歳の層、ということか」

「まあ、そうだけどな。そもそも、不死鳥自体が伝説なんだ。目の前に伝説がいるのに、その伝説を信じない手はない」

「ふむ。そういう考え方もあるか」


何か、いたく感心しているみたいだけど。

…前にもあった気がするな、このやり取りは。

あれはいつだったか…。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ